テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第5話
nmmn
rtkg
学パロ
付き合っている設定
ktmが出てきます(当て馬?usmのライバル的な存在として)
第4話の続き
体育祭が終わり、校舎の一角に設けられた集会室では、クラス打ち上げの声が飛び交っていた。
机を囲んでジュースや菓子が並べられ、部屋中に笑いと歓声が満ちている。全力を出し切ったあとの疲労感と高揚感が混ざり合い、どこかふわふわとした空気が漂っていた。
カゲツは窓際の席に座り、紙コップを両手で持ちながら辺りを眺めていた。頬は少し紅潮し、汗を拭った髪が額に張り付いている。――周囲からは、その姿に自然と視線が集まる。
「叢雲、おつかれ! 今日すごい頑張ってたな」
「細いのに速ぇよな」
「さすがクラスのエースだわ」
軽い冗談交じりの称賛に、カゲツは困ったように微笑んで返す。
だが、そんな彼の周りをひときわ強い視線で囲んでいる人物がいた。
――北見遊征。
一つ下の学年の走者で、今日リトと競り合った男。長身で目鼻立ちがはっきりしており、笑えば人懐っこさを感じさせるが、その眼差しはどこか獲物を狙う獣のように鋭い。
「カゲツさん、隣いいですか?」
「え、あ、うん……」
断れずに頷くと、北見は当然のように席を詰めて座った。距離が近い。
紙コップを手にしたまま、カゲツは背筋を固くする。
「今日のリレー、惜しかったですね。もっと伸びると思います。」
「……そう、かな」
「細いからってバカにされがちだけどさ……俺は、そういう華奢なの、悪くないと思います」
耳元に落とされた低い声。
カゲツは心臓が跳ねるのを感じ、慌てて視線を逸らした。
その瞬間。
「おい、そこ。楽しそうだな」
低く、しかし確かに届く声が割り込む。
振り返ると、リトが立っていた。背の高い影が蛍光灯を遮り、周囲の空気が一気に緊張する。
「宇佐美……」
カゲツが小さく名を呼ぶと、リトは一歩踏み込み、北見の正面に立った。
「叢雲の隣、俺の席だから」
「は? 別にいいだろ。先輩と喋ってただけです」
「後輩なら距離をわきまえろ。……近すぎんだよ」
低い声に、周囲のクラスメイトがざわりとする。
まるで睨み合う二人の間に、見えない火花が散っているかのようだった。
北見は挑発的に口角を上げる。
「じゃあ、リトさんこそなんなんだよ。そんなに独占したいなら……やっぱ付き合ってんですか?」
空気が凍りついた。
クラスメイトの数人が一瞬言葉を飲み込み、視線を交わす。
リトの拳がわずかに震えた。言い返すべきか、はぐらかすべきか。
しかし――。
「……やめてよ、北見くん」
カゲツが声を発した。か細いが、しっかりとした響きを持っていた。
「俺たちは……そういう話をここでするつもりないから」
北見の瞳が揺れる。
リトは一瞬驚き、そしてカゲツを守るようにその肩へ手を回した。
「聞いたろ。こいつが嫌がってる」
「……チッ」
北見は舌打ちし、椅子を引いて立ち上がった。悔しげに笑い、そして背を向ける。
*
打ち上げが解散し、夜風が涼しさを運ぶ頃。
帰り道、ふたりきりになった瞬間、カゲツはリトの腕を小突いた。
「あんな堂々と、ぼくのこと庇わなくても……」
「放っておけるわけねぇだろ。あいつ、カゲツに気がある」
「だからって、バレたら……」
「もう構わない。俺はお前が好きだって、堂々と言いたい」
立ち止まり、見上げる瞳。
カゲツの頬が夕闇の中で赤らみ、やがて小さく呟いた。
「……ぼくはまだ、言えない。けど……リトがそう思ってくれるのは……嫌じゃない」
その言葉に、リトの胸の奥で熱が膨らむ。
彼はそっとカゲツの頭を撫で、囁いた。
「じゃあ、俺が守る。何があっても」
風に揺れる髪の下、カゲツの目が潤み、微かに笑った。
――その笑顔こそ、誰にも渡したくない。リトは改めてそう心に誓った。