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「はーい、今日もお疲れ様でした!」
「「お疲れ様でした!」」
時間は19時過ぎ。
ルークとエミリアさんも宿屋に戻り、私たちは夕食を囲んでいた。
「今日はどうでした?」
私の質問に、最初に答えたのはルークだった。
「私は武器屋の方に行っていたのですが……ちょっと色々ありましたね」
「色々?」
「はい。武器屋がある通りで騒ぎがありまして……」
「騒ぎって、もしかして爆発事故?」
「いえ、そういうのではなくて……。
子供と大人が揉めていたんです」
「へぇ……?」
……んん?
子供をいじめる大人……ってこと?
「大人の方は、感じの悪い大男でした。
仲裁に入って話を聞いてみると、その子のおじいさんが鍛冶屋をやっていて、それを大男に笑われたのだとか。
ナマクラな武器しか作れない、腕の悪い職人だ……と」
「はぁ……。
その人も大人げないね」
「子供に難癖付けるなんて、大人失格ですね!」
私の言葉に、エミリアさんも同意してくる。
「結局、その子をおじいさんの鍛冶屋まで送って行くことになったんです。
その後はそこで、色々と武器を見せてもらいました」
「そうなんだ? 何か良い武器はあった?」
「いえ、見せてもらったものは少し特殊な武器だったんです。
いわゆる魔法剣士……という方用の武器でして、魔法なしで使うとナマクラと呼ばれても仕方ない斬れ味なんです。
ただ魔法を乗せてこその武器なので、それを考えれば素晴らしいものでしたね」
「魔法剣……! そういうのもあるんだね」
「はい。剣に魔法を乗せる際、魔力が流れる経路を作ると、その伝わり方に無駄がなくなるんです。
もちろん普通の武器にも魔法は乗せられるのですが、魔力の消費がどうしても大きくなるんですよね」
「それって、魔石スロットにも通じるところがあるんですよ」
エミリアさんが、ルークの話に乗っかってくる。
「魔石スロットって、単純に武器にくっついているわけではないんです。
構造的なところを言いますと、魔石スロットの部品から植物の根みたいな感じで、武器本体に向けて力の経路が伸びているんです。
それは魔石スロットが多いほど複雑になるので、作るのも難しくなって、それで高価になっちゃうんですよね」
「へー」
「だから、アイナさんの持ってる魔石スロット5つの杖っていうのは……それだけでかなりの値打ちものなんですよ」
「な、なるほど……。
アイーシャさんに、改めて感謝をしなければ……」
「逆に言えば、それをもらっちゃえるほどアイナさんが良いことをした……ってことなんですよね。
わたしも、そのアイーシャさんという方にお会いしたかったです」
「そうですね、機会があれば――
……あるのかな? もしあれば、紹介させて頂きますね」
「うぅ……、クレントスの方なんですよね?
機会は無さそうですが、もしあったらよろしくお願いします……」
エミリアさんはしょんぼりしながら、サラダをつつき始めた。
それにしても、魔法を乗せる剣……か。
加えて、魔力が流れる経路――
……何だか、神器を作るときにも関わりそうな情報じゃない?
神器は色々な力を宿しているから、もしかしたらそっちの知識も必要になるかも……?
でも私は『工程省略<錬金術>』があるし、そこら辺は飛ばせるのかな……?
――ああ、もう!
スキルは持ち合わせているのに、知識が追いつかないこの歯痒さ!
「ねぇねぇ、ルーク。
私も機会があれば、その魔法の剣……の鍛冶屋さんに行ってみたいなぁ」
「興味がおありですか?
それでは、依頼を受けなかった日にでも寄ってみましょう」
「うん、そうだね。そのときは案内をよろしくね」
「はい」
「――それで、エミリアさんはどうでした? 今日は何かありましたか?」
「はい。今日はばっちり勝ちました!」
……勝った?
「え? 勝ったって――」
「……!!
あ、いえ、ばっちり買いました!」
え、あれ? ……聞き間違えたかな?
「そうなんですか? 何を買ったんですか?」
「えっと、服を――
あ! いえ、本を買いました!」
……どっち?
「服は――」
「服は買ってません!」
「そ、そうなんですね? それじゃ、本を買ったんですね」
「はい、本を買いました!」
……何か怪しいんですけど? ……まぁいっか。
「ちなみに、何の本を買ったんですか?」
「この辺りの伝承に関する本です」
「へー」
私が興味を示すと、エミリアさんは鞄の中から小さな本を出して見せてくれた。
中を見てみると、やはり鉱石や宝石、鍛冶に関することが多く載っている。
ちなみに本の中身はすべて手書きで……割と薄い本だけど、それなりの値段はしそうだった。
「なるほど、色々載ってますね。
まさにミラエルツ、って感じです」
「そうなんです!
土地に根差した文化や伝説を調べてみるのも面白いものですよ」
「ふむふむ、確かに。ところで今日は、ずっと本を見ていたんですか?」
「え? ……あ、そうですね。
後は聖堂とかに寄って……はい、そんな感じでした!」
「なるほど……」
「それで、アイナさんは今日は何をしていたんですか?」
エミリアさんの話が終わると、そのまま話題がこちらに向いてきた。
「鉱石の関係ということで、鉱山に行ってきました」
「鉱山ですか? アイナさん、鉱石が好きですね……」
「いえ、エミリアさん。アイナ様は勉強熱心なのです」
ルークがしれっとフォローしてくる。
でも今はそういうの要らないから……あ、いや、鉱石好きと言われるよりはマシか。
「それで、中には入ったんですか?」
「はい。最初は外で見ていただけなんですが、崩落事故が起きまして」
「「え!?」」
「それで怪我人が出たので、ポーションを出してお手伝いしました。
生き埋めになった人を助けたりもしましたよ」
「ははぁ……。何とも凄いことをしていたんですね……」
「さすがアイナ様。お休みの日にまで人助けとは……」
エミリアさんは驚き、ルークは何やら感動している。
いやいやルーク君。そこは感動するところじゃないよ? ただの偶然だからね?
ちなみに大雑把に話してしまったけど――
……ナイフで斬り付けられたことは、言わない方が良いよね?
話が大きくなってしまいそうだし。
「それと……崩落が起きる直前に、坑道の奥で爆発音がしたんですって。
冒険者ギルドの爆発事故と、何か関係あるかも……って話が出ましたね」
「だから私の話のときに、爆発事故のことに触れられたんですね」
ルークはなるほど、といった感じで頷いた。
「何だか物騒な話ですね……。
でも、アイナさんが巻き込まれなくて良かったです」
「そうですね、ひとまず無事に戻れて良かったです。
……あ、そうだ。その鉱山で、ジェラードさんが働いていたんですよ」
「え? ジェラードさんって……この前、ルークさんが退治した男性ですか?」
「変なことはされませんでしたか?」
ルークは真面目な顔でこちらを見てくる。
……もう、心配性なんだから。
「ううん。真面目に仕事をしていたし――」
……それに、襲われたときには助けてくれたし。
おっと、これは言わないでおこう。
「帰りはここまで送ってもらったんですけど、ずっと静かでしたね」
それを聞いて、二人とも『え?』という表情を浮かべた。
……うん、気持ちは分かるけど。
「その後は、自分の部屋で錬金術のあれこれをやってましたね。
それで――」
「ふむふむ」
「……あ、いや。
食堂ではしにくい話だから、後で私の部屋でお話をさせてください」
……ここからは、軽いノリで作ったダイアモンド原石の話をしないとね。
でも、食堂なんていう人の多いところでする話ではないから、部屋に戻った後ですることにしよう。