テラーノベル
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合宿1日目が終わり、キャメロンとりぃちょはホテルで夕食を取っていた。
穏やかな空気が流れる中、キャメロンが口を開いた。
「更衣室での会話、全部聞いてた。」
空気が重くなる。
りぃちょの背中に、嫌な汗が流れる。
「う………えっと…ごめ――」
「ごめんなさい。」
キャメロンは、深々と頭を下げた。
「俺が気づいて、止めなきゃ行けなかったのに」
りぃちょの中で、今までに感じたこともないような感情が渦巻く。
重たい何かが、渦巻いている。
その何かを誤魔化したくて、りぃちょは口を開いた。
「キャメさ――」
「最近試合にも出れてないし、結果が出なくて焦るよね。」
話そうとしても、キャメロンに遮られてしまう。
「違う!おれはただ――」
「でも、いまは次の大会に向けて備える時なんだ。」
今のキャメロンは異常だ。
りぃちょの言葉が、届いていない。
周りが見えていない。
懇願して謝罪するように、りぃちょに語りかけている。
「…今りぃちょくんが伸びないのは、俺の監督不行届と…俺が、氷から逃げてきたからだ。」
「これからは、りぃちょくんとも、氷とも、ちゃんと向き合ってみせるから」
「だから、りぃちょくんも俺から逃げないで欲しい。」
「正攻法で、一緒に勝ちに行こう。」
罪悪感
りぃちょの中で渦巻く何かの正体が、やっとわかった。
自分がとってきた軽率な行動で、キャメロンに全てを背負わせてしまっていたのだと、ここまで追い詰めてしまったのだと、理解した。
りぃちょの拳に、力が入る。
「…おれ、ちゃんとキャメさんのこと見る。ちゃんと話聞く。」
「だから、もう一度、おれの面倒見てください…。」
そう言って、深々と頭を下げた。
やっと、キャメロンの目を見ることができた。
向き合うことができた気がした。
「ちがう、りぃちょくんはしっかりやれてるんだよ。」
「俺が変わる番だから…」
「だから、もう一度君のコーチをやらせて欲しい…。」
キャメロンの目元に、シワがよる。
泣きそうな顔で、りぃちょと目線を合わせるように屈んでいる。
「うん…」
りぃちょはどこか腑に落ちない様子で、こくりと小さく頷いた。
――兵庫合宿2日目の朝。
りぃちょはむくりと起き上がり、見慣れない部屋を見回す。
(そういえば、兵庫きたんだった…………)
寝ぼけた頭をどうにかしようと、顔を洗いに歩みを進める。
冷たい水で何回か顔を洗って、目を覚ます。
「…濃い1日だったな……………」
タオルを持ったまま、洗面台の前で座り込む。
(ニキニキ、すごかったなぁ…………)
脳に焼き付いたニキを、今一度思い出しうっとりとする。
(…………………あれ?)
(おれ、せんせーにお礼言ってなくない?!)
慌てて洗面所から飛び出して、キャメロンのベッドへと走り全力で身体を揺さぶった。
「キャメさん!!今日!今日も行くよね!?」
「え?なに、なに??なにが??どこに??」
叩き起されて混乱しているキャメロンは、寝ぼけたまま情けない声で返答をしている。
「スケートリンク!じゅうはちの!」
「いく、行くよ?なに???」
「よかった…よし、寝ていいよキャメさん。」
「はぁ……………?」
りぃちょがベッドから降りると、キャメロンはモゾモゾしながらもう一度布団の中へ潜り込んだ。
――数時間後。
「あれ、りぃちょやん。」
ベンチで座っているニキに声をかけられる。
「おはよニキニキ!せんせーいる?」
「多分男子更衣室に…どしたん?」
「あんがと!またね!!」
りぃちょは『男子更衣室』という単語しか聞こえていなかったようで、ニキの質問に答えることなく走っていった。
そんなりぃちょを見て、ニキは不思議そうに首を傾げた。
「せんせーっ!!」
「うわっ!?」
男子更衣室の扉を勢い良く開けると、座ってスケート靴を履いているしろせんせーが声を上げた。
「なんでお前――」
「ありがとう!」
りぃちょはしろせんせーの近くによるなり、満面の笑みでそう言った。
「は?」
「昨日、おれにあんなすごい、夢みたいな光景を見せてくれて、ありがとう!」
しろせんせーの拳に、力が入る。
(ちがう、俺はただお前のことが大嫌いで、傷つけて利用してやろうと思ってただけで――)
――この素直さが、羨ましい。
しろせんせーは、そう思ってしまった。
強くまっすぐ生きていて、羨ましい。
心からそう思った。
それと同時に、自分はなんて惨めで、酷い人間なのだろうか。
「…べつに、ええよ。」
しろせんせーの、酷く掠れた、小さい声が静かな男子更衣室によく響いた。
暗い顔のまま、気だるげに更衣室を後にした。
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