帰宅した元貴。
玄関の扉を閉めた瞬間、世界が静まり返った。さっきまでの体温だけが、やけにリアルに残っている。
「……っ」
鞄を落とすように床に置き、無言のままベッドに倒れ込んだ。
天井を見上げると、鼓動の速さが余計に際立つ。
(若井先生……)
保健室で、唇が塞がれたあの瞬間。
息もできないほどの熱と、押し殺したような吐息。
あのとき若井の指先が震えていたことさえ、今もはっきり思い出せる。
「……もっと……して欲しかったな」
口に出してしまうと、羞恥より先に胸の奥がじんと疼いた。
ベッドの端に腰をかけ、目を閉じる。
そっと、右手の指先で唇をなぞる。
形を確かめるように、優しく、ゆっくりと。
自分の指でなぞるだけで、あのときの舌の柔らかさが蘇ってくる。
たまらず、その指先を口元に寄せる。
そして、自分の舌を出し、ぬるりと指をなぞった。
「ん……」
わずかに声が漏れた。
そこにいるのが自分ひとりだと分かっていても、
その行為の意味を知っていても、止められなかった。
自分の舌で自分の指をなぞるたび、熱が喉の奥から湧き上がってくる。
(……やばい、思い出すだけで……)
ボタンを二つ外して、指先を鎖骨に這わせる。
軽くなぞるだけで、背中がぞわっと震えた。
あのとき、若井が唇を落としたのは、この辺りだった。
もう片方の手は、自然と下腹部へ伸びていた。
柔らかい布越しに、指先がゆっくりとさまよい始める。
目を閉じて、深く息を吸い込む。
さっきまであった感触を、脳内で何度も再現しながら、
指先は、自分を甘やかすように動いていく。
「ぁん…っ…」
小さな声が漏れた。
誰もいない部屋なのに、妙に恥ずかしくて、
でももう止められなかった。
シャツの隙間から指が滑り込んで、じわじわと温度を上げていく。
思い出すのは、若井の声。
優しいようで冷たい手。
「……生徒に手は出せない」って、拒まれたあの言葉。
でも――
(……欲しいって、思ってくれたよな……?)
自分の指が、自分を慰めるたびに、
脳内で、彼の名前を呼びそうになる。
――先生に、もっと攻められたい。
目を閉じ、想像する。
『…大森、俺のこと、感じて…』
「先生…っ、もっと…っ」
触れられた一度だけで、身体が、勝手に思い出してしまう。
もう、自分じゃどうにもならない。
『もっと…舌を絡めて舐めて…』
「あ……ん、っ……」
舌先で指を舐めながら、自分の手で、どんどん奥へと追い込んでいく。
吐息が荒くなる。
濡れた指を甘噛みし、絶頂の快楽で出そうな声を押し殺す。
「…っあ、わ…かい、せんせ――っ…!!
手に飛び散る白濁。
果てた後、ぐったりとベッドに倒れ込んだ。
(…触れてくれないなら、俺から、奪えばいい)
無理やりじゃなくていい。
けれど、もうじっとしているのは限界だった。
胸が、喉が、皮膚が――全部、彼を欲しがっている。
自分の中に渦巻く感情が、愛情なのか欲情なのか、もう分からない。
(次は俺が、先生の理性を壊す)
その夜、何度も寝返りを打った。
けれど、触れてほしかった場所が、火照って疼き続けて、眠れなかった。
コメント
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ぬぉぉぉう!!! めっちゃ好きです…!🥹 続き楽しみです!💕