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#コメディー
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トーナメント会場のさらに深く、分厚い鉛の壁に囲まれた地下研究室。
無数のモニターが青白く光る中、研究員たちのタイピング音だけが響いていた。
「……奴か。異様なパンチを持つ者は」
冷徹な声と共に現れた男、スティーブ。研究員の一人が、アホライダーの戦闘分析画面を映し出す。
「はい。ファイター名アホライダー。180cm、76kg。一回戦ではトニー・ブレイズの攻撃を完全に見切り、一撃で沈めています。日本の情報屋によれば、邪魔が入ったとはいえ、小笠原組の最高幹部すら指一本触れさせず血祭りにあげたとのこと……」
スティーブの口角が吊り上がる。
「……面白い。奴の戦闘データをすべて収集しろ。我が社の『製品』に組み込むための最高のサンプルだ」
翌日。本戦二回戦。
会場の熱気は前日を超えていた。実況がマイクを叩き、観客を煽る。
『レディース・アンド・ジェントルメン! 昨日の地獄を生き残った猛者たちの共宴だ! 敗者はゴミ、勝者は神! さあ、二回戦の幕開けだぁ!!』
第二回戦、第一試合。
アホライダーが、まるでお気に入りの喫茶店にでも入るような気だるい足取りでリングに上がった。一回戦の圧倒的な強さから、観客の期待値は最高潮だ。
対する青コーナーは、巨漢のクライデン。
「アホライダーに全財産ぶっこんだぞ!」
「瞬殺しろ!」
葉弐もまた、換金したばかりのドルをすべてアホライダーの勝利に注ぎ込んでいた。
だが、ゴングが鳴った瞬間、異様なことが起きた。
アホライダーがゆっくりとクライデンに近づき、
ゆっくりと右拳を振り上げた、その刹那。
「ひっ……! 降参だ! 負けを認める!!」
クライデンは戦う前に、恐怖に耐えきれず腰を抜かして叫んだ。
『――しょ、勝者! アホライダー!!』
呆気ない不戦勝。沸き立つ観客の裏で、会場の隅に陣取った黒服たちが静かに舌打ちをする。
地下の研究室では、スティーブがモニターを殴りつけた。
「……チッ、これではデータが取れんではないか!」
「……ご安心を。被験体R・Gに全ファイターのデータをインプットし、決勝でアホライダーとぶつけます。そこで奴の真価を炙り出しましょう……」
研究員が視線を向けた先には、大量のコードに繋がれ、死体のように座り込んだ赤いマスクの男の姿があった。
控え室では、葉弐が俯きながらさよなら喉仏マンのタイツを着込んでいた。
時計を見あげ、会場へと足を運ぶ。
第二回戦、第二試合。
さよなら喉仏マンこと、葉弐の出番だ。
倍率はジョー・クライシスが2.5倍、葉弐が1.6倍。
リングに上がった葉弐だったが、その目は対戦相手ではなく、会場のどこかにいるはずの「レッドギア・マスク」を探していた。
(……あの赤い奴が、ただの人間じゃねえって直感が叫んでやがる。効率的に勝つなら、あいつとは当たりたくねえが……)
『ゴーン!』
思考に沈んでいた葉弐はゴングの音にすら気付かず、顔面にジョーの拳がめり込む。
「……ぐわぁっ!?」
吹っ飛ぶ葉弐。観客席の火野が思わず身を乗り出す。
「バカ、何やってんのよ!」
アホライダーも首を傾げる。
「あいつ、どうしたんだ。キレもないし、卑怯な真似もしない。集中力がゼロだ」
火野が昨夜、葉弐が漏らした「嫌な予感」についてアホライダーに伝える。
ジョーの追撃を受ける葉弐。
だが、顔面を自ら殴って気合を注入した。
「……迷ってても始まらねえ! 効率的にぶっ飛ばす!!」
葉弐の動きが変わった。
ジョーの連打をバックステップでかわすと、ブーツの側面にある空気砲を噴射。爆風を推進力に変え、ジョーの背後へ一瞬で回り込む。
「なにっ!?」
そして強力な跳躍でジョーより高く飛び、顔面を踏みつけ、その反動でさらに高みへ。翻弄されるジョーの頭頂部にかかと落としを叩き込む。
「……いけぇ、葉弐!」
だが、着地した葉弐の脳裏を、再びレッドギアの不敵な笑みがよぎる。
(……あいつと戦うことになるのか? 負けるんじゃねえか?)
再び足が止まり、ジョーのパンチを食らってしまう葉弐。
「……あいつ、レッドギアに怯えてやがるのか」
アホライダーが吐き捨てるように言ったその時、葉弐は腹を括った。
「……悩んでても腹は減るんだよ! 後のことは後だぁ!」
向かってくるジョーの懐に潜り込み、空気砲全開でリングを踏み込み、アッパーカットでジョーの体を宙へ浮かせる。
さらに葉弐はジョーよりも高く跳躍。空中でジョーの顔面を鷲掴みにすると、ブーツを真上に向けて空気砲を最大出力で噴射した。
「うらぁ!!」
落下重力と空気砲の噴射圧。
その凄まじい勢いで、葉弐はジョーの頭部をリングのキャンバスに垂直に叩きつけた。
激しい衝撃音と共に、ジョーの身体は糸の切れた人形のように沈んだ。
『勝者、さよなら喉仏マン!!』
葉弐は肩で息をしながら、タイツ越しにアホライダーの方を見た。
勝利の歓声の中で、葉弐の胸をざわつかせる「赤き死神」の影は、刻一刻と近づいていた。