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俺が固まっていると、日暮が口を開いた。
「ごめんね。別に下心があったわけじゃないんだけど……」
「え、いや、」
気まずい。日暮は謝ってるけど本来謝るべきなの俺だ。
「ご、ごめん。酔っていたわけではない…はずなんだけど……」
冷や汗が止まらない。目も合わせられない。
俺は確実に日暮と……
昨日の夜。1度酔いすぎて眠ってしまった。そのため、日暮が片付けをしてくれたらしいが、その時に俺は目を覚ました。ここからは言語化したくない。簡潔にまとめると流れでそのまましてしまったということだ。
もちろん俺にそういった経験はなかった。つまり、日暮が初めてだったわけだ。きっと日暮には嫌な思いをさせたに違いない。
「こういうことは慣れてるから大丈夫……。今日はもう帰らないとだから、またね」
そう言って日暮はそそくさと出ていった。またねっていつ会う気なんだろうか。
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「悠。」
「なぁに?」
「なんかぼーっとしすぎじゃない?」
「えぇ、あぁぁ……」
今朝のことが頭に残っていて離れない。そりゃまあ、普通なんだけど、体験したことが普通じゃないからな……。
「悩み事か?楽しそうだな」
「俺のどこが楽しそうに見えるんだ。」
一応こいつのことは友達だと思っている。たが変な感性をしているためめんどくさい。確か名前は会沢 陸(あいざわ りく)。
「あ、てかお前、昨日合コン行ったらしいな。」
「あー、清水(しみず)の誘いでね。」
「俺も誘えよ。」
「そんなことだろうと思った」
日暮の代わりにこいつが居てくれたら良かったのにな、と我ながら酷いことを考える。
「日暮なぁ……」
そんな言葉が口から溢れ出る。正直、押されてる日暮を思い出すと少し高揚してしまう。可愛いとかエロいとかそうではなく、ただただ綺麗だった。
「あー、日暮って日暮 瑞貴?」
背中をなぞられた時のゾッとする感覚に似たような感覚を感じた。
「え?!日暮のこと知ってんの?」
「まぁ、高校同じだったし。」
予想外な繋がりだった。偏差値もっと高い高校に居たのかと勝手に思っていた。
「でも日暮って……」
「あああぁぁぁー。もういいわ!その名前聞きたくない」
「え、失礼じゃない?」
頭の中に日暮ばっかり出てきてしまう。会った時から密かに綺麗な顔立ちだと思っていたが、昨日のことのおかげでもっと魅力的に感じる。しなやかな髪、その髪の間からみえる瞳、溶けてしまいそうな肌、その一つ一つが好ましかった。
そんなことを考えていると、恥ずかしさが込み上げてくる。反省もせず、日暮、綺麗だったな、と妄想する。次第に顔が熱くなってくる。肌寒い季節だと言うのに室内がこもっているように感じた。きっと今の俺の顔は真っ赤に染まっているのだろう。
「お前なんで照れてんの?日暮となんかあった?」
言えたらスッキリするだろうなと思う。俺は少し困惑している会沢に視線を送る。
「よくわかんないけど、日暮はあんまいい噂聞かないぞ。」
「なんの噂?それ。」
そんなタイプでは無いことは確実にわかる。ただの勘だが。
「高校の時、女遊びが激しかったらしいよ。真面目で成績も良かったくせにね」
「えぇ?それってなんか事情があったんじゃ……」
そんな綺麗な事じゃないんだよ、と一蹴される。女遊びって合コンの時もそんな雰囲気は出していなかったのに……。
『こういうことは慣れてるから大丈夫。』
ふと頭によぎる。そういえばあの言葉って…そういうこと?そうしたらなぜ、俺の事を押し倒すなりなんなりしなかったのだろうか。男が嫌だとかなら抵抗もするはず。
俺の頭は一日中ずっと日暮のことでいっぱいだった。