テラーノベル
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ひまなつの「息苦しい」という言葉は、何度もいるまの頭の中で反響していた。
自分が、知らないうちに首を絞めていたこと。
守っているつもりで、逃げ場を奪っていたこと。
それに気づいてしまった以上、もう元には戻れなかった。
だから、いるまは距離を選んだ。
「なぁ、なつ」
放課後の校舎裏。
夕焼けがコンクリートを赤く染めている。
ひまなつはいつも通り、少し眠そうな顔で隣に立っていた。
「んー?なに?」
いるまは一度、拳を握ってから、ゆっくりほどいた。
「お前から離れるわ」
空気が、止まる。
「は?」
ひまなつの目が大きく見開かれる。
「急に何言ってんの」
「……俺、お前のこと縛ってる」
ひまなつは一瞬言葉を失い、すぐに眉をひそめた。
「そんなつもりねぇって言っただろ」
「でも、実際そうだった」
いるまの声は低く、静かだった。
「俺がそばにいると、お前、自由じゃなくなる」
ひまなつは唇を噛みしめる。
「勝手に決めんなよ」
「勝手じゃねぇ」
視線を逸らしながら、いるまは続ける。
「俺が壊れる前に離れる。 ……それがお前を守る一番マシな方法だ」
ひまなつの喉が、小さく鳴った。
「俺は……一緒にいたいんだけど」
その言葉に、胸の奥が締めつけられる。
でも、だからこそ。
いるまは一歩、後ろへ下がった。
「ごめん」
それだけ言って、背を向けた。
振り返れば、きっと戻れなくなるから。
それから、いるまは本当に距離を置いた。
同じ教室にいても、目を合わせない。
廊下ですれ違っても、声をかけない。
喧嘩の場にも、ひまなつがいるなら近づかない。
胸の奥は、ずっと痛いままだった。
それでも、ひまなつが誰かと笑っている姿を見ると、ほんの少しだけ安堵する。
――自由に息ができているなら、それでいい。
自分がいない世界で。
ひまなつは、最初は怒っていた。
無視されるたびに苛立ち、呼び止めても背中しか返ってこない。
「意味わかんねぇ……」
けれど、時間が経つにつれて、怒りは静かな空洞に変わっていった。
隣にいたはずの存在が、急に消える喪失感。
頼っていた温度が、もうどこにもない現実。
夜、無意識にスマホを手に取ってから、連絡できないことに気づいて、画面を閉じる。
「……ばか」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からないまま。
ある日、遠くで誰かが揉めているのを見かけた。
反射的に、ひまなつは“いるまなら”と視線を探してしまう。
けれど、そこにいるはずの背中は、もうなかった。
胸が、ひどく静かに痛んだ。
いるまのことが大切だということに、離れて初めて気づくなんて、遅すぎた。
声をかけたい衝動を、何度も噛み殺した。
手を伸ばしたい夜を、何度もやり過ごした。
近づけば、また縛る。
愛せば、また壊す。
だから、離れる。
それが、いるまの選んだ愛だった。
コメント
2件
うわぁぁぁっ、!?すれ違い、?って言うのかなっ、!?なんかすごい切ないですよね…っ、!めっちゃ好きです!
うぁ切ないっすね( •̥-•̥ )でも最高です(*`ω´)b