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??『ヒック……グスッ…うぅ…ポロポロッ』
em『なッ泣かないで!怖いの何も居らんよ?』
私がまだ十歳の頃の話。当時やんちゃだった五つ下の男の子が居た。悪戯好きで少し乱暴だったけど、正義感は並外れて強かった男の子。 でもその男の子が私の目の前で初めて泣いた時、物凄く動揺したのを覚えている。
em『ッごめんなさい…私何も…』
??『…グスッ…ポロポロッ…ッ…え゛みさ…』
声もがらがらで、兎に角酷い顔をしていて。何故泣いていたのかも聞けなかった。
??『ッ行っちゃ…ッや゛やぁ…ポロポロッ…行かんといてぇやぁ゛…ポロポロッ』
大事な子だったはずなのに、大切な思い出だったはずなのに、思い出すのはいつもこの時だけ。何故泣いているの?行っちゃ嫌だって何の事?泣いているあの子は思い浮かぶのに…
…誰なのかが分からない。
キーン…コーン…カーン…コーン………
em『二年の日本史を担当するエーミールです』
em『短い間ですがよろしくお願いします』
黒板の前に立ち、今から授業を行うクラスに挨拶をした。私はエーミール。晴れて今年から就任した新人教師である。元から勉強できた事もあり、教員免許をとるまでそう長くは掛からなかった。でも、初めて教師という立場で生徒の勉学を支える身。僅かな緊張もあり、掌を強く握りしめていた。
先生「エーミール先生は今年から教師に就任したのもあって、まだまだな所もあるからな」
先生「皆!エーミール先生に学校の事沢山教えてやってくれよな!』」
意気揚々と声を張った先生に背中を押され、自分のなかで張り詰めていた緊張が少し解れた。
生徒「はいは~い!質問いいですか!!」
生徒「ばっかお前(笑)やめとけって(笑)」
生徒「私も私も!エーミール先生彼女とかいるんですかー?」
生徒「年齢聞きたーい!」
その後の教室は生徒達の活気ある声に包まれ、初回の授業はペアワークという形で達成した。
em『…ッふぅ……終わったあぁ…』
先生「お疲れ様です、先生」
em『はい…お疲れ様です…』
全クラスに挨拶をしたからか、とんでもない疲労感に身体を覆われていた。
先生「はは(笑)まだまだ若いな先生」
em『いやいや…努力します…』
先生「俺が新人の時も色々大変だったしな」
先生達と男女を交えデスクに置かれた生徒達の課題に目を通し、その日は何事も無く終わろうとしていた。
先生「先生は?もう帰るのか?」
em『はい、今日はお先します』
先生「新人の癖に生意気だな〜(笑)」
em『すッ…すみません』
先生「はは(笑)冗談だよ、お疲れ様」
笑顔で嗜められ、私は職員室から荷物を持って出ていった。最近の先生は皆ああなのだろうか…?今日も思ったがよく張る声だ。元気が良すぎて少し疲れる。指導係の先生への疑問を抱えたまま私はロッカーまで足を進める。そして教員ロッカーの鍵を開け、自身の靴を取り出しコートを羽織る。この時期はどうも夜は冷え込むらしい。迷わず下駄箱へ足を運び、硬い革靴を片手に持っていた時。
em『………え?』
目の前の2階へ続く階段に、一人の男子生徒が寝そべっていた。
em『ッちょ…?!なんでそんなとこッ…』
自身の靴を置き並べ、直ぐ様生徒へ近寄った。生徒の下校時間はとっくに過ぎている。これは叱るべき問題だろう。…いや、でももし体調が優れなくて倒れていたのなら?問題なのはこちら側の不備じゃ…。悶々と考えを巡らしている内に、私は彼の側へ駆け寄っていた。
em『だッ大丈夫ですか?!起きてください!』
一応どっちの場合も考慮して気遣いと指導も交えた言葉にした。肩を揺さぶって声を掛けたが全く反応が無い。まさか本当に倒れているのか…。顔色を伺おうと彼の深く被っていたフードに手をかけた。
パシッ!!!
em『わ?!…』
グッ…………ドサッ!!
寝ていた彼に突然手を引かれた。物凄い力で引っ張られた為、呆気なく彼の胸の上に鼻をぶつけた。
em『ぶッ?!!………ッいてて…』
??『………誰や………アンタ…』
頭上から低い声がする。それもとびっきり不機嫌な声色で。余りの高圧的な対応に少し怯んでしまった。
em『へッ……あぁ…いや……』
??『…用もないなら構わんといてや』
本当に今さっき寝ていた男子生徒なのだろうか。私より低い声と高い上背がより恐怖を際立たせる。具合が悪いのかと心配して声を掛けただけなのに、何故彼はこんな威圧感をぶつけるのか。怯んだ拍子に軽く苛立ちも湧いてきた。彼の胸元から顔を離し、眉間に皺を寄せて彼の顔を見返した。
em『ッ貴方、生徒ですよね?下校時間はとっくに過ぎてますよ!今直ぐ職員室へ行って親御さんに電話してきてください!』
??『なんでアンタにそんなこ…と………………』
何故だろう。先程まで嫌に高圧的だったのに、私の顔を見るなりすっかり黙ってしまった。眉間に寄せていた皺を離し、彼に抱きついていたような体勢から彼と面と向くような形になった。制服を着ている時点で生徒なのは間違いない。先程の言葉を振り返ると体調不良でも無さそうだし…。
??『………………アンタ……』
彼は何か言いかけたような口振りを見せたが、すぐに口を噤んだ。…なんなのだろうか。言いたい事があるなら言ってほしい。こちらも彼の対応に困っていると、暫くの沈黙から彼が先に抜け出してくれた。
??『……そ……か………帰…て来…んや……』
em『……はい?』
口に出したのはか細い声だったのでよく聞き取れなかった。全く、この人は高圧的なのか大人しいのかどっちなのか。反応の差に一周回って呆れ返っていると彼が顔をこちらに顔を近づけてきた。
em『ッわ?!なんですか…』
??『……………やっぱり………………』
彼が近くで私の顔を見ると同時に、彼の顔立ちを漸く認識できた。深く被ったフードと長い前髪でよく見えなかったが、随分整った顔立ちだった。凛とした鼻筋と分厚い唇。極めつけは
美しいペリドットの瞳。
………あれ?この瞳…。
何処かで見た気が………。
??『…〜さーん!…〜〜みさーん!!』
??『………忘れたんか…?』
em『へ…?』
彼の呼び掛けにふと現実へ引き戻される。彼の瞳に吸い込まれた気分だった。それも、何処か懐かしい……、いやいや!!ただの珍しい瞳や!ていうか私の立場的にこの人には帰ってもらわないとまずい。いくら退勤前でもまだ仕事中だ。私はすぐに険しい顔付きをして彼を睨んだ。
em『…いいですか?今回はお咎め無しで見逃しますけど、今後階段で寝そべるような事はしないでください!分かったなら直、ぐ、に!下校してください!いいですね!!?』
??『……………………………ん…』
彼は素直に返事をしてくれた。少し様子はおかしかったが返事はしてくれたので良しとしよう。彼は鞄を手に取ると気怠そうに立ち上がり下駄箱へ向かってくれた。始めからそうしてほしかったと思いつつ、私も彼に踵を返してロッカーへ向かった。
??『……………なぁ…』
em『?…どうしました』
??『下駄箱の扉鍵閉まってる…』
em『……………………………💢』
ガチャンッ…
em『どうぞ…』
??『ありがとう…』
こればかりは仕方がない。下駄箱の扉を開けてやると彼は小走りで靴を取りに行った。少しでもこちらに気を使っているのだろう。こういう所はまだまだ学生らしくて可愛げがある。
??『取ってきた…』
em『はい、ほな気を付けて帰ってくださいね』
??『……うん』
彼は何やら間を置いた話し方をする。まるでこちらの考えを探っている獣のようだ。もう外も暗いし早めに帰って明日でも………………。
……そういえば、名前を聞いていない。
em『…すみません』
??『……』
彼がゆっくりこちらを振り向く。相変わらず顔は見えない。
em『お名前、聞いてもいいですか?』
少し間の空いた空間に、凍てついた風が過ぎった。彼の瞳が揺れる。
??『………………ははッ(笑)』
??『…やっぱ全然変わってへん(笑)』
彼は笑った。
それもとびきり笑顔に。
その顔…。
やっぱり何か見た事が………。
??『エミさん』
??『【おかえり】!』
彼はそう言うと、先程の気怠さはどこへやら元気よく帰路を駆け出していった。私は面食らって暫くその場で硬直していた。…名前を聞いただけだったのに…。彼は結局何も教えてくれなかった。
em『…それを言うなら【さよなら】でしょう 』