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山の奥は、夜になるのが早い。
まだ夕暮れのはずなのに、竹林の奥はすでに青く沈んでいた。
風が鳴る。
ざわ、ざわ、と。
「……おや。」
竹を伐りに来ていた老爺は、ふと足を止めた。
一本だけ
妙に、光っている竹がある。
月明かりとも違う、内側から滲むような淡い光。
「なんだこれは……」
ゆっくりと、手を伸ばす。
ためらいはなかった。
長く山で生きてきた勘が
それを“恐れるものではない”と告げていた。
刃を入れる。
ぱきっと乾いた音がして、竹が割れた。
――その中に、“それ”はいた。
小さな 子ども。
いや、子どもと呼ぶには
あまりにも整いすぎていた。
白い肌。
閉じられた瞼。
呼吸はあるのに、生き物の気配が薄い。
ただ、そこに“置かれている”みたいに。
「これは……」
思わず、息を呑む。
同時に、不思議な感覚が胸に落ちた。
畏れではない。
ただ、静かな確信。
―拾わなければならない。
老人はそっと、その小さな体を抱き上げた。
軽い。
驚くほどに。
温もりもほとんど感じない。
それでも確かに、生きている。
「じいさん?」
背後から、老婆の声がした。
様子を見に来たのだろう。
老人は振り返り、腕の中を見せる。
老女は一瞬、目を見開き
そして、すぐに表情を和らげた。
「……まあ」
静かに、微笑む。
「綺麗な子だこと。」
ただ、そう言った。
老爺は小さく頷く。
「山の恵みかもしれん。」
理由になっていない言葉を口にする。
だが、どちらもそれ以上は問わなかった。
老婆はそっと、その子の頬に触れる。
ひやりとした感触。
「この子、連れて帰りましょう。」
当たり前のように言う。
「……そうだな。」
老爺も、迷わなかった。
そうする以外の選択肢が
最初からなかったみたいに。
竹林のざわめきが、少しだけ強くなる。
まるで 見送るように。
あるいは 手放すように。
腕の中の子どもは、目を覚まさない。
ただ静かに 息をしている。
人に拾われたのに
まだ どこにも属していないような顔で。
その夜
小さな家に、灯りが一つ増えた。
けれどその光は、どこか不自然に揺れていた。
人のものではないものを
迎え入れたみたいに。