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「ぷっ…ふ…はっははは!……痛゛っ!」
隣で腹を抱えながらよじれる優奈を見て、青年は少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。そんな優奈の背中をバシりとたたき、凛は高揚する気持ちを抑えようと軽く深呼吸をした。
「お前はこの前の……」
「あの時は助けていただき、ありがとうございました」
ぺこりとお辞儀をしながら言う凛に、彼は手をブンブンと振りながら焦ったように言った
「いやいや、俺の方こそ、なにか言いかけてたのに名前も聞かずに去っちまって悪かった」
「いえいえ全然大丈夫です。まさか同じ学校だなんて……」
「ああ、俺も驚いたよ。……お前、名前は?」
「2年の花里凛です。こっちは親友の高谷優奈って言います。」
「一つ下か!俺は三ツ谷隆。3年。凛と優奈って呼んでもいいか?」
隆は人の良さそうな笑みを浮かべながら名前を言った。凛はまだ驚いた時の高揚が冷めず、少しギクシャクとした動きで首を縦に振った。とてもじゃないが、あの男子生徒に凄んでいた時の彼とは違うと、凛は不思議な気持ちになった。
「もちろんです!」
一方、隣の優奈はそんなことお構い無しで、焦りや驚きというより暴走族の人と話したということに高揚感を抱いている様子だった。
「じゃあ三ツ谷くんって呼んでもいいですか?」
「敬語も要らねえし、隆でいいよ。」
「じゃあ隆。よろしくね」
「よろしく!隆!!……あ、じゃああたし先に帰るね!凛!今日こそはメールしてよね?」
「えっ、私も一緒に帰るよ」
「いいから!!あたしもちょっと気になる人誘ってみる!」
待って!という凛の言葉や呆気に取られている隆のことなどお構い無しに、優奈は軽やかな足取りで廊下を突っ走って行った。隆と顔を見合せ、ぷっ、と思わず笑う。昔からあまり物事を考えずに先に行動してしまうのは優奈の良い癖でもあり、悪い癖でもある。
「元気だな、あいつ」
「そうなんだよ。幼なじみなんだけど、昔からほんとに変わらない。」
「いいじゃねぇか、そんな友達がいるなんて。俺にもいるぜ、同じ暴走族のやつでさぁ、弟みたいなもんだ」
少し目が悲しげになったのは気のせいだろうか。隆は呟くように言った。
「トーキョーマンジカイだっけ?楽しい?」
「あぁ、昔からの友達とみんなで結成したんだ」
「初期メンバーなの……?!」
「そうだぜ。いいだろ」
助けてもらった時と同様、彼は二カッと効果音がつきそうな笑顔でこちらを見た。そんな隆を見て、凛は、彼に暴走族という雰囲気はないと思った。
「特服も初期メンバーのヤツらのは俺が作ったんだ」
「むっちゃ手先器用じゃん……」
暴走族であり、手先も器用で正義感も強い隆を、凛は尊敬した。筆を持つことに関しては凛は手先が器用だと言えるかもしれないが、編み物や手芸となってくるとまた違う手先の器用さが必要だ。
「手芸部なんだっけ。私、美術部なの」
「俺、凛の作品見たことある気がするワ。夏のコンクール出てたよな?すっげぇ綺麗だった。細かい所までよく書かれてて」
きっと隆が見たのはコンクールに出場した時、金賞を取った作品だろう。普段褒められることに慣れていない上、あの作品は結構な自信作だった凛は、少しの間フリーズしてからとても嬉しそうに顔をほころばせた。
「ありがとう。でも私なんて全然だよ」
「いや、賞取れるのがすげぇよ。努力したんだなぁってわかる。……ってやべ!もうこんな時間!!俺、妹が二人いるんだけど、幼稚園に迎えに行かなきゃだ……」
彼の面倒みの良さや正義感は妹がいることもあるのだろうと凛は納得した。それにしても中学生で妹を迎えに行くなんてとても大変だろう。
「もう夕方だもんね……私もそろそろ帰ろうかな。」
「この前みたいになんなよ」
「いやあれは……!」
少し呆れたような声で隆が言ったので、凛は思わず言い訳をしそうになった。だがその言葉を心の中にしまいこむ。そんな様子を愉快そうに笑う隆を凛はよく笑うものだと思いながら目線を外せなかった。
「じゃあ、私先に帰るね」
「あぁ。また学校でな!」
そうして隆とさようならの挨拶を交わし、凛はいつも通っている安全な道を通って家へと帰宅した。
「[今帰ったよ~]」
携帯に忘れないよう優奈にメールを送り、伏せて隣に置いておく。すると、携帯はすぐピコリンと軽やかな音を立てて振動した
「[どう?楽しかった?まさか私が予想した100分の1の確率を引き当てるなんて……凛は強運の持ち主だよ……]」
「[私もほんとにびっくりした!色々話せてよかったよ〜優奈は?]」
「[それがなんとあたし……一緒に帰れちゃいました!!]」
興奮した様子の文章に分かりやすいなぁと思いながらおぉ〜という文と絵文字を打つ。優奈が気になっているのは同級生の鈴木くんという子だ。彼女曰く、頭が良くて狡猾そうなところが好きらしい。凛は恋愛をしたことがないこともあるが、少し[ワル]い男の子の良さがイマイチよく分からない。そう言ったとき、優奈にあなたはまだお子ちゃまなのよと言われたことをおもいだし、当時と同じように顔を少し歪めた。
「[でもかっこよかったね隆!!凛狙っちゃえば?]」
「[何言ってるの笑笑]」
隆の見た目と中身、そして暴走族というギャップにイチコロされた優奈は、凛に暫く隆のことしか話してこなかった。凛も今日のことや助けてもらったことを思い出しながら話していた。
「[明日は私が優奈の家行く]」
「[え、あんた起きれんの?]」
「[いや、中学生にもなって1人で起きれない方が恥ずかしいわよ]」
そんなたわいの無い会話もしながら、凛と優奈はいつものように寝る直前まで会話し、お互いが眠くなるまで愚痴や今日の出来事について会話を交わしたのだった。
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