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永世⇢ℛNui🌍💫@りむるなあ
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雪が静かに降る午後だった。
白く霞む景色の中で、僕――カナダは一人、本を読んでいた。
こうしている時間は落ち着く。誰にも邪魔されず、自分のペースでページをめくれるから。……少なくとも、普段は。
「カナダくん、また難しそうなの読んでるの?」
聞き慣れた声に顔を上げると、やっぱりいた。ウクライナくん。
あの人は、いつも静かな時間に限って現れる。
「え、あ…うん。ちょっとだけ」
そう答えた瞬間、彼はもう隣に座っていた。距離が近い。近すぎる。
肩が触れそうで、意識してしまう自分が少し恥ずかしい。
「ねえ、それ面白いの?僕にも見せてよ」
返事をする前に、本を覗き込まれる。ページをめくる手が止まった。
「歴史の本だから、そんなに面白くは…」
「ふーん。でもカナダくんが読んでるなら、面白いよね」
……そういうことを、どうしてそんなに簡単に言えるんだろう。
からかわれているわけじゃないのは分かるのに、心臓のあたりが落ち着かない。
何か言い返そうとした、そのときだった。
「ねえ、それよりさ」
彼は急に立ち上がると、僕の手を引いた。
「外、すごくきれいだよ。雪、見に行こう?」
「え、今?」
「今じゃないとダメ」
有無を言わせない調子で、そのまま引っ張られる。
結局、本を閉じて立ち上がるしかなかった。
――どうして僕は、いつもこの人に逆らえないんだろう。
外に出ると、一面の雪景色だった。
白くて、静かで、息をのむほどきれいな光景。
「ほら、きれいでしょ?」
くるりと回るウクライナくんの姿が、やけに絵になる。
雪よりも、そっちに目がいってしまう自分がいる。
「うん…すごく、きれい」
そう答えると、彼は満足そうに笑った。
「でしょ?だから本なんて読んでる場合じゃないよ」
そう言った次の瞬間、小さな雪玉が飛んできた。
「あっ」
軽く当たっただけなのに、びっくりしてしまう。
顔を上げると、彼は楽しそうに笑っていた。
「当たった」
……ずるい。そんな顔されたら、何も言えなくなる。
「もう…いきなりはずるいよ」
そう言いながら、僕も雪を手に取る。
少しだけ力を込めて投げると、今度は彼の肩に当たった。
「わっ、やったな!」
そこからは、あっという間だった。
気づけば夢中で雪を投げ合っていて、本のことなんてすっかり忘れていた。
こんなふうに笑うの、久しぶりかもしれない。
やがて息が切れて、二人で雪の上に座り込む。
「ねえカナダくん」
「なに?」
「さっきの本、あとで読ませてね」
思わず彼を見る。
さっきはあんなに興味なさそうだったのに。
「だって、カナダくんが好きなもの、僕も知りたいし」
少し照れたように笑うその顔に、胸がじんわり温かくなる。
……ずるいのは、やっぱりそっちだ。
「うん、いいよ。今度一緒に読もう」
「ほんと?約束だよ」
「約束」
短い言葉なのに、不思議と大事なものに感じる。
また雪が降り始めた。
さっきより少し近い距離で並んで座りながら、僕は思う。
――どうしていつも、この人に振り回されるんだろう。
でも、その時間は嫌じゃない。むしろ、少しだけ楽しみにしている自分がいる。
静かなはずの雪の日が、今日はやけに賑やかだ。
その理由を、僕はもう分かっている。