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【俺はもう、大丈夫だヨ】
Episode.20 嘘つき
《🎼🍵side》
雨は、まだ降っていた。
さっきよりも少し弱くなった気もするけど、それでも窓を打つ音は消えない。
家の中。
二人きりの空間。
なのに、妙に静かだった。
🎼🍵「……」
俺はタブレットに目を落とす。
指を動かして、線を引いて、消して、また引く。
デザイン。
期限がある仕事。
本当は、こんな状態でやるものじゃない。
分かってる。
でも、止められない。
手を動かしていないと、考えてしまうから。
……終わりのことを。
だから、描く。
線を重ねる。
形にする。
これは、ずっと前から考えていたものだ。
ずっと前……?
いや、 違う。
癌って知らされてから。
あの日から、ずっと。
『最後にひとつ』
そう思って、描いて作り続けてる。
最後に、何か残したい。
ひまちゃんに。
形として。
触れられるものとして。
残してあげたい。
───最高のものを。
そのために、俺は今も描いている。
ふと、視線を上げる。
ソファ。
ひまちゃんが座ってる。
でも、 こっちを見てない。
ずっと、外を見てる。
雨の向こう。
何を見てるのか、分からない。
🎼🍵「……」
声、かけようか。
でも、やめる。
なんとなく。
今は、静かな方がいい気がした。
……こさめちゃんとか、いるまちゃんのことかな。
急に雨降ったし。
帰れてるかな、とか。
きっと、そうだ。
そういうことにしておく。
それ以上、考えないように。
ペンを動かす。
線が、少し歪む。
手が震えてる。
……深呼吸。
🎼🍵「……大丈夫」
小さく呟く。
まだ、描ける。
まだ、終わらない。
終わらせない。
🎼🍍「…………ねぇ父さん」
その時。
声が、落ちた。
弱い声。
さっきまでとは違う。
空気が、変わる。
🎼🍵「どうしたの?ひまちゃん」
俺はタブレットから顔を上げる。
でも。
ひまちゃんは、こっちを見ない。
顔が見えない。
そのまま。
少しの間。
沈黙。
そして。
🎼🍍「……父さんって、病気なの」
───止まった。
時間が。
呼吸が。
思考が。
全部。
一瞬で、止まってしまった。
《🎼🍍side》
言った。
言っちゃった。
言葉にした瞬間、少し後悔した。
……違ったらよかったのに。
勘違いだったらよかったのに。
でも、 分かってた。
ずっと前から。
父さんの息遣い。
咳。
顔色。
動き。
全部、全部。
「病気」って言葉に当てはまるものばかりだった。
だから、 聞いた。
聞いちゃった。
逃げられない形で。
🎼🍵「………病気じゃないよ」
父さんが、答える。
やっぱり。
そう言うと思った。
でも。
もう、止まれない。
🎼🍍「……じゃぁがん?」
自分でもびっくりするくらい、はっきり言えた。
逃げない。
逃げたくない。
音が、止まる。
父さんの手も。
呼吸も。
全部。
🎼🍍「……俺、知ってるよ」
言葉が、溢れる。
止まらない。
🎼🍍「父さんが、たくさん薬飲んでることも」
🎼🍍「咳してることも」
🎼🍍「たくさん病院行ってることも」
止めようとしても、出てくる。
全部。
全部。
言ってしまう。
父さんの顔、見れない。
見たくない。
壊れるから。
今までの、全部。
だから、窓を見る。
ガラスに映る。
俺の顔。
ひどい顔。
それと。
少し下を向いた、父さんの顔。
───ああ。
本当なんだ。
分かってたのに。
『分かってたのに。』
認めた瞬間、こんなに苦しいんだ。
🎼🍍「……死んじゃうの」
声が、震える。
小さい。
弱い。
でも、 本音。
🎼🍍「……居なくなっちゃうの」
🎼🍍「俺、独りになるの」
やっと、言えた。
ずっと、心の中にあったこと。
🎼🍍「…………母さんの次は」
🎼🍍「……父さんなの」
涙が落ちる。
一粒。
唇に当たる。
しょっぱい。
🎼🍵「…………ごめんね」
返ってきた言葉。
それだけ。
それだけだった。
……もう、確定じゃん。
逃げ場、ないじゃん。
なんで。
なんでそんなこと言うの。
🎼🍵「……いつから、知ってたの?」
静かな声。
🎼🍍「……最初から」
🎼🍵「……そうだったんだね」
静か。
本当に静か。
涙だけが、流れる。
声、出ない。
🎼🍵「……ごめんね、ひまちゃん」
違う。
違うよ。
欲しいのは、それじゃない。
🎼🍍「……ひどいよ」
言葉が、こぼれる。
🎼🍍「嘘つき」
止まらない。
🎼🍍「……嘘つきだ」
涙が増える。
🎼🍍「『大丈夫』って言ってたじゃん」
🎼🍍「なにも大丈夫じゃない」
🎼🍍「……嘘つきだよ」
ぐちゃぐちゃだ。
感情が。
分からない。
怒ってるのか。
悲しいのか。
怖いのか。
全部なのか。
その時、 後ろから。
ふわっと、温かいもの。
抱き寄せられる。
優しく。
壊れないように。
頭に手が乗る。
撫でられる。
いつもみたいに。
でも、少しだけ震えてる。
🎼🍵「…………ごめん…ね」
耳元で聞こえた声。
……泣いてる。
父さん。
泣いてる。
🎼🍍「……やだ」
小さく、漏れる。
🎼🍍「……やだよ」
手を掴む。
離さないように。
消えないように。
🎼🍍「……いなくならないでよ」
声が崩れる。
🎼🍍「……お願いだから」
🎼🍍「……ひとりにしないでよ」
しがみつく。
子供みたいに。
いや、子供だけど。
それでも。
今は、もっと小さくなったみたいに。
弱くなったみたいに。
ただ、 離したくなかった。
🎼🍍「……父さん」
呼ぶ。
何度も。
🎼🍍「父さん……っ」
涙で、ぐちゃぐちゃになりながら。
その名前を、何度も呼んだ。
next.♡1000
コメント
9件
ああぁああぁ....もう涙止まんない....泣 もう、他の薬は間に合わないのかな.....、もう、進行しちゃってるかな....? やっと🍍くんの本音が聞けて、2人ともちゃんと本音で話せたのに、 🍵くんが泣くとは.... 生きて欲しいよ~、、、
あっぶなぁあ……もう泣いていいところなんだろうけど、本命はまだなのかなって思って、 何とか涙ひっこめたぁ………にしても、胸にグッとくる🥺 🍍くん、1度言ったら取り返しのつかないことだけど、それでも言おうと思ったのは、 もう🍵くんが限界に近いことを確信したからなのかな… お互いに泣いてスッキリしたあとは、できる範囲の一生の思い出をふたりで作ってくださいッッ 続き、楽しみにしてるねん🫶🏻💕︎︎🙂🎐
翠くん、、今からでも遅くない!!新しい薬?を飲もう!バレたんだから飲まない理由はない!!ちょっとでもいいから長生きしてくれ、、😭