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かんな
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アスランズ王国魔術学園。
国内最大級のキャンパスで、国内最高級の実力を持つ生徒たちが集う学び舎だ。王族、貴族、特権階級が名を連ねるのでも有名だが、魔種を持つ者が多いのも特徴と言える。
魔種持ちは高い魔力を有し、特殊な能力を持つ。そういう希少な人間が、学園には多く集まる。
(そう考えると、学園祭にレイヴン商団が入ってるの、怖いなぁ)
何も知らない時は、世界中の珍しいものを売っている面白いキャラバンとしか思っていなかった。
今は、世界中の珍しい人間も取引している商団だと知ってしまった。
(とにかく、捕まらないように気を付けなくちゃ)
それより今は、イソトマにとって目の前の光景のほうが怖い。
「本が飛ぶように売れていく。在庫が見る間に減っていく」
バックルームから売り場を眺めて、イソトマは慌てた。
隣でアルエが同じような顔をしている。
「売れすぎです、売れすぎですよ、イソトマ様」
アルエの声はまさに嬉しさ半分、本気の恐怖半分だ。
今日は学園祭初日、まだ昼前だというのに。印刷した部数の半分が売れた。
「一応、確認だけど。いくつ刷ったんだっけ」
「百です。絶対叱られます。絶対、追加で刷れって言われます」
「うぅ……」
ルシアンには千部刷れと言われた。
そんなに出るわけがないので、勝手に0を一つ消した。
どさっと後ろで大荷物を降ろす音がした。
振り返ったら、セインがいた。
「セイン……あの……」
「百なんかで足りるわけがないだろう。学園に何人の生徒がいると思うんだい」
「え……じゃぁ、これから刷るの?」
「最初から千部、刷っておいたよ。これは追加の千部」
「に、二千部……」
アルエの膝がカクンと折れた。
「アルエ、しっかりして!」
イソトマはアルエの腕を掴んだ。
倒れそうになるアルエの体をディルクが支えた。
「ありましたわ。ルシアン様とリリー様の愛の絵本」
女生徒が友達と嬉しそうに売り場に入ってきた。
「愛の絵本……?」
「漫画という名称を皆は知らないからね。絵本付小説、と呼ばれているみたいだよ」
搬入の指揮を執りながら、セインが教えてくれた。
「絵本のルシアン様、素敵だわ。リリー様も麗しい」
「うっとりしますわね。これをイソトマ様が描いているなんて、本当かしら」
「本当らしいわ。一体、どんなお気持ちで書いていらっしゃるのかしら」
「益々、本の内容が楽しみですわね」
「しっ、大きな声で言ってはいけませんわ」
「そうね。行きましょう」
本を購入した淑女たちは、そそくさと消えて行った。
「まぁ、驚くよね。どうしてルシアンは僕の名前を出せなんて言ったのかなぁ」
「そのほうが、面白いからじゃない?」
セインが含み笑いする。
イソトマは、じとっとセインを睨んだ。
「まぁまぁ、今のは冗談にしても。イソトマが婚約解消に積極的って姿勢を示しておきたいからだよ」
「ルシアンとの婚約、リリーにも付け入る隙があるって思わせるため?」
ルシアンをかどわかしてリリーを王妃にしたいレイヴン商団に、作戦は順調だと思わせるためだろうか。
「それもあるけど、それだけじゃない。婚約解消に積極的なら、イソトマがレイヴン商団に誘拐される可能性が低くなるからね」
「それは、まぁ……そうだけど」
リリーがイソトマを誘拐したのも、婚約解消に応じないと誤解したからだ。リリーが王妃になるのに邪魔なイソトマは、いつレイヴン商団に誘拐されてもおかしくない。
「学園祭の間は、絶対に一人にならないように。必ず誰かと歩くんだよ」
「うん……最初は、セインでしょ?」
「デートのお相手? 初日の午後、俺が一番だね。よろしく」
セインがイソトマの手を握った。
指先に、挨拶のキスをする。
「しっかりエスコートさせてもらうよ」
前までは何とも思わなかったのに。
後ろにディルクがいると思うと、セインの言葉に素直に頷く気になれなかった。
コメント
1件
読み終えたわ! 学園祭の準備でバタバタしてるのに、イソトマが勝手に百部に減らしたらセインが二千部持ってきてアルエが膝から崩れ落ちるのが笑えた(笑) あとルシアンが「愛の絵本」って呼ばれてるのとか、イソトマの名前を出してるのはレイヴン商団に付け入る隙を作るためってのも凝ってるな〜。セインのキスに前と違う反応しちゃうのも気になるわ! ディルクとの関係、どうなってくんだろ。