テラーノベル
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「……もー、全然動かないんだけど」
言う事を聞かない指先を見つめながら。
冷えきった指ではまともに弦も押さえられず、中々ギター練習が進まない。
両手を擦ったり握ったりしてみても驚く程効果は無くて。
「急に涼しくなったよね」
同様にギターを触っていた若井が零す。
ほんとだよ。もうほぼ冬じゃん。
そんな急に気温下げなくても良くないですか。
「秋通り越して………あぁもう腹立つ!!」
何度弾き直しても指が思うように動かず、途中で詰まってしまう。
むかつく。全く進まないんですけど。
そんな様子を笑いながら見ていた若井が、ふとギターを床に置いた。
少しだけ近づいた距離。
「手、貸して」
言われるままに差し出すと、それを包み込むようにして若井の手が触れた。
冷えた指先にじんわりと温度が伝わる。
「結構あったかいでしょ。」
割と体温高いんだよ、と笑う若井に息が詰まった。
触れる温かさが胸の奥まで熱くさせるようで。
「やばい。好きになりそう。」
「あれ、まだ好きじゃないの?」
「好きだよ」
即答出来ます。 好きに決まってんじゃん。
こんなの好きにならない方が無理。
「ほんとさぁ、 若井って人たらしだよね」
「言い方よ。
ていうか元貴の手冷たすぎるんだけど」
「”手が冷たい人は心が暖かい”ってよく言いますよね」
「自分で言うんだ」
掌に触れたり指先が触れ合う度、どうしようもなく愛おしさを感じる。
好きだな、なんて思いながら目を見つめれば自然と視線が交わって。
片手を預けたままもう片方を使って頬に触れた。
身体を寄せ、唇に軽く触れるだけのキスをする。
「……なに。笑」
照れたように口元を緩めるその表情が、余計に感情を溢れさせた。
絡んだ指先を解き、そのまま若井の背中に腕を回す。
肩に顎を乗せるようにして抱き締めると、若井が擽ったそうに笑った。
「ほんとになんなの、笑」
「分かんない。何となく」
何となく、こうしたいと思ったから。
抱き締める腕に力を入れて、体重をかけるように身体を預けた。
これだけ触れていてもまだ足りなくて。
「うわ、ちょっと」
危ないな、なんて笑う声が柔らかく耳に響く。
「練習は?」
「んー、後で」
優しく背中に触れる手が暖かい。
確かな温度を感じながら、その身体を抱き寄せた。
コメント
12件
無自覚人たらし若井さん大好物ですありがとうございます

息を吐くようのと同じくらいに、あたかもこれは当たり前なんですけど?くらいの雰囲気で、ふたりの「手を温める」行為と「好き」のやりとりに「あー……うん。そうだよね、ふたりには当たり前だよね!ごめんね!逆にきゅんとしちゃって」と思いました。 愛おしくて堪らない……そんなふたりをありがとうございました……。