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「……はぁ、困ったなぁ……」
room4Sの事務所で四季凪はパソコンと睨み合いながらため息をついた。昼食を取ったあとだからか、少しまぶたが重くなってくるのを、どうにかコーヒーのカフェインで目を覚まそうとしている。
悩みの原因、それはとある一つの依頼によってだった。
もう一口、コーヒーをすすろうとしたところで事務所の扉がガチャっと開く音がした。ふと目線をあげるとそこには、久しぶりに会う後輩の姿があった。
「凪さん久しぶりー」
「うわぁぁっ!?びっくりした〜…え、なになに、急にどうしたんですか」
急な来訪に驚きながらも、久しぶり会った後輩との再会を素直に喜んだ。遠慮もなく向かい合うソファに座るのは、後輩である小柳ロウだ。あー疲れた、とでも言わんばかりに体をソファにもたれかかせ、くつろいでいる。
「いや、最近こっちの方で仕事があってさ、帰り際寄ってみただけ。あ、忙しかった?」
「そりゃもう……今絶賛取り込み中というか、取り込みかかる前というか」
はぁ、ともう一度ため息をつき四季凪はおもむろに立ち上がった。気分転換に紅茶でも入れよう、と茶葉と茶菓子を棚から探す。
「お茶なんていいのに」
「いやいや、急とはいえせっかく来てくれたしね」
お湯を注ぎ茶葉が開くのを待つ。待っている間、暇になるのがもどかしいような様子で小柳が口を開く。
「それで、なにそんな悩んでんの?」
四季凪は喋ってもいいものか、と少し悩んでから、ちょっとならまぁ同業のようなものだしいいか、と細かいことは気にするな、といった様子で話し出す。
「……実は、良くしてもらっている方から急な依頼が来まして。まぁそんなに難しい依頼ではないのですが…2人ならね。」
「2人ならって、そういえば相方は?」
「それが……最近の依頼でちょっと怪我しまして……本人は大丈夫と言っているんですが、大事を取って療養中です。」
この前の依頼、相手が少々こざかし…やり手だったこともあり、無茶な戦い方をしてしまった、相方であるセラフが怪我を負った。本人はこういうのは慣れてる、と言うが周りがそれを聞かなかった。四季凪もそうだが、特に奏斗と雲雀の心のこもったお説教が効いたのか、今は大人しくしている。
「ふぅん……それでどんな依頼?」
「依頼内容は守秘義務なので言えないですねぇ。あなたが手伝うって言ってくれるなら言ってあげますけど。」
そんなことを冗談混じりに言ってみると、小柳はうーん、としばらく考え込んだあと、何かを思いついたように笑みを浮かべた。
「その依頼、手伝ってあげる。」
「えっ?!うそ、」
思ってもいなかった回答に四季凪は思わず声をあげた。
「…けど成功したら、俺のお願い1個だけ聞いて」
「……そんなのでいいんですか?」
と、問いかけても不敵な笑みを浮かべるだけの彼から、心のどこかで嫌な予感がするのを誤魔化して、今回の依頼の説明を始めた。
「えー…今回の依頼は、とあるパーティに潜り込み、そのパーティを主催しているグループの幹部が持っている大事な情報が入っているusbをくすねてくる、という依頼です。」
「へぇー、パーティね……」
「そしてその幹部と一緒に私が部屋に入って盗んでくるので、その間の警備をお願いしたいです。まぁ護衛ですね私の。」
と、そう言いパソコンをパタンと閉じ、四季凪がどこかへと向かう。
「凪さん?」
そう問いかけると、奥の部屋から何かを手にしている四季凪が戻ってきた。ふと目をやるとそこには、新調されたと一目でわかるほど、ピシッとしていて綺麗な黒いスーツがあった。ふふん、とでも言いたげなドヤ顔で四季凪はこう言った。
「そして、あなたにはこれを着てパーティに行ってもらいます。絶対似合うから!」
「あ〜、なんか堅苦しそう。これじゃダメなん?」
「いやいやいや何言ってんのよ、パーティにそれじゃ、逆に目立ちまくりなんですけど。私と身長同じぐらいですよね?多分ピッタリだと思います。」
有無を言わさず、スーツを小柳に押し付け、またもや四季凪は奥の部屋にバタバタと忙しなく向かってしまった。
(えー…超ピッタリじゃん。身長同じぐらいかってことは、これ凪さん用だったんだろうな)
などと、考えながら袖を通していくと、ガチャっと扉の音がして、振り向くと四季凪が立っていた。
「どうです、この服。いい感じじゃないですか?オーダーメイドなんですよ。」
四季凪が装っていたのは、スーツといえばスーツだが、シャツに少しフリルがあしらってあったり、パンツの裾の幅が広くなっていたり、もともと華奢な方ではある身体がさらに華奢に見える服装だった。所々に金色の刺繍が施されており、あらゆるところに四季凪の趣向が反映されていた。
「え、いいじゃん似合ってるよ。」
ジャケットを羽織りながら四季凪に近づき小柳はそう言った。突然の近さと、その直球で素直な言葉に小恥ずかしくなった四季凪は必死に目線を外へと逸らす。
「…ありがとございます…」
目線を逸らした先には時計が掛かっており、その時間はそろそろ向かわないとパーティに遅れてしまう時刻だった。
「はいっ!じゃ、準備出来たということで行きましょ。」
赤くなった顔を見られないように、小柳の背中を押して事務所を後にした。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「わぁ…」
依頼でこういった場所には訪れはするが、ここまで華やかな会場には足を踏み入れたことはなかったので、思わず四季凪は感嘆してしまった。
キラキラと豪華なシャンデリアが煌めき、人々は乾杯の前の会話を交わしていた。そこらじゅうに食欲を唆る食事が並んでおり、手に取りたいが、今はそれどころではない。
「なるべく早く見つけたいですねぇ…」
「…凪さん、俺なんか取ってくるけど何食べたい?」
「私も食べたいところですが、この後に響きそうなので。すみません。」
「え〜、じゃあ俺のちょっと食べるぐらいなら平気じゃない?」
などと、会話を交わしていると、このパーティの主催である、グループの会長がステージに立って挨拶を始めた。それに伴って、ウェイターからドリンクを渡されたのでそれを各々手に取った。
会長が決まったような言葉を言い、それに合わせて皆が乾杯、とグラスを掲げた。
「あ、普通に美味しいわ」
きっとカクテルか何かで見た目が色鮮やかなのもあって少し心配だったが、アルコールもそれほど高くはなく、飲みやすい味になっている。
それからほどなくして、皆近くの者と話し出したり、グループの者などに挨拶しに行ったりした。
「凪さんこれからどう動く感じ?」
会話がバレないように耳元で小声で話されるのがくすぐったく感じた。四季凪はうーん、と考えたあと、手にしていたグラスを飲み干し口を開く。
「先ほど、ターゲットを見つけました。会長の近く、ほらあの真っ青なドレスを着ていてる女性と話してる派手なスーツの。」
「あぁ、あれね。」
小柳は目線の先を指で差しかけたが、その指を無理やり掴んで下に降ろした。
「ちょっと、怪しまれないようにしてくださいね?!」
四季凪が焦ったようにそう言い、ごほんと気持ちを整えるように軽く咳払いをした。
「とにかく、私が自然に近づくので周りをよく見ててくださいね?あ、あとその美味しそうなやつ、」
一口ください、そう言いかけた途端、背後から肩を叩かれ振り返ると、中年のいかにもセレブという感じの男が話しかけてきた。
「いや君とっても美人だからさ〜、見たことない顔だし。ちょっと向こうで話さない?」
その男は、まだパーティは始まったばかりのはずなのにだいぶ酒の匂いがキツく、酔っ払っているのが分かった。
「え、えーと」
まぁいいじゃないかとでも言いたげに、腕を掴み四季凪の身体を男の方に寄せようとした。が、それは叶わなかった。
「すいませーん、彼、俺と話してるんで。」
小柳に腰を掴まれグイッとその男から引き剥がされる。一応笑みを浮かべてはいるが、誰から見てもおっかない笑い方だった。特に目付きが恐ろしく、中年の男も酔いが覚めたように、顔色がサァッと青くなって、やっと身を引きどこかへ去って行った。
「…助かりました。ありがとうございます。」
「俺、護衛係だし。あとでご褒美ちょうだいね。」
言葉には出さなかったが、その様子がなんだか、傍から見たら狼のような彼が、飼い主に忠実な番犬のようだと四季凪は心の中で思った。
「はいはい、もうご褒美って…」
それにしてもいつ腰を離してくれるのか、これも護衛の一環なのだろうか、そんなことをぐるぐるとなぜか落ち着かない気持ちで考えていると、タイミングがいいのか悪いのか、ターゲットがこちらに迫って来た。
「主人を護るのは素晴らしいけど、あまり束縛が激しいとウザく思われちゃうよ?」
ターゲットは四季凪の掴まれている腰辺りを見てそう言った。その目線に気づくとパッと手を離される。
そのターゲットは依頼主から聞かされた通り、眉目秀麗でスラッとした老若男女問わず好かれそうな好青年だ。
一見、女性なんて引く手数多だろう。が、なぜ四季凪に依頼が来たのか、それを考えると答えはこうだ。
「まぁまぁ、そんなピリピリしないで?それより私とお話しませんか?」
「っは、はい。こちらこそ…」
四季凪がターゲットを見上げ、いつもより甘えた声で話すと、好青年はドギマギしている様子で応えた。
そう、なぜ依頼主は四季凪に依頼したのか。それは、ターゲットのタイプが四季凪にドンピシャだったからである。黒髪、眼鏡、歳下だけど大人びた感じの男性。そんなこんなで依頼が来たわけだ。
四季凪とターゲットの会話に入る隙もなく、まぁ護衛として来たわけだから当たり前と言っては当たり前だが、小柳は一人寂しく壁の花になっていた。
だが壁の花、とはよく言ったもので、傍から見るとその立ち姿は花なんて可愛らしいものではなく、目付きだけで人一人殺せるぐらいの勢いだった。もちろんその先に居るのはターゲットと四季凪である。もちろん、四季凪はその異様な視線に気づいてはいるが、ターゲットは目の前のどタイプの人のせいで気づいてもいない。
「へ〜、そうなんですね!すごいな…」
「ハハッ、君みたいな綺麗な人に褒められると照れるよ」
などと二人は仲良さげに会話が弾んでいく。そろそろ部屋に移行したい頃だ、そんなことを考え、四季凪はとある作戦を決行する。
「あれ、なんかクラクラする…私お酒は弱くないはずなんだけど…」
「大丈夫?どこか横になれるところ…」
「なんだか、あなたと話すのが楽しくていつもより早く酔っちゃったかもですね…」
そう、酔っ払い作戦決行である。そんなにお酒は飲んでいないし、飲んだとしてもアルコール度数は低いものばかりだ、酔うはずがない。だが、そんな火照ったような演技の四季凪を見てターゲットは我慢ならなくなったのか、次のステップに進む言葉を言った。
「…僕の部屋で良ければ」
(この依頼ってもしかしてハニトラとかする系のやつなんかな…えー…なんかヤダな)
先方を睨みつけながら、自分の感情を押し殺していると、何やら二人がどこかへ歩き出した。それに合わせて、小柳も飲み干したグラスをウェイターに預けひっそりと後をつける。
「わぁ…すごい夜景が綺麗ですね。」
通されたのはこのホテルの最上階に近い高さの部屋だった。そこから見える夜景はキラキラと輝いていた。窓際に置かれていたローテーブルの上には赤ワインが2本並んでいた。
「あぁ、安心して。これ以上呑めとか言わないから。こっちの一本は僕の、そっちは君用に手配したノンアルのワインだよ。」
彼は手際良くワインのラベルを切り取り、コルクを栓抜きで取る。
「じゃ、乾杯」
お互いのグラスを掲げ、2度目の乾杯をした。ワインは渋味もあったがあとから甘味が来て美味しく感じられた。
(こんなにいいワインを呑ませてくれたのに、なんか悪いなぁ…)
と、これから行う予定の出来事を思い返しそんなことを心の中で考える。外の夜景を見ながらちびちびとワインを呑んでいくと、いきなり彼がこちらに迫ってきた。あと数センチもすれば唇と唇が触れ合う距離にあった。
「2人っきりになれる部屋に来るなんて…僕がそういうつもりだって、分かってて来てくれだんだよね?」
彼の瞳がこちらに訴えかけてくる。その瞳は熱を孕んでおり、四季凪しか視界に入っていないようだった。
(あ、これ取れるな)
そう思った瞬間、彼のジャケットに隠されているusbに四季凪の手がスっと入り、彼に気づかれないまま、抜き取ることに成功した。
(さて、これからどう後片付けをするか…)
さすがに殺すのはやりすぎだ。かと言ってこのままだと確実にキスをされ、そしてそれ以上のことになり、気づけば朝、彼とベッドの中だろう。さすがにそれは避けたいところだ。
(まぁ、このために吸っちゃうと眠くなる薬液を染み込ませたハンカチがあるんだけどね〜、ちょっといい夢見たってことにしといてもらおう。)
四季凪が片手を彼の肩に置き、今からキスでもするかのように油断させ、もう片方の手をハンカチが入っているポケットに手を伸ばしたときだった。
「片手で何をしようとしてるのかな」
「…えっと」
(まずいまずい…バレた!)
一般的に言えば、こんなシチュエーションになったら、肩に片手だけ置くのは不自然だと思ったのだろう。完全にキスを待っていた彼の目が開き、四季凪の片手に視線が移ったのだ。彼は単純に応えが気になるのか、それともこのあと起きるであったことに気づいているのか、四季凪の様子を見てニヤニヤと笑みを浮かべていた。
(はぁ〜〜〜、クッソ、どうしようかな…)
「ガハッ…?!」
突然、彼が苦しそうな声を上げもがき出した。
「ちょ、ちょっと?!え、あなた何してるの?!」
彼は見事に羽交い締めにされ、気を失いかけている。そう、乱入してきたのは言うまでもない。
「だって、俺、凪さんの護衛でしょ?」
完全に気を失った彼をパッと離し、こちらを見つめている。
「…はぁ、助かりました。ちょっとやりすぎな気もするけど…」
そう言うと、四季凪はとあることに気になってドアの方を見た。
「俺がどうやって部屋に来たか気になる?」
その視線を汲み取ったのか、小柳が自信ありげな顔で話し出した。
「実は、部屋の天井の通気口?みたいな所が通れそうだったから通って来た。だから凪さんのことずっと見てた。」
「はぁ〜…そうなのね…びっくりした」
とにかく、usbも抜き取ったことで、彼が起きる前に、警備員が来る前にとっとと早くこのホテルから去らないといけない。
「…と、その前に」
四季凪はテーブルに置かれたワイン、ノンアルではない方をグイッと飲み干した。
「……えー、今そんな飲むのw…」
「え、飲みますか?」
「いや俺、酒そんな好きじゃないんで」
と、一気飲みする四季凪を横目に、どうホテルから出ようか考えていた。
「じゃあ、外にはタクシー用意してますけど、どうやって出ましょうかね 」
四季凪がどうにか動線を確保しようと、ホテル内の構造を確認しようとすると、椅子に座っていたはずが、急に目線が高くなる。
「はっ?!え、ちょ、どゆこと?!」
「あんまバタバタすると落っことすんだけど」
小柳が俗に言う、お姫様抱っこで四季凪を抱えた。急に少女漫画展開になってしまい、混乱してしまう。
「こっから外出て、タクシーんとこまで行った方が早いし多分バレないと思うけど。」
そう言うと、小柳は四季凪に窓を開けるよう促し、軽やかな足取りでビルをつたい降りていく。
「っと…え、凪さん気絶してる?」
「…してないけど、しそう…」
四季凪は見るからに意気消沈しており、今にも口から魂が抜けそうな感じだ。
「ごめんって、まぁ早かったしいいじゃん」
「…あと、そろそろ恥ずかしいので降りてもいいですか…」
四季凪が酒のせいなのか、それともまた違う理由なのか、さっきまで青ざめていた顔がまた赤らんでいる。
「えー、あ、このままでいいから俺のお願い聞いてよ」
「え、いやだから降ろし…はぁ、まぁいいけど…」
「俺にキスしてくんない?」
「……ん?えと…?」
四季凪を持ち上げているのをいいことに、グイッと顔を寄せた。
「だから、俺にキスして」
そう言う小柳の表情は、暗くてよく見えない。ちょうど月と逆光して髪の毛や輪郭が美しくキラキラとしている。
「……困ったな」
四季凪のぽつりと呟いた言葉に、小柳はふっ、とどこか諦めがやっとついたかのような乾いた笑いを浮かべる。そうだよね、そう小柳が言おうとして口を開きかけた時、
「嫌だとか、そう思わないんだよ。これってどういうことなんだろ…ねぇ?」
堪らなくなったように、唇に熱くキスをした。唇だけの接触がやがて舌が絡む。
「っふ、んぁ 」
唇の端から喘ぎ声が漏れる。静かなふたりだけの空間に水音が響いた。
「っ、あの、正直もう我慢できないので、タクシー乗りましょ」
「っはぁ、ん、うん…」
名残惜しそうに唇が離れた。そして、足早に停めているタクシーの元へ向かった。
翌日。目が覚めると知らない天井、体を起こし、隣には四季凪がすやすやと眠っている。
(昨日、あのまま二人でホテル駆け込んで、ついさっきまでシてたんだった。まだ寝てよ…)
ぼすんっ、とベッドに体を預けて、四季凪の方に向けた。
「…もうあんなことさせないようにしよ、俺のものだし」
そう小声で呟き、四季凪の頭を愛おしそうに撫でた。
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