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いつも通りラジオスタジオでひとりでスマホを触っていると
コンコン
ほぼ壊れてるドアを叩く音が聞こえる
「シャル、いますよね?」
聞き慣れた声だけど久しぶりに聞く声。アラスターだった
「約束通り迎えにきましたよ」
「…え…あぁ…」
呼んでと言ったはずなのに…まぁいいや
アラスター「久しぶりに2人で歩きたくてね」
シャット「昨日も歩きました」
スタジオを出ると、地獄特有の赤い空気と雑音が二人を包み込む。
シャットはほんの少しだけアラスターとの距離を空けようとしたが──
アラスターはそれより半歩だけ近づく。
シャット「……近い。」
アラスター「あなたが遠いんですよ。」
シャット「別に……」
アラスター「シャルの歩幅、7年前と変わっていませんね。」
シャット「覚えてるんですか?」
アラスター「忘れるはずないでしょう。」
その一言に、シャットは小さく咳払いしてごまかした。
アラスターは横目でそれを見て、楽しそうに目を細める。
しばらく歩いたあと、
シャットがふとアラスターの服を見る。
シャット「……その服。昨日と同じですね。」
アラスター「えぇ。あなたが見つけられるように。」
シャット「……意味わからない。」
アラスター「同じ服なら、あなたは気づくでしょう?
あなたは細かいところほどよく見ている。」
シャット「……知らないですよそんなの……」
アラスター「昨日、私の背中の破れもすぐ気づきましたよね?」
シャット「見えたから言っただけです。」
アラスター「ふふ。それが嬉しいんですよ。」
シャットは視線をそらしながら、ぽつりと呟く。
シャット「……昨日、私を追いかけてきたのは……本当にハスクが言ったからだけですか?」
アラスター「半分は。
もう半分は……あなたが泣いてる気がしたからです。」
シャット「泣いてません。」
アラスター「泣く寸前、ですね。」
シャット「……その言い方嫌いです。」
アラスター「あなたの涙は、私の大事な音ですから。」
シャット「もっと嫌いになった。」
アラスター「はいはい、褒め言葉ですね。」
アラスター「そういえば……最近えすえぬえす
?を始めたんですよね?」
シャット「ヴォックスのせいで。」
アラスター「なるほど。彼らしい。」
シャット「でも……使い方よく分からないです。
今日も変な通知いっぱいきて……」
アラスター「後で見せてください。
あなたの世界がまた増えるのは悪くない。」
シャット「……あなたの言い方、いちいち……」
アラスター「好きですか?」
シャット「好きじゃないです。」
アラスター「そうですか。私は好きですよ。」
その瞬間、シャットは完全に言葉を失った。
ただ歩く速度がほんの少しだけ早くなる。
アラスターはその背中を追わず、
同じ速度でついていく。
「急がなくてもホテルは逃げませんよ、シャル。」
「別に急いでません!」
「はいはい。」
地獄の街を抜け、ホテルの光が見えはじめる。
アラスター「……あぁ、やっと日常が戻ってきた気がします。」
シャット「……昨日から戻ってますよ。」
アラスター「えぇ。でも……あなたが隣にいる日常は、今日からです。」
シャット「……意味わからないってば……」
アラスターは肩を震わせて笑いながら言った。
「いずれ分かりますよ。」
シャットはなぜか胸が熱くなったまま、
ホテルの扉の前で一度深呼吸した。
ホテルの入り口へと進み
シャットは胸の奥のざわつきを押し込むように息を整えた。
アラスターが扉を開ける。
独特のカラン…という鈴の音とともに、明るいロビーの光が差し込む。
チャーリー「わっ!来てくれたのね!
改めてようこそハッピーホテルへ!」
その隣で──
ヴァギーが槍を持たずとも“槍を持ってるような目”でシャットを睨んでいた。
ヴァギー「……アラスター、なんでまたこの人を連れてくるわけ?」
シャット「この人……?」
アラスター「ヴァギー、あなたの許可は求めてませんよ。
彼女は私のゲストです。それだけで十分でしょう?」
その落ち着いた声が逆に、ヴァギーの警戒を煽った。
ヴァギー「十分じゃない!
昨日だってチャーリーを挑発して──」
シャット「挑発なんてしてません。
ただ“あなたが聞き間違えただけ”です。」
ヴァギーの目がさらに細くなる。
ヴァギー「その態度が挑発って言ってるのよ。」
シャット「……そう見えるなら、そうなんでしょうね。」
アラスターが小さく笑う。
アラスター「シャルは昨日と違い、今日のほうがずっと穏やかですよ。
ねぇ、シャル?」
シャット「……あなたが黙ればもっと穏やかです。」
チャーリー「ちょ、ちょっと二人とも見て!?
ねぇヴァギー、今日は喧嘩じゃなくて紹介の日だよ?」
ヴァギー「チャーリー、私はあなたを守りたいだけ。
それに……この人の噂は聞いてる。」
シャット「私の噂なんて……地獄じゃ星の数ほどありますよ。」
ヴァギー「そうね。でも“あんたがアラスターを殺した”って噂は消えてない。」
一瞬、空気が固まる。
シャットは静かに息を吸い、
ゆっくりヴァギーに視線を向けた。
シャット「……噂が本当なら、あなたの前で笑ってないと思いますよ。」
ヴァギー「言葉だけじゃ信用できない。」
シャット「信用されたいとも思ってません。」
ヴァギー「……」
シャットの黒く染まりかけた瞳がかすかに揺れる。
アラスターがすっとシャットの横に立った。
アラスター「ヴァギー。
彼女を疑うのは構いませんが──」
一拍置いて、アラスターはいつもの笑みで続ける。
「シャルは“あなたたちに危害を加えない”。
私が保証します。」
ヴァギー「……アラスターが保証するのが一番信用できないのよ。」
アラスター「手厳しい。」
チャーリーが割って入るように両手を広げる。
チャーリー「とにかく!
今日はシャットさんにホテルを案内したいの!
ヴァギー、見守ってくれるだけでいいから!」
ヴァギー「……分かったわ。でも目は離さないから。」
シャット「好きにしてください。」
その言い方は丁寧なのに、棘がある。
ヴァギーは舌打ちしそうなのをこらえる。
ヴァギー「チャーリー、先に案内してきていいよ。
私は後ろからついていく。」
そしてチャーリーがホテルの紹介をしている時に
エンジェル・ダストが来た。一度ラジオでも取り扱ったことがある超有名人だけどヴァレンティノ関連で知ったからなんか嫌だ…
「エンジェル、こちらはシャル。私の“特別な知り合い”ですよ」
「特別? へぇ〜。……あっ、もしかして昨晩帰りが遅かった理由ってさぁ──」
エンジェルは意味ありげにニタァァッと口角を上げ、シャットに近づく。
「アンタ、もしかしてアラスターの 夜のお相手 だったり?
どうだった? あの細い体のくせに意外と──」
シャット「っ……!?」
固まった。
本当に“ピタッ”と動きを失い、目を大きく見開いて顔だけ真っ赤に染めて。
アラスター「……エンジェル…黙りなさい」
エンジェルは悪びれもせず肩をすくめる。
「え〜? 聞いただけじゃん。
あ、でもアンタみたいな可愛い子ならさぁ、アラスターが放っておくわけないし?
もしかしてもう──」
シャット「まっ、まっ、まだ何もしてないです!!」
反射で叫んでしまい、言った直後にさらに赤くなる。
アラスターが一瞬だけ「……可愛い」と言いかけて口を閉じた。