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…………………
プルルルルルルルル
プルルルルルルルル
「……はい」
篠崎は傍らに落ちていたスーツを手繰り寄せ、ポケットから携帯電話を取り出した。
「あ、おはようございます!ブライダルハウスSHIMADAの高塚ですぅ!」
その甲高い声に一旦携帯電話を離した。
ため息をつきながらまた横になると、腕で目を覆い、もう一度それを耳に戻す。
「お休みのところ、申し訳ありませーん」
(……休み?そうか。今日は水曜日か)
回らない頭で考える。
「ええと、今日の14時からの打ち合わせについてなんですけども」
そうだ。結婚式の打ち合わせが入っていた。
少し左右に振るだけでひどく痛む頭を包むように髪の毛をかきあげる。
「ご相談なのですが、例のサプライズについてご相談したいことがございまして」
「はい」
「新郎新婦より、早めに来ていただくということは可能ですか?お兄様だけ」
篠崎はベッドの枕元に置いてある3D表示のデジタル時計を睨んだ。
「構いませんよ。では13時半頃、伺えばいいですか?」
「はい。助かりますぅ。その際、新婦様の幼少期の写真もお持ちいただいてもいいですか?」
「……探してみます」
「ありがとうございます。それでは13時半に」
通話を切ると、それをベッド端に投げ捨てるように置いた。
痛みと共に、視界が、思考が揺れる。
軽く吐き気を覚え、篠崎は再びベッドに横になると、回る視界を封じるために目を瞑った。
「…………」
昨夜の記憶をたどる。
「…………!?」
篠崎は慌てて起き上がった。
数時間前まで自分の隣で、気を失ったように眠っていたはずの新谷由樹は、何の痕跡もなく消えていた。