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その日の放課後。
駅前のカフェは今日も騒がしかった。
ガラス張りの店の前には女子高生や大学生らしき客が集まり、店内を覗き込んでは小さな悲鳴を上げている。
「やば、今日いるって!」
「ほんとに顔良……」
「写真撮りたいんだけど」
カウンターの奥で玲央はそれを聞きながら、心底だるそうにレジを打っていた。
――今日も多いな。
胸の内では盛大に嫌そうな顔をしているが、表情にはほとんど出さない。
愛想笑いだけは完璧だった。
学校での玲央を知っている者なら、まず同一人物だとは思わないだろう。
長い前髪で目元を隠し、猫背気味で静かな“メガネ陰キャ”。
だが今の玲央は違う。
重たかった髪は軽いフェザーショートになり、黒縁メガネも外している。
伏せ気味だった目元ははっきり見え、整った顔立ちは嫌でも目を引いた。
しかも接客中は声色まで違う。
「ご注文お伺いします」
「こちら新作になります」
落ち着いた低めの声に、女子客たちはまた小さく騒ぐ。
そして今日は最悪なことに、昼休みに噂していたクラスメイトの女子たちまで店に来ていた。
「あっ、いた!」
「え、ほんとにイケメン!」
玲央はトレーを持ちながら、ちらりと視線を向ける。
……同じクラスの人。
だが向こうはまるで気づいていない。
まあ当然だ、と玲央は思う。
学校では常に前髪を下ろし、メガネまでかけているのだ。
教室の隅で眠そうにしている男子と、今ここで働いている“駅前カフェの看板イケメン”が結びつくわけがない。
「おすすめってありますか?」
「今日何時までなんですか?」
「彼女いるんですか?」
矢継ぎ早に飛んでくる質問を、玲央は塩対応で流していく。
「全部おすすめです」
「閉店までです」
「いません」
淡々。
それなのに女子たちはなぜか嬉しそうだった。
「え、塩なの逆に良くない?」
「わかる〜!」
玲央は内心でげんなりした。
甲高い声が何重にも飛んでくるせいで普通に耳が痛い。
だがその分、売上は上がる。
そしてこの前、店長は満面の笑みでこう言ったのだ。
『玲央くん、もっとシフト入ってくれたら時給上げるから!』
だから玲央は働く。
うるさかろうが、騒がれようが、時給が上がるなら関係ない。
「玲央くーん!追加オーダー!」
「はい」
面倒そうに返事をしながらも、玲央は完璧な接客を続けた。
その頃学校では、誰も知らない。
あの静かな陰キャ男子が、駅前で女子を狂わせていることを。
유리