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ピクニックの日は朝から晴天だった。

初夏らしく日差しが眩しい。

そして、いまわたしの隣に座るアーサシュベルト殿下の髪が、馬車の窓から差し込む初夏の日差しを浴びて、金色の髪の毛が綺麗に輝いている。

本当に豊穣の小麦を彷彿させる色だ。

髪の毛に見惚れていると「どうした?」とその整った顔でわたしに甘い表情を向けてくる。

本当に階段事故の前の時とは別人のように甘くなった。

「いえ」

見惚れていたのがわかってしまうのは恥ずかしい。すぐに目を逸らした。


「それにしても混んでるな。こんなに混むものか?さっきから少しも馬車が進まないな」

「珍しいよな。見頃とはいえラベンダー畑に行くのにこんなに混んだのは初めてだ」

セドリック様がアーサシュベルト殿下とそんなことを会話しながら、チラッとわたしの方を見る。マリエル様も気の毒そうにわたしを見ている。


そうですよね。そう思いますよね。

普段はこんなに馬車が混まないようなラベンダー畑へ続く道。

セドリック様とマリエル様が想像している通りだと思いますよ。


もう20分はほぼ同じ場所から動かない。

セドリック様やマリエル様と楽しく会話をしながら待っていたアーサシュベルト殿下もさすがに痺れを切らしたようだ。

「もうすぐそこだし、歩いた方が早いな」

「アーサー、たぶん歩くのは辞めた方がいいと思う」

隣でマリエル様も頷いている。

「なんでだ?」

殿下が怪訝な表情をしながら馬車から降りると、この時を待っていましたとばかりに多くのご令嬢達で溢れていた。


「これは…何事だ」

「まあ、アーサシュベルト殿下ではございませんか。偶然でございますね。殿下も見頃のラベンダーを見にいらしたのですか?」

ラベンダー畑を見に来たと思えないような場違いのドレスを身に纏い、多くのご令嬢達が殿下と護衛役でもあるセドリック様を取り囲む。


アーサシュベルト殿下が、初めてわたしと一緒に遠出に行くと聞きつけた令嬢達が、わたしへの嫌がらせも兼ねてラベンダー畑に駆けつけたのだろう。

このご令嬢達は、婚約者のわたしの邪魔をして婚約解消をさせたのちは、自分が婚約者の座に収まりたいのだろう。


殿下とセドリック様がドレスの集団に取り囲まれているのをマリエル嬢とふたりで呆然と見ているとセドリック様が集団からなんとか抜け出てきた。


「エリアーナ嬢、マリエル、どこからか今日のことが漏れたようだね。ごめんね」

セドリック様が小声で謝られる。

「いえ、こちらの方こそ申し訳ありません。殿下とわたしが初めて一緒に遠くまで出掛けるとなると、こういう事態になることはわたしが一番わかっていたはずです。おふたりを巻き込んでしまって本当に申し訳ありません」

なんとなく、嫌な予感はしていた。

せっかく、ピクニックの計画を一生懸命に考えてくださったのにわたしがいる所以(せい)で台無しになって、ふたりに本当に申し訳なく思う。


ご令嬢達は意気揚々と代わる代わる殿下に声をかけては、集団で殿下をラベンダー畑に案内するようだ。

わたし達はその様子を見守りながら、後ろからついて行く。

ここでわたしがご令嬢達を窘(たし)めると、余計にややこしくなる。

それにこれまでに舞踏会でも、同じようなことが常だったので気にはしない。

あの頃は、ダンス一曲だけ殿下と踊って、その後は別々の行動でもなんとも思わなかったし、ご令嬢達に取り囲まれている殿下を遠くから眺めては、どうしてあのご令嬢達の中から婚約者を決めてくれなかったんだろうとずっと思っていた。

いまはご令嬢達に取り囲まれている殿下を見ると胸が少しモヤッとするが、そのうちあのご令嬢達の中から、どなたかの手を殿下が取られたらそれで良いと思う。

そんなことを考えていたら、胸が痛むのがわかった。


「エリアーナ!!」

わたし達の前方をドレスの集団と一緒に歩いていた殿下がこちらにスタスタと歩いてきた。


ヒエッーーー

お願いですから、こっちに来ないでください。平和を乱さないでください。

もう、殿下ファンのご令嬢達とのゴタゴタはお腹いっぱいです!

殿下、戻ってくださいっ!!!!


わたしの心の声は届くはずもなく、殿下は微笑みながら、わたしの名前を呼んで、こちらにやってくる。


殿下の後ろではご令嬢達がわたしをものすごい怖い目で睨みつけている。


「殿下、いかがされましたか?早くあちらに戻ってください」


この居た堪れない空気をどうにかしたくて、ご令嬢達の方に戻るように促してみる。


「今日はエリアーナと一緒にラベンダーを見るためにここに来たんだ。一緒に行くぞ」

「えっ…」


わたしに意思確認をすることもなく、グイッとわたしの手首を掴まれると、ご令嬢達の方に歩いて行かれる。殿下に手を引かれるまま、歩いて行くとドレスの壁にぶつかった。


ドレス集団の先頭にいる派手な顔立ちのご令嬢がわたしを上から下までじろりと見てくる。


「アーサシュベルト殿下、今日はせっかく偶然にお会い出来たんですから、婚約者様とばかりでなく皆でラベンダー畑を見ませんこと?」

うん。さすが。

それぐらい、図々しくないと婚約者の座は奪えないですよね。


「今日はエリアーナとセドリック達との会なんだ。悪いが一緒には見れないな」

殿下はそう言われると、まだ後方にいるセドリック様達に目を遣り、早く来るように促す。


「エリアーナ、行くぞ」

結局、わたしは殿下から手首を離してもらえず、連行されるかのようにラベンダー畑に向かう。

ドレスの集団と少し距離が出来たところで殿下が急にわたしの手首を離された。

「これじゃあ、ダメだな」


なにがダメなのかわからずで、キョトンとして殿下を見上げる。


「はい!エリアーナ」


殿下が手のひらを上にして、手を差し出してくださった。

まさかのエスコート。


「ええっと、わたしですか?」

「他に誰がいるの?」

「いえ…あちらにたくさん」

視線を後方にいるご令嬢に向ける。

殿下が「ああ…あれね」とボソッと呟かれる。

「俺がエスコートしたいのはエリアーナだけだけど?」

「婚約解消してくださるなら、いますぐ殿下の手を取りますが」

わたしはニコニコ満面の笑顔で答えると、それを聞いた殿下が思いもしない戯(おど)けた表情をされたので、思わず笑ってしまった。


「笑っているエリアーナは堪らなく可愛い。今すぐ抱きしめても?」

「婚約解消してくださるなら」

再び殿下が戯けた表情をされたので、また笑ってしまった。


殿下が早く手を取れと、目で訴えてくる。

少し躊躇(ためら)いながら殿下の手を取ると、アーサシュベルト殿下は満足気な表情して、甘い微笑みを溢された。

悪役令嬢を回避しようと足掻いている公爵令嬢は前世を思い出した王太子殿下に溺愛される

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