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若井は目を逸らした。
けれど、大森は逃がさない。
「なに黙ってんの。――“もっと”反抗してみろよ」
「……やめろって言ってるじゃないですか……っ」
「その言葉、俺に命令してるつもり?」
大森は片手を机につき、もう片方で若井の顎を掴んだ。
ぐいと顔を上げさせる。
「上司に命令なんて……ほんと、どういう教育されてんの?」
「っ……!」
「ほら、震えてる。こんな顔で仕事してたの?俺に従いながら?」
耳元で囁く声。
その声が、鳥肌が立つほど、いやらしく柔らかかった。
「嫌いな人間に支配されて、従って、黙って働いて……お前って、ほんと歪んでるな」
「黙ってください……」
「なんだよその顔。“やめて”って言いながら、反応してんの……お前の身体の方じゃねぇの?」
――ズキ、と胸が痛んだ。
羞恥か、怒りか、わからない。
でも確かに、心のどこかを、抉られた感覚。
「俺が命令すりゃ、全部やるくせに。さっき“限界”って言ってたくせに、また残ってんじゃん」
「……っ、やめろ……っ!」
「やめろ、じゃねぇって言ってんの」
ドン、と音が鳴るほど、机に体が押しつけられる。
体温が近すぎて、呼吸が苦しい。
「お前が俺を嫌いでも、関係ない。――俺が、お前を好き勝手に使う。それだけだろ?」
「……ッ!」
若井は、声にならない声で息を呑んだ。
それは怒りでも、拒絶でもなく――何か、別の感情。
「わかってんだろ?……俺に逆らえない自分、もう気づいてるくせに」
大森の声が、耳に残る。
胸を締めつけるようなその重みが、若井の心を、ゆっくりと蝕んでいった。