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「ああ、コユキ様ぁ、いらっしゃたんですね? 今丁度、汚物の消毒が終わった所ですよぉ! ここには敵対者は居りません、どうぞ、ゆるりとご休息下さいませぇー」
「あ、ああ、うん」
上の階で満面の笑顔を浮かべてコユキ達一行を迎えたのは、スプラタ・マンユ一の馬鹿たれ、アヴァドンの嫌になる位爽やかな笑顔であった。
例の金色の射手(いて)、オリジナルの弓手(ゆんで)にメタモルフォーゼを果たした男前は当たり前の如く、自らが為した虐殺を自慢気に報告して来たのである。
「ここにはさっきまで、『紅蓮(ぐれん)のウコバク』とか名乗るサタナキアの副将、魔将とか言う輩(やから)がいたんですよぉ、生意気にも我輩にチャレンジして来た物ですからね、たった今、影も残さず焼き尽くしてくれた所のなのですよぉ! クフフフフ、温(ぬる)い、温すぎる! 我が灼熱は次なる供物を欲しているのですぅ!」
「あ、ああ、そうね…… ほらっ! 去年もやったじゃない? 端午の節句のチマキぃ! あと一月ちょっとだからそこでアヴァドンちゃんの火力が生きてくるんじゃないのぉ?」
「おおぉ、チマキな、チマキっ! ふふふ、全て蒸し上げてくれん、一瞬だっ、一瞬っ!」
「お、応っ! 期待しているのでござるよアヴァドン! んで、オルクス君はどこなのでござるか? まさか、死んでないよね?」
アヴァドンは焦土と化したフロアの奥を指さして答えた。
「我輩が周囲の熱を高め始めるとサタンの奴ばらメはこんな感じの戯言(ざれごと)を発して逐電(ちくでん)を図ったのですよ、何だったかな? 『頭の可笑しい魔王を相手には出来ぬ』とか何とか? んまあ、負け犬の遠吠えでしょうね…… だってここには頭の可笑しい魔王なんて皆無でしたからね♪ 全く訳のわからない魔神ですね、アイツってば! ほらあそこの壁が破壊されているでしょう? あそこから外に逃げちゃったんですよぉ! 長兄が追い掛けて行ったから今頃はとっ捕まえてるんじゃ無いですかねぇ? 多分、エヘヘェ」
頭の可笑しい魔王はやっぱり頭が可笑しかった様である。
自覚が無いのも問題だが、それよりも重大な問題は、いまだレッサー並の力しか持たず、フィギュアから姿を変えることも出来無いオルクス、彼一人にラスボスっぽいサタン討伐の重責を負わせてヘラヘラ笑っているとは……
頭が可笑しいというより、コイツこそ狂ってんジャン? そう、コユキと善悪に感じさせるには十分すぎる程の愚かさであったのだろう。
故に二人は又もや声を揃えたのである。
「「この大馬鹿っ! オルクス君のピンチでしょうがっ! さっさと行くよっ! 全く、もうっ!」」
そう大声で宣言すると、リョート宮殿の壁に開いた穴から次々と身を投じて行く一行、その後を慌てて追い掛けるスプラタ・マンユの末弟、アヴァドンの姿があったのである。
コテッ
尻餅を付いたアヴァドンの前にはコユキと善悪を先頭にした『聖女と愉快な仲間たち』がそろって目を凝らしている、そんな姿が映っていたのである。
場所は氷の宮殿の裏庭、言ってみればそんな感じのだだっ広い草原の只中であった。
「マ、マテェーッ!」
「待たぬっ!」
「マッテッテバァッ!」
「待たぬっ!」
「クッ! リ、リエピダ! リエピダ! リエピダ!」
「ほっ! はっ! ほいっとっ! わははは、そんな愚鈍な攻撃など喰らうものか! 大馬鹿者め!」
いつも通りの小さなオルクスが漆黒のデスサイズを振り回しながら、現在実行可能な最大の速さ、『風よ(アネモス)』で追い掛け回しつつ、『飛刃(リエピダ)』を発射してサタナキアを追い詰めようとしている様だ。
と、聞けば真剣勝負の真っ最中、緊迫の場面にしか思い描けないであろうが、何故だろう? 追うオルクスも追われるサタナキアも、交わす言葉もその表情も、揃ってどこかホンワカしたムードを漂わせていた。