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りゅず
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その日、目黒と阿部は事務所の会議室へ呼ばれていた。
担当マネージャーが二人へ一冊の資料を差し出す。
「実は、お二人にタイアップのお話が来ています。」
「タイアップ?」
目黒が資料を受け取り、阿部と一緒にページをめくる。
そこには、二人が作った楽曲のタイトルと、大手婚活アプリの名前が並んでいた。
「婚活アプリ?」
阿部は思わず目を丸くする。
マネージャーは頷いた。
「結婚式場を舞台にした新しいCMです。」
「お二人の曲をテーマソングとして使いたい、と。」
目黒は驚きながらも嬉しそうに笑う。
「俺たちの曲を?」
「はい。」
マネージャーはさらに続ける。
「それだけではありません。」
「企業様から、ぜひお二人にもCMへ出演していただきたいというご要望をいただいています。」
「出演も?」
「はい。」
「何組か候補はあったそうですが、『この曲だからこそ、目黒さんと阿部さんに演じてほしい』と強く希望されたそうです。」
二人は顔を見合わせた。
目黒はもう一度資料を見る。
「すごいな……。」
その横で、阿部は絵コンテを静かに見つめていた。
教会。
純白のタキシード。
指輪交換。
笑顔で歩く二人。
最後には、祝福の中で未来へ歩き出すカットまで描かれている。
阿部の視線が止まる。
(結婚式……。)
胸が少しだけ締めつけられた。
自分たちは、現実ではまだ籍を入れられるかどうかも分からない。
そんな自分たちが、結婚式のCMに出ていいのだろうか。
自然と考え込んでしまう。
隣を見ると、目黒は真剣な表情で絵コンテを読んでいた。
次のページをめくるたびに、少しずつ表情が柔らかくなっていく。
「……。」
最後のページまで読み終えると、目黒は小さく笑った。
「いいCMになりそう。」
その笑顔は、本当に楽しそうだった。
阿部はその横顔を見つめる。
(めめは……。)
(嬉しいんだ。)
その笑顔を見ているうちに、阿部の中にあった迷いが少しずつほどけていく。
目黒が望んでいるなら。
二人で歩いていける未来を、この曲と一緒に届けられるなら。
それも一つの形なのかもしれない。
阿部はゆっくり資料を閉じた。
「めめ。」
「うん?」
「この仕事。」
少しだけ照れながら笑う。
「二人でやろう。」
目黒はすぐに頷いた。
「もちろん。」
「俺もそのつもり。」
マネージャーは二人の返事を聞き、ほっとしたように笑う。
「ありがとうございます。」
「企業様もきっと喜ばれます。」
会議室を出る帰り道。
目黒は嬉しそうに資料を抱えながら歩いていた。
「撮影、楽しみだね。」
その一言に、阿部も自然と笑顔になる。
「うん。」
「俺も楽しみ。」
現実では、まだ分からない未来がある。
それでも今は。
目黒と二人で歩いていけることが、何より幸せだと思えた。
___________
撮影当日。
目黒と阿部がスタジオへ入ると、そこには本物の結婚式場と見間違うほど美しいセットが広がっていた。
真っ白なバージンロード。
色とりどりの花々。
柔らかな光が差し込むステンドグラス。
阿部は思わず足を止める。
「……すごい。」
隣で目黒もゆっくりと辺りを見渡し、嬉しそうに微笑んだ。
「本当に結婚式場みたいだね。」
スタッフに案内され、二人はまず衣装合わせへ向かう。
「では、お二人はこちらへ。」
それぞれ別々の控室へ入り、着替えが始まった。
先に準備を終えたのは目黒だった。
純白のタキシードに身を包み、鏡の前でネクタイを整える。
少し照れくさそうに笑いながら鏡を見ると、控室のドアがノックされた。
「目黒さん、阿部さんのご準備も整いました。」
スタッフの声に振り返る。
すると、向かいの控室の扉がゆっくりと開いた。
純白のドレスをまとった阿部が、少し恥ずかしそうな表情で立っていた。
柔らかなレースのベール。
上品に広がるドレス。
その姿は息をのむほど美しかった。
目黒はしばらく言葉を失い、そのまま阿部を見つめる。
「……めめ?」
照れたように阿部が声を掛けると、目黒はようやく我に返った。
「……すごく似合ってる。」
その一言に、阿部は頬を赤く染める。
「ありがとう。」
「めめも。」
「すごくかっこいい。」
二人は照れ笑いを浮かべながら、撮影場所へ向かった。
___________
最初の撮影は、チャペルを歩くシーンだった。
監督が二人の前へ立つ。
「今日は、お二人とも演技をする必要はありません。」
監督は穏やかに微笑む。
「普段通りで大丈夫です。」
「お互いを見て、自然に笑ってください。」
「それだけで十分です。」
「よろしくお願いします。」
二人は並んで立つ。
スタッフの合図が響いた。
「本番いきます!」
静かな音楽が流れ始める。
二人はゆっくりと歩き出した。
最初は少しぎこちなかった。
そんな阿部の様子に気付いた目黒は、そっと手を握る。
温かな手のぬくもり。
その瞬間、不思議なくらい緊張がほどけていった。
「大丈夫。」
誰にも聞こえないくらい小さな声で目黒が言う。
阿部は小さく頷く。
「うん。」
自然と笑顔がこぼれた。
二人はゆっくりとバージンロードを歩いていく。
その姿は、演技ではなく、二人の日常そのものだった。
モニターを見つめていた監督が思わず呟く。
「……これだ。」
「演技じゃない。」
「二人の空気が、そのまま映ってる。」
周りにいたスタッフも静かに頷いた。
___________
休憩時間。
阿部はチャペルの椅子へ腰掛け、祭壇をぼんやりと見つめていた。
そこへ目黒が飲み物を二本持って歩いてくる。
「はい。」
「ありがとう。」
ペットボトルを受け取り、一口飲む。
しばらく静かな時間が流れた。
やがて阿部がぽつりと口を開く。
「実はさ。」
「最初、この仕事ちょっと怖かった。」
目黒は何も言わず、続きを待つ。
「結婚式のCMなんて。」
「俺が出ていいのかなって思ってた。」
少し俯く阿部。
目黒は優しく笑った。
「俺、分かってたよ。」
「絵コンテを見てる時。」
「あべちゃん、少しだけ悲しそうな顔してたから。」
阿部は驚いたように目黒を見つめる。
目黒は阿部の左手をそっと包み込んだ。
薬指には、おそろいの指輪が光っている。
「でも俺は。」
「だからこそ、この仕事をやりたいって思った。」
「形じゃない。」
「『この人と生きていきたい』っていう気持ちを伝えるCMなんでしょ?」
「だったら。」
目黒は優しく微笑む。
「俺たち以上に、この曲を届けられる人はいないと思う。」
阿部の目に涙が滲む。
「……うん。」
「そうだね。」
ゆっくりと頷く阿部を見て、目黒も穏やかに笑った。
「よし。」
「後半も頑張ろう。」
「うん。」
二人は立ち上がり、再びチャペルへ向かって歩き出す。
寄り添うその背中を見つめながら、監督は小さく呟いた。
コメント
2件

言葉に出来ないくらい心に響いて泣けて来ました 色々あった、でも二人で歩いて行こうって気持ちがすごく伝わってきました 2人を取り巻く周りの環境も優しく見守ってくれていてまたそれが泣けて来ました
みぅです🤍🥀 第3話、読み終えたよ。 結婚式のCM撮影、すごく素敵だった…。特に阿部が「自分が出ていいのかな」って悩んでたところに、目黒が「俺たち以上に届けられる人はいない」って言ったシーン、胸にじんわりきた。現実の壁を感じながらも、それでも二人で歩いていこうとする気持ちが伝わってきて、なんか泣きそうになった。 次の話も楽しみにしてるね🌙