テラーノベル
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後半の撮影が始まった。
チャペルの祭壇には柔らかな光が差し込み、スタッフたちも自然と声の大きさを抑えている。
監督が二人の前へ立った。
「次が最後のシーンです。」
「指輪交換のカットを撮ります。」
スタッフがケースに入ったリングを運んでくる。
目黒は思わず阿部を見る。
阿部も少し照れたように笑った。
監督は二人の様子を見ながら話し始める。
「今回は商品のCMではないので、細かい演技指導はしません。」
「本当に大切な人へ指輪を贈る気持ちだけを考えてください。」
「その気持ちが映れば十分です。」
二人は静かに頷いた。
「本番いきます!」
チャペルに音楽が流れる。
二人は祭壇の前で向かい合った。
スタッフからリングケースが手渡される。
目黒はケースを開き、小さく息を吐いた。
毎朝確認して家を出る、大切な約束。
その記憶が自然と蘇る。
目黒は阿部の左手をそっと取る。
「失礼します。」
台本にはない小さな一言。
阿部はくすっと笑った。
「お願いします。」
二人の自然なやり取りに、スタッフも思わず笑みを浮かべる。
目黒はゆっくりと指輪を薬指へ通す。
その手は優しく、どこまでも大切そうだった。
阿部もリングを受け取り、目黒の左手を包む。
「……めめ。」
小さく名前を呼ぶ。
「うん。」
目黒も穏やかに微笑む。
阿部はゆっくりと指輪をはめた。
お互いの薬指に光る二つの指輪。
二人は自然と顔を見合わせた。
その瞬間。
どちらからともなく笑みがこぼれる。
監督はモニターを見ながら小さく拳を握った。
「……カット。」
少し間を置いてから、大きく声を上げる。
「最高です!」
スタジオ中から拍手が湧き上がった。
スタッフたちは口々に「素敵でした」「本当に自然でした」と声を掛ける。
阿部は照れくさそうに笑いながら目黒を見る。
「緊張したね。」
目黒は首を横に振った。
「途中から忘れてた。」
「撮影ってこと。」
阿部は小さく笑う。
「めめと向かい合ってたら、いつもと同じ気持ちになってた。」
その言葉を聞いた目黒は、優しく目を細めた。
監督が二人のもとへ歩いてくる。
「お疲れさまでした。」
「正直、演技指導はいらないと思っていました。」
「それくらい、お二人の表情には説得力がありました。」
監督は少し照れたように笑う。
「今日撮れたのは、恋人を演じた映像ではありません。」
「お互いを本当に大切に思っている二人だからこそ撮れた映像です。」
阿部と目黒は顔を見合わせ、少し照れながら笑った。
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スタジオを出る頃には、外は夕焼けに染まっていた。
目黒は阿部の隣を歩きながら、そっと手をつなぐ。
「完成、楽しみだね。」
「うん。」
阿部はその手を握り返した。
「きっと、この曲と一緒に届くよ。」
二人は夕焼けの中を並んで歩きながら、完成するCMに思いを馳せていた。
___________
CM公開日。
目黒と阿部は仕事を終え、自宅のリビングで並んでソファに座っていた。
時計が公開時間を指す。
「そろそろだね。」
阿部が少し緊張したように呟く。
「うん。」
目黒もスマートフォンを手に取り、小さく頷いた。
数秒後。
企業の公式アカウントにCMが公開された。
二人はテレビへ映し出された映像を静かに見つめる。
チャペルを歩く二人。
自然に笑い合う二人。
薬指に指輪を通す場面。
そして、二人が作った曲が優しく流れる。
映像が終わると、しばらくどちらも何も話さなかった。
「……なんか。」
阿部が照れ笑いを浮かべる。
「恥ずかしいね。」
目黒も笑った。
「俺も。」
そう言いながら、コメント欄を開く。
そこには想像を超える数の感想が寄せられていた。
『この曲を聴くと、大切な人に会いたくなる。』
『CMなのに泣いてしまいました。』
『二人の空気感が自然すぎる。』
『結婚式って形じゃなくて、「一緒に生きたい」って気持ちなんだなって思いました。』
『この曲にまた救われました。』
阿部は一つひとつのコメントを大切そうに読んでいく。
やがて、小さく笑った。
「……嬉しい。」
「うん。」
目黒も静かに頷く。
「あべちゃん。」
「俺。」
「この仕事、受けて本当に良かった。」
阿部は目黒を見る。
「あの日は怖かったけど。」
「今は受けて良かったって思える。」
目黒はそっと阿部の左手を握った。
薬指には、いつもの指輪が光っている。
「結婚式は、一日だけのものかもしれない。」
「でも。」
「一緒に生きるって決めることは、毎日の積み重ねなんだと思う。」
阿部はその言葉を聞いて、ゆっくりと頷いた。
「うん。」
「俺もそう思う。」
窓の外には、ゆっくりと夜が訪れていた。
目黒は阿部の肩へそっと寄り添う。
阿部も自然ともたれかかった。
派手な結婚式はなくても。
法的な形がまだどうなるか分からなくても。
毎朝「行ってきます」と言い合い、
毎晩「おかえり」と笑い合える場所がある。
それだけで十分幸せだと、二人は知っていた。
テーブルの上には、撮影で使われた絵コンテが一冊。
最後のページには、スタッフが書き残したメッセージがあった。
『末永く、お幸せに。』
その文字を見つめた二人は顔を見合わせ、照れくさそうに笑う。
「これからも。」
目黒が小さく呟く。
「よろしくね。」
阿部は迷いなく頷いた。
「こちらこそ。」
二人はもう一度手をつなぐ。
その手は、あの日チャペルでつないだ時よりも、少しだけ強く、少しだけ温かかった。
コメント
1件
みぅだよ〜🤍🥀 今回もすごく良かった…! 指輪交換のシーン、台本にない「失礼します」って一言がもう…二人の関係性が滲み出てて、胸がぎゅってなったよ。 監督の「演技指導はいらない」って言葉も、全部を物語ってるよね。 CM公開後の、何も言えなくなる二人とか、コメント欄を読む阿部くんの「嬉しい」で、私も一緒に嬉しくなった。 最後のスタッフからのメッセージ、「末永くお幸せに」って…。 派手じゃなくても、毎日を積み重ねていけることの尊さを描いてくれて、ありがとう。 この温かさ、ずっと覚えてるよ🌙