テラーノベル
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一年前ぐらいに書いたもの。短い。
:雪の日
「もう終わりにしよっか。」
僕の帰りを部屋で待っていた彼は目線を落としながら遠慮気味にそう言った。
「…………。」
部屋の中に重々しい沈黙が流れる。
彼の背中越しに見える窓にはパラパラと砂糖のような雪が映っていた。
部屋に佇んだまま、ただ彼を見つめる。
「ごめん。」
沈黙に耐えかねたように彼は僕に抱きついてそう言った。
二人の体温が共有される。
寒い外から帰ってきたばかりの僕の身体には彼の微かな温もりが伝わり、部屋でずっと僕を待っていた彼の身体には僕の冷たさが伝わる。
彼の頬に手を伸ばすと、僕の手の冷たさに驚いたのか、それとも恐怖に戦いたのか、彼はビクッと肩を震わせた。
そのまま僕は息ができなくなるようなキスを彼にする。
それを大人しく受け入れる彼。
目をぎゅっと閉じ、時折甘い声を漏らす姿が愛おしい。
流れに身を任せるように、そのまま僕と彼は繋がった。
繋がっている時間だけは、僕は彼を愛していると確信を持って言うことができる。
行為が終わって一通り後片付けを済ますと、暗い部屋の中で、生ぬるい紅茶をすすりながら二人で映画を観た。
観た映画の名前を僕がきっとこの先思い出すことはないだろう。
映画を観ているとき、彼は僕の顔を覗き込んで、薄く笑みを浮かべた。
「この映画、前見た映画と似てるね。こういう映画すきなの?」
僕は近づいた彼の頭を撫でながら、「うーん、そうかも。」と曖昧な返事をした。
それだけでもとても嬉しそうに目を細める彼。
なんでそんなに僕のことが好きなの、君にはもっといい人がいるのに。
そんな言葉が口をついて出そうになったから、冷え切った紅茶で流し込んだ。
映画が終わると、また部屋には沈黙が流れる。
すると急に隣から嗚咽が聴こえてきた。
苦しみを率直に表す音。
別に驚きはしなかった。
これまでも僕たちはこうやってきたんだから。
彼が謝って、キスをして、ヤって、映画をみて、彼は泣き出して。
ずっとずっと僕らの関係はこうだった。
ソファーの上で下を向いて泣く彼をただぼうっと見つめる。
下を向いた彼の首には、愛し合った痕跡がくっきりと残っている。
そういえば彼は外に出るときだって跡を隠さない。
僕は絆創膏できっちりと隠す。
痕跡に紛れて、痣も見えた。
僕の人と愛し合うときに首を絞めたり、殴ったりする癖は初めて彼女が出来たときから変わらない。
この癖を許容してくれたのは彼だけ。
本当に、馬鹿な奴だと思う。
でもその馬鹿さが僕にとって必要だった。
きっと僕は彼がいなくなったら生きていけない。
それは彼も同じだろう。
気づかないフリをしてきたけれど、知ってるよ。
君が僕のいない部屋の中でロープを天井から吊るしたことも。
窓を開けて、足をかけたことも。
うっすらと空いた窓から冷たい風が吹き込む。
僕は彼が冷えないように優しく彼を抱きしめた。
「ごめんね、ごめん。」
そう、そのたった2回の謝罪で僕のことを許しちゃうから。
僕を愛おしく思っちゃうんだから。
だから君は苦しいんだよ。気づいて。
「っは、うぁ、すきっ、だいすきっ……。」
あーあ、ほらね。
…まだ気づかないでよ。
まだ好きでいてよ。
ねえ、まだいいよね、いいでしょ。
「僕も愛してるよ。」
窓の外では二人ぼっちな僕らを馬鹿にするようにパラパラと雪が降っていた。
コメント
1件
うわあ…これ、すごく重くて、美しくて、胸がぎゅってなったよ。 「もう終わりにしよっか」って切り出されたのに、最後にはまた「好き」って縋ってしまう二人の繰り返しが、切なくて苦しい。首の痕を隠さない彼と、隠す僕。殴る癖を許すからこそ離れられない関係性。どっちも壊れてるのに、互いにしかいられないっていう依存の描き方がリアルで…読んでて息が詰まった。 雪の描写も、温もりと冷たさが混ざって、すごく印象的だったよ。続きが気になる…😢