テラーノベル
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七日後、正源は大きなバッグにパソコンからプリントアウトした書面をぎっしり詰め込んだを抱えて総本山の寺院に出向いた。
それほど高く険しい山ではなかったが、山の中腹の寺院まで久しぶりに徒歩で登るとゼイゼイと息が切れた。山門をくぐって若い修行僧に用向きを伝えると、荘厳な大寺院の中の狭い一部屋に通され、そこで待つように言われた。
数分で部屋の襖が開き、恰幅のいい大柄な僧侶が入って来た。目の前にあぐらをかいて座ったその僧侶の顔を見て、正源は驚きで目を丸くした。
「これは浄源様、お久しぶりでございます」
確か今は五十歳ぐらいのその僧侶は、正源がこの総本山で得度をするために修行していた時に、指導役を務めてくれた先輩だった。
浄源は豪快な声で笑いながら言った。
「ハハハ、お前が修行を終えて山を下りて以来かな。寺の方はどうだ? 今の時代、いろいろ大変ではないか?」
正源は墨染の黒い袈裟の袖を正して、正座したまま深々と頭を下げながら答えた。
「はい、おかげさまで何とかやっております。これも修行の間、浄源様にご指導いただきましたおかげで」
浄源は笑顔で豪快な口調で言った。
「そうか、それは何よりだ。ところでずいぶん大荷物だな。お師匠様がたを説得するための資料か?」
「はい、まあ、そんなところです」
やがて若い修行僧が入って来て浄源に何か耳打ちした。浄源は立ち上がり、正源を手招きした。
「では行くぞ、正源。わしも同席する」
正源は荷物を抱えながら、いぶかしげに言った。
「は? なぜ浄源様まで?」
「わしはお前の側の付き添いというわけでな。ま、お前の思う所をお師匠様がたに率直に伝えるがいい」
そして二人は本堂の畳敷きの大広間に通された。二人が下座で正座して待っていると、きらびやかな法衣に身を包んだ高僧三人が入って来て、ご本尊の仏像を背に、正源たちと向かい合う格好で分厚い座布団に座った。
畳の上に正座して額を畳にこすりつけるように頭を下げた正源に、三人の真ん中に位置する高僧が声をかけた。
「お主は最近、ロボットを供養するという事で有名になっておると聞いた。なぜそのような事をしておるのか、お主の見解を聞かせよ」
正源はバッグの中から分厚い資料の束を取り出して、畳の上に置いた。浄源が立ち上がって、その束を手に持ち、高僧たちの所へ運んだ。正源は深々と息を吸い込んで、堂々と自分の考えを述べた。
「数は少ないとはいえ、人形供養を行っている仏教寺院は他にも各地にございます。人でも生き物でもない人形を供養するという事は、特に御仏の教えに反する物ではないと存じます」
それからしばらく、正源はあらかじめ考えていた、仏教僧侶がロボットを供養する事の正当性を、立て板に水といった感じで並べ立てた。
やがて不意に、真ん中に座っている高僧が畳んだままの扇子を正源の方に突きつけ「もうよい」とおごそかな口調で告げた。
「お主の所存は理解した。十日後に本山としての沙汰を伝える。それまでは、しばしロボットの供養は控えよ。よいな?」
正源は再び頭を下げて、額を畳につけて大声で返答した。
「ははっ! 承りましてございます」
高僧たちはすぐにその場から去って行った。浄源に山門まで見送られ、下山の途についた正源は、不安を隠せないまま、総本山を去った。
コメント
1件
読み終えました。第22話、いよいよ総本山でのお沙汰ですね。正源さんが分厚い資料を抱えて登る山道の描写から、ひたむきさが伝わってきました。浄源様が付き添いとして同席してくれたのが、なんだか心強いですね。高僧方の前で「ロボット供養の正当性」を立て板に水で述べる正源さん、かっこよかったです。ただ「十日の間は控えよ」という沙汰、これまで頑張ってきただけに不安で胸が締め付けられます。続きがすごく気になります。