番外 〜Szki編〜
🔔 このお話からは
「真相をお話しします」の “鈴木” が臨床心理士として登場します。
今回のお話は “鈴木が臨床心理士になるまで” のお話になっています。
大森や若井、藤澤は登場しないので注意してください
⚠️映画のネタバレあり⚠️
⚠️ネタバレを避けたい方!!注意してください
ー時間軸ー
例の配信の後の鈴木です。
復讐を終わらせた彼の葛藤や執着も同時にお楽しみください。
ーーーーーーーー
ーーーー
15-1 〜香り〜
彼は、休憩室の窓から外を眺めていた。
今日は天気が良い。
ぼんやりと見ていると、一人の男性が目に止まった。
清々しい表情で 空を見上げながら、ゆっくりと歩を進めている。
今日が、退院日なのだろうか。
羨ましいな、あんな風に穏やかな顔を一度はしてみたいものだ
手を繋ぎあって歩く人、車椅子に座る人とそれを押す人
誰もが、穏やかに時間を過ごしている。
鈴木はそれを、まるで絵本の中を覗くような気持ちで見ていた。
ここからの景色は好きだ。
でもずっと見ていると、悲しくなる。
ふっと目線を外すと、 コーヒーの豆をフィルターに入れる。
そこに優しくお湯をかけていくと、ふわっと香りが立つ。
いい香り
鈴木は、目を閉じた。
臨床心理士になって一年
例の配信からは、七年の月日が経った。
今年で三十四歳になった。
あの日 鈴木は長い年月をかけて、強い覚悟を持って全ての罪と向き合った。
あの子の存在を証明する為に
幼くも、一人で戦った少女が居たこと
どうしても伝えたかった
この世界の汚れた仕組みを
もう許されない、鈴木の罪を
そう思っていたのに、鈴木は全てを台無しにした。
あの二択
鈴木は傍観者を試したつもりだった。
お前たちは加害者だと
“安西口紅を殺す” の票が加速した時
観覧数も、急速に増えていた。
その配信が、クチコミなどで広がっていたのだ。
何故か、停滞していたコメントの流れが変わり始めた。
“安西口紅の死” をコンテンツ化するように盛り上がりを見せたのだ。
もともと視聴者でもない者が、遊びのように “安西口紅を殺す” に票を入れていく。
その光景を見た時、鈴木は自分の愚かさに気がついた。
そうか、こいつらはルージュを人間だとすら思ってない
俺がやってる事は復讐でもなんでもない
ただの殺人ショーだ
そう思った瞬間、鈴木はスタジオに向かって走った。
ルージュを殺しちゃ駄目だ。
ただ、強くそう思った。
何故か、分からない
また、自分だけが罪を背負うことになる未来を察したからか
あの子は、そんな事を望んでないと思ったからか
とにかく鈴木は必死で走った。
鈴木はスタジオの扉を開けると、ルージュに駆け寄る。
ボーガンより、ルージュの方が近かったからだ。
椅子ごと倒そうとした時、丁度ボーガンの弓が発射された。
その弓が、鈴木の肩を撃ち抜いた。
一瞬の虚無の後に、鋭い痛みが走る。
「ぐっう゛ぅ!!」
鈴木は唸りながら、うずくまった。
強い痛みで、思考が溶けていく。
砂鉄が慌てて鈴木に駆け寄る。
「ちょも!!」
鈴木は薄れ行く意識の中、何とか言葉を紡ぐ。
「は、配信切って…ルーは殺すな」
砂鉄が頷いた事を確認すると、鈴木は意識を手放した。
ーーーーーーーー
ーーーー
その後、あの配信は “壮大な釣り” と言うことで片付けられた。
個人情報を晒せた者たちは、一人も被害届けを出さなかった。
むしろ、誰もが逃げるように姿を消した。
特に事件化する事もなく、あっさりと鈴木の復讐は終わった。
鈴木は、この世界の汚さを再認識しただけだった。
例え被害者に、反撃の方法があっても
心は弱り、戦えずに 逃げを選択する。
それを追い詰めた加害者は自覚もないまま、また誰かを追い詰めるのだろう。
そして、鈴木には加害者になった罪だけが残った。
その時の鈴木にとって 唯一救いだったのは、自分の余命の短さだった。
さっさと死のう
早く向こう側に行きたい
あの子がいる、綺麗な世界に
もうすぐなはず、早く迎えに来てくれ
毎日、それだけを願って生活していた。
しかし、定期検診で医師から言われた事はその願いすら打ち砕くものだった。
「意外と…経過順調ですね 」
鈴木は耳を疑った。
前のめりになると、医師に聞く。
「順調…って
僕、余命半年って言われたんですけど」
鈴木は引き攣った笑みを浮かべた。
対して 医師は、朗らかに笑うと言う。
「あぁ、確率的にね
血液から骨にまで転移してたから
その場合はだいたい半年って伝えてるんだけど…」
医師はカルテを覗くと鈴木に言う。
「うん、骨の癌数値、相当減ってるね
鈴木さん、身体強いねー
やっぱり若いからかな」
鈴木は、その夜から治療の薬を飲むのをやめた。
痛み止めだけを飲み続ける生活を続けた。
しかし、それでも鈴木の身体は変わらなかった。
むしろ、次の検診で医師から感心したように告げられる。
「あーすごいすごい!!
ほらこれ、骨の癌数値ね」
医師がマーカーで塗られた項目を指さす。
鈴木はそれを、覗くように見た。
「ここに800って書いてあるでしょ
癌転移は1500からって言われていてね
いや、よくここまで下げたね
骨の転移はほぼ抑えられたと思っていいよ」
その後も、医師から説明を受けた。
癌の摘出は済んでいるので 骨の数値が収まれば、ほぼ完治だと
ただ 癌の再発リスクは高いと医師が釘を刺す頃
鈴木はもう全てがどうでもよくなっていた。
鈴木は特に喜べずに、とぼとぼ家に帰った。
一人、部屋に入ると悔しさが滲み出てくる。
「くそっ!!」
鈴木は手当たり次第の物を壁に投げた。
呻き声をあげると、うずくまる。
泥のような闇が心に雪崩込む。
唯一の希望まで奪ってくるのか
なんで俺だけ
ーーーーーーーー
ーーーー
その日の夜、鈴木は部屋を綺麗に片付けていた。
水周りを綺麗に磨いて、冷蔵庫の中身は全て捨てた。
床は掃き掃除をしてから、水拭きをする。
家具は軽いもののみ、入口の近くに移動しておく。
最後に十万円と、置き手紙を机の上に置いた。
“砂鉄、ごめん
あとはよろしく”
鈴木は、振り返ることもなく外に出て行った。
死に場所はもう決まっている。
あの子と同じ場所で
しかし、鈴木は車には乗れない
薬の副作用が強いので、運転中に混沌とする可能性があるからだ。
電車と船を乗り継いで向かう。
最期の旅だ
そう思うと、いつもの世界が少し輝いて見えた。
ーーーーーーーー
ーーーー
鈴木はそれから2日かけて、あの場所へ向かった。
船に乗る前に買った、大きな花束を両手に抱えて思い出の道を歩く。
最期だからと、海岸にも寄った。
よく4人で遊んでいた場所に向かうと、石の上に腰掛ける。
確かに前よりも、長い距離を歩けるようになった。
余命宣告を受けた時は あの場所に行くのすら、やっとだったと言うのに
どうやら心は死んでいても、身体は生き続けるようだ。
なんて面倒くさい
鈴木は辺りを見渡した。
懐かしくて、目を細める。
ここで怪我した時、凛子に絆創膏を貼ってもらったな
あの絆創膏、取っておけば良かった
いやそれは、ちょっと気持ち悪いか
鈴木は自嘲気味に笑った。
でも、本当に最後って分かってたら捨てなかったのに
あの朝 教室で二人になった時も、最後って知ってたら
恥ずかしがらずに、ちゃんと想いを伝えたのに
「凛子…」
鈴木は名前を呼ぶ。
会いたい、触れたい
「ごめん、僕…汚い人になっちゃった
そっちに行っても会えないかも知れない」
鈴木の頬に涙が伝う。
「それでも会いたい
凛子、会いたいよ」
もう、鈴木は気づいていた。
復讐をした理由も、この世界を恨んでいる理由も
ただ、会いたかっただけなんだ。
凛子にもう一度
会って聞きたい。
痛くなかったか、寒くなかったか
どんな気持ちで最期、一人で
その時、遠くから声が聞こえた。
「ちょも!!」
鈴木は、ぱっと振り返る。
声を方向を見ると、ルージュがこちらに走って来ていた。
「まって!!お願い!!」
鈴木はつい、立ち上がる。
なんで
足場が悪い中、ルージュは必死に走る。
鈴木の数メートル手間で、派手に転んだ。
「あ、」
鈴木は小さく呟く。
しかし、助けてやる義理はない。
ルージュはすぐに起き上がると 膝から血を流しながらも、鈴木を掴んだ。
気迫が強すぎて鈴木は若干、距離を取る。
それでも ルージュは服を引っ張りながら、叫んだ。
「あんたが死んでどうすんの!!」
ルージュは 涙をぼろぼろ、流しながら続けて言う。
「言わなきゃいけない事あるの!!
お願い!死なないで!!」
鈴木はただ呆然として、ルージュを見つめていた。
ルージュの後ろから息を切らした、砂鉄が走ってくる。
それをルージュが、一括した。
「砂鉄!遅い!!」
砂鉄がひぃひぃ言いながら、膝に手をつく。
「い、や…ルーが、速すぎ…」
鈴木は、つい懐かしい気持ちになって二人を見つめた。
ルージュは、砂鉄から鞄を奪うと封筒を取り出した。
鈴木は気まずさに、目を逸らす。
家を出る前に置いて来た十万円だ。
ルージュは、それを歯を食いしばりながら封筒を両手で持つ。
「こんなのっ!!」
そういうと 鈴木の目の前で封筒ごと、お金を破いた。
砂鉄が勿体なさそうに唸る。
「あぁ…!!」
ルージュは、その封筒を適当に捨てると言い放つ。
「私も殺せないくせに!
自分だけ死のうとしないで!!
“怖がりの ちょも”の癖に!!」
“怖がりの ちょも”
ここにいた頃、鈴木の苦手な物はお化けだった。
対象的にルージュはそういうものを全く信じない。
なので お化けを怖がる鈴木を馬鹿にして、しばらくそう呼んだ。
鈴木は、むっとすると言い返す。
「もう怖がりじゃない」
ルージュは泣きそうな顔をすると、鈴木に抱きついた。
耳元でルージュの声がする。
「怖がってよ…」
鈴木は、鼻がツンとする。
泣きそうになるのを耐える。
しかし、そこに砂鉄も加わる
後ろから、ぎゅっと鈴木を抱きしめた。
暖かい
本当はずっと寂しかった
誰でもいいから、 抱きしめて欲しかった
鈴木は、とうとう耐えられなくなって嗚咽をあげる。
縋るように二人に抱きつくと、子供のように泣いた。
ーーーーーーーー
ーーーー
三人はフェリーに乗って、あの島から出た。
ルージュは話したい事があるようだが、あの島では話せないそうだ。
フェリーが港に到着すると、三人はファミレスを探して入店する。
店員に案内された席に、三人は座った。
鈴木は、よいしょと座って、ふっと息をつく。
ルージュが、やけに嬉しそうに二人を見た。
砂鉄が、少し恥ずかしそうに言う。
「な、なに…?」
ルージュは首を振ると、言う。
「ううん、なんか不思議だなーって」
鈴木は恥ずかしくなって、メニューをとって眺める。
しかし ルージュは恥ずかしがる二人など気にせずに、言葉を続ける。
「なんだかんださ、初めてだよね
島以外のファミレスに三人で集まるの」
鈴木はメニューを見てる振りをしながら、ルージュの様子を見た。
ルージュは心から楽しそうだ。
メニューを広げると、何を頼むか真剣に悩んでいる。
鈴木はつい気になって、ルージュに聞く。
「さっき言ってた…言わなくちゃ行けない事って?」
ルージュがメニューから目線を上げる。
「うーん…ちょっと重い話だからさ
ちょもにとっても… 」
ルージュがそう言うと、砂鉄が不安そうに俯く。
鈴木は、その様子に気がついた。
砂鉄に少し寄ると、聞く。
「もしかして…砂鉄もう知ってる?」
砂鉄は顔を上げると、ゆっくりと頷いた。
鈴木は砂鉄とルージュを交互に見る。
ルージュが、パキッと言う。
「まぁとりあえず、ご飯食べよ」
ーーーーーーーー
ーーーー
三人はご飯を食べ終わると ドリンクバーを飲んで、ゆったりとした時間を過ごしていた。
ルージュは、口の中の液体をごくっと飲み込むと言う。
「よし、じゃあ聞いて」
鈴木は顔を上げる。
さっきまで 早く聞きたいと思っていたのになんだか突然、怖くなってきた。
ルージュは鈴木をじっと見る。
「私たちのYouTubeチャンネルあったでしょ」
鈴木の肩が強ばる。
一発目から本題を入れてきた。
駆け引きを好まないルージュらしい切り口だ。
「あれ…誰が運営してたか知ってる?」
鈴木は首を振った。
ルージュは少し緊張したように唇を舐める。
「あのね…ちょものお父さんなの」
鈴木は驚いて、身を引いた。
「…え?」
呼吸が早くなる。
母からは事故で亡くなったと聞いていたからだ。
「私たち…私と、凛子
その話聞いちゃったんだ」
鈴木は、今度は一気に前のめりになった。
「凛子の話?」
ルージュはゆっくりと頷く。
「あと…2週間たったら、ちょもを都会に連れ戻すって
引っ越しさせるって」
ルージュが緊張からか、唾を飲み込む。
「それで、ちょものお父さんと感動の再会?みたいなさせて…
そこから家族チャンネルにしていくって…計画…だったらしい」
鈴木は、眉間に皺を寄せた。
なんだそれ
ルージュは、下を向くと悔しそうに言う。
「私、どうしても嫌で…凛子に…」
そこまで言うとルージュの声が震える。
「…二人で阻止しようって」
涙を我慢しているのか、瞬きが多くなる。
「凛子は危ないって、言ったけど…私…」
ルージュは前のめりになると、俯きながら言葉を続ける。
「協力しないなら…絶交する、って…言ったんだ」
ルージュが顔を上げると、ぼろぼろと涙を零す。
「私のせいなの…全部
それで凛子…たぶん」
鈴木は、ルージュを見つめる。
自分を責めているのは、鈴木だけじゃなかった。
ルージュも砂鉄も
二人とも自分を責めて、後悔して、今日まで生きてきたのかもしれない。
ルージュが鼻を啜る。
砂鉄がティシュを渡すと、受け取って勢いよく鼻を噛んだ。
息を吐くと、話を続ける。
「ちょもの家に行った日、覚えてる? 」
鈴木は頷いた。
ルージュが家の時計をずらした、あの日の事だろう。
「あれも…私の計画で…
あの日、ちょもと… ちょものお父さんで
初めての再開を撮る日だったの」
鈴木の目つきが、厳しくなる。
少しづつ、真実に近づいているのが分かる。
「私 お母さんに…出来るだけ、ちょもを家に引き止めろって言われて」
鈴木の脳裏に、あの日が鮮明に浮かぶ。
頭がズキっと傷んだ。
「だから、家にいさせないようにしないとって凛子にお願いして…別の予定作らせたの」
ここまで一気に話すと、ルージュは飲み物を一口飲んで口を湿らせる。
「私…ね、凛子に協力してって言ったけど
チャンネルの事、本当は知ってたの言い出せなくて 」
ルージュは、再び罪悪感を感じているのだろう。
ぎゅっと、拳を握る。
「凛子が教室で言おうとしたから…
ここにもカメラとマイクあるから言っちゃ駄目って」
鈴木は、苦い気持ちになった。
今 考えても教室にまで カメラとマイクがあるなんて、おかしな話だ。
「そしたら凛子、なんでそんな事知ってるの?って
だから、正直に言ったら喧嘩になっちゃって…」
ルージュは自分を落ち着かせるように、両手で飲み物を持った。
「それから口聞いてくれなくて、私も一人で必死になっちゃって
その後、お母さんから ちょもの事…
家に引き止めなくていいって言われて」
ルージュの親指が、コップの取っ手を撫でる。
「それで私、多分崖の方にお父さん来るんだと思って…それだけ凛子に伝えたの
私が家に引き止めるからって」
ルージュは鈴木の顔をみる。
「その後は、時計…細工して
ちょもを崖に行かせないようにした」
ルージュがぎゅっと口を結ぶと、再び口を開く。
「でも…なんで凛子が崖に行ったのか分からない」
消えるような声で、呟く
「だって、全部知ってたはずなのに…
私も引き止めるって言ったのに」
砂鉄が鼻をすする。
そして、涙声で会話に入った。
「それは、どうしても止めたかったから…じゃないかな」
ルージュと鈴木は砂鉄を見つめる。
砂鉄は涙目で顔をあげると言う。
「僕だって…多分そうする
ルーが失敗しても、ちょも 引き止められるように…崖で 待つと思う」
ーーーーーーーー
ーーーー
次回も鈴木パート続きます。
本編をお待ちの方、もうしばらくお待ちください。
コメント
12件
真相は神すぎる…!! 続き楽しみですっ!
ええ!まさかの鈴木!!? 私の大好物じゃないですか!!! 最高すぎます!!
きたー!鈴木 もはやこれが真相なのでは?と思えてしまう♡ これまた続きが楽しみ🥰