テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#イケおじ
甘寧
488
#溺愛
高瀬船
934
#女性向け
常陸之介寛浩
840
黒猫ている
2,077
風が凪ぎ、光が霧散すると長身の男性が姿を現した。すらりと長い足を踏み出したその人は、肩についたバラの花びらに気づき、そっとそれを摘まみ上げる。
背中で揺れる腰まで長い三つ編みに、既視感を覚えた。どこかで見たような気がするけど、どこだったかしら。
近づいた彼の襟元の徽章が、差し込んだ陽射しを浴びて輝いた。それは、国の魔術師団に所属していることを意味している。つまり、この方が私の結婚相手──
「ただいま戻りました、母上」
「待ちくたびれましたよ、ヴィンセント」
「申し訳ありません。仕事を放り出すわけにはいきませんので」
「可愛いお嬢さんを待たせるほど、重要な仕事とは思えませんけどね」
近づいてくる男性──ヴィンセント様を見上げ、私は唖然とした。
身長は一九〇センチ近くあるだろうか。肩幅もとても大きくて、お父様よりも威圧感がある。そのお顔はとても美しいのに、見下ろされると無意識に委縮してしまった。
ドレスの裾をつまみあげ、さっと視線を逸らして息を呑んだ。そうして、体裁を繕うようにカーテシーを精いっぱい披露する。
「お初にお目にかかります。ヴェルヘルミーナ・レドモンドです」
心臓がばくばくと激しく鳴り、指先は今にも震え出しそうだった。だからこの時、彼が小さく何か呟いたのを聞き逃してしまった。
「遅れての参上、失礼しました。ヴェルヘルミーナ嬢」
ゆっくりと顔をあげれば、私を真っすぐに見つめていたヴィンセント様と視線が合った。
なんて美しい人なのだろう。
日差しに輝く銀髪や琥珀色をした切れ長の瞳、そのお顔を作る全てが美しい彼に、思わず見とれてしまった。
ここはお伽話に出てくる庭園もかすむ美しいバラで彩られているし、王子様よりも王子様然とするヴィンセント様の姿は反則級だわ。ヒグマのような大男だとか、にこりとも笑わず眼光だけで人を殺せるなんて、誰が言ったのよ。確かに、ものすごく背が高くて、見上げていると首が疲れるけど。
ご年齢は二十八歳と聞いていたけど、若い令嬢が断られても諦めきれずにいるのも頷ける。縁談を持ち掛けるのは家柄云々だけではなく、彼の美しさにご令嬢たちが酔ってしまってのことなのだろう。
でも、ヴィンセント様から目を離せないのは、その美しさだけではないような気もする。
こうして見上げていると、亡きお父様が私を冷たい眼差しで見下ろした時を彷彿とさせるというか、鼓動が早まって委縮してしまう。
「さあ、こちらへいらっしゃい。お茶にしましょう」
ローゼマリア様の声にハッとし、ヴィンセント様から視線を外した。まるで金縛りにでもあっていたようだった。
鎮まらない鼓動が聞かれるのではと不安になり、そっと胸元に手を置くと、穏やかな声が「ヴェルヘルミーナ嬢」と私を呼んだ。
振り返ると、ヴィンセント様の大きな手が差し出されていた。
初めて受けるエスコートに、胸はますます早鐘を打つ。大人と子どもほど大きさの違う手のひらに指をそっとのせ、促されるままに庭の奥にあるガゼボへと向かった。
勧められるままに椅子へと腰を下ろし、ようやく一息つけた気がした。
ヴィンセント様も着席したことで、彼から感じた威圧感のような居心地の悪さは消えた。むしろ、視線の高さに差がなくなったことで、彼の美しさが常に視界へと入ってくるのが気になって仕方ない。ともすれば、つい見とれそうだわ。
綺麗な琥珀色の瞳が私を捕らえ、その口元に優しそうな笑みが浮かぶ。それに反応するように、頬が熱くなった。
不躾にじろじろ見ていたと気づき、急激に羞恥心が込み上げてきたけど、ここで慌てて視線を逸らすのも失礼よね。
ますます熱くなる頬を隠すこともできずに、なんとか微笑み返すと、ヴィンセント様は少し驚いた表情を浮かべた。私はそれほど変な顔をしたのだろうか?
どう会話をしていいのか分からずにいると、ローゼマリア様が穏やかに話しかけてくれた。
「今日は、ヴェルヘルミーナの為に、特別な茶葉を取り寄せましたのよ」
「ありがとうございます。私、お茶会の席に出たこともありませんし……紅茶は詳しくないので、精いっぱい、学ばせて頂きます」
「まぁ、そんな固く考えないで。まずは楽しむことが大切よ」
ローゼマリア様の優しい気遣いと微笑みは、亡きお母様を思い出させる。胸の奥が温かくなり、気を緩めると嬉しさで涙がでそうだった。
コメント
1件
第22話、読みました……!ヴィンセント様、見た目の美しさと威圧感のギャップがたまらなかったです。ヒグマなんて噂、どこから出たんだろうって思わず笑っちゃいました(笑)あと、ヴェルヘルミーナが彼に委縮しながらも見とれてしまう心情がすごく丁寧に描かれていて、胸がきゅっとなりました。亡きお父様を彷彿とさせるっていう一文が、すごく気になります……。次が待ち遠しいです🌙