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「落ちついた?」


必死な抵抗で無事離れてもらい時は今に至る。

何が「落ちついた?」だ、と目の前の相手を睨めるようになるまで気分は回復した。

だけどまだ彼に対する疑問や警戒は消えず、次はいつでも対応できるようにと私は全神経をピリつかせていた。


『……ここ、どこ。なんで私を誘拐したの。あなたは誰なの』


見た目は普通の部屋。ただ生活感が欠けている。


こんなどこにでもいるような女子高生を誘拐するなんてどんな理由なのだろうか。やはり身代金?


“黒川イザナ”。何をしている人なの。どうして私を知っているの。


考えれば考えるほど疑問が頭にまとわりついて離れない、頭痛すらもやってくる。

「オレの家。好きだから。さっきも言っただろ、黒川イザナ。」

違う、そういう意味じゃない。

淡々とテンポよく答える誘拐犯…イザナさんに内心頭を抱えながら呆れの視線を注ぐ。

「ん?」

当の本人はにこりと形のいい顔を優しく緩ませ笑みを送ってくる。


「…可愛い、だいすき。」


…さっきからずっとこれの繰り返し。

抱き締められては愛の言葉を告げられ、見つめられる。頭がおかしい方の人なのだろうか。

『…ぅ…』

困惑や緊張や恐怖が八割目に来て、涙に変わる。

『……帰らして』

まるで涙を声にしたような、震えた声だった。

このままずっとこの空間に居れば私もおかしくなってしまう、と勘に似たものが不穏なサインを送ってくる。


「…あ?」


なんとか交渉しようと言葉を零すが、どうやら私の質問は彼の地雷に触れてしまったようだ。

それまで柔らかく穏やかだった声が一瞬にして低くはっきりした声に変わる。威圧感の籠った空気が肌を突き刺す。

「…帰っても温かく迎えてくれる“家族”なんて居ねぇだろ?」

“家族”という響きが胸にぐんと迫ってきて、肩を震わす。


─分かってる。


どうせ私の心配なんてしてないなんて。帰ったって何かが変わるなんてそんな都合のいいことないなんて分かってる。

だけど


「…もしかして期待した?」


ずばりと鋭く痛いところを突かれる。

そうだ、彼の言う通り。

どれだけ殴られても蹴られても罵詈雑言を投げつけられても、いつもどこかに「いつか愛してくれるじゃないか」なんて淡い期待を抱いている自分が居た。

そうすることでしか自分を保てなかったから。私は弱いから。

「そんな家捨ててオレとずっとここで過ごそう?な?」

感情を揺すぶられるような優しい言葉が鼓膜を甘く溶かす。段々誘惑という名の毒が胸に滲み込んでいく。


「…どうする?帰る?」


…そんなこと聞いたってどうせ帰すつもりなんて無いんでしょ。

そんなこと頭ではちゃんと理解していた。

でも初めて自分を求めてくれる人の声、愛してくれる人の声の甘さを知ってしまって。


『…かえらない。』


そんな言葉につい、感情の糸が切れてしまった。

約 束 【黒川イザナ】

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