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夜の街は、白と金の光で満ちていた。
イルミネーションが風に揺れるたび、きらきらと音がしそうで、🌸は思わず足を止める。
「……やっぱ、何回見てもええなぁ」
隣で宮侑が、少しだけ声を落として言った。
コートのポケットに突っ込んだ片手は、もう片方で🌸の手をしっかり握っている。
「ね。クリスマスって感じする」
「せやろ。……あ」
侑はふと、前を見つめたまま笑った。
「これ見てたらさ、高校の時のクリスマス思い出してもうたわ」
「え、急に?」
「うん。ほら、あの時もこんな感じでさ」
🌸も、記憶をたどる。
——制服のまま、少し背伸びしたデート。
人混みに緊張して、手を繋ぐのもぎこちなくて。
侑はやたら強気なのに、イルミネーションの前では妙にそわそわしていた。
「……覚えてる。侑、無駄にイキってた」
「は!? ちゃうわ!」
「『余裕やし』って言いながら、ずっとキョロキョロしてた」
🌸が笑うと、侑は耳まで赤くする。
「うっさいわ! あの時は……初めてやったし……」
その言葉に、🌸の胸が少しだけきゅっとなる。
「今は?」
「今?」
侑は立ち止まり、🌸の方を向いた。
イルミネーションの光が、彼の横顔を柔らかく照らす。
「今は……こうして隣おるのが当たり前で、
それがめっちゃ大事で、
失いたないもんになってる」
🌸は一瞬、言葉を失う。
「……ずるい」
「は?」
「急にそんなこと言うの、ずるい」
侑は少し驚いたあと、照れ隠しみたいに笑った。
「昔の俺やったら、絶対言えんかったな」
「うん」
「でもな」
侑は🌸の手を引いて、ぐっと距離を縮める。
額が触れそうなほど近くで、低く囁いた。
「高校ん時より、今の方が何倍も好きやから」
胸が、どくん、と跳ねる。
「……っ」
「その顔やめぇ。可愛すぎや」
「侑のせいでしょ」
「せやな。俺のもんやし」
冗談みたいな口調なのに、言葉は真剣で。
侑は🌸の頭にそっと手を置き、優しく撫でる。
「これからも、何年先も、
毎年クリスマスは一緒や。
高校生の続き、ちゃんと大人になってもな」
🌸は小さく頷いて、侑のコートに顔を埋めた。
「……うん」
「寒いん?」
「違う。あったかい」
「そらそうやろ。俺がおるから」
少し自信満々で、でもどこか優しい声。
イルミネーションの光の中、二人はゆっくり歩き出す。
高校生の頃の甘酸っぱい思い出も、
今の胸が溶けるほどの幸せも——
全部重なって、今年のクリスマスは、いちばん甘かった。