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かんな
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🎮紫音🎮
放課後の美術室は、夕日が西日に変わる一番好きな時間帯だった。
「またそれ描いてんの?」
不機嫌そうな声とともに、パイプ椅子ががたむく音が響く。入り口に立っていたのは、サッカー部の部活終わりにいつも美術室へ顔を出す蓮(れん)だった。少し汗ばんだ黒髪を雑に拭いながら、僕—─湊(みなと)の隣にどかっと腰を下ろす。
「……別に、いいでしょ」
僕はキャンバスから目をそらさずに返事をした。描いているのは、窓際に置かれた古びた石膏像……の背景に広がる、夕暮れのグラウンド。そして、そこにぽつんと残る一瞬の影。本当は影なんかじゃない。連日僕の視線をさらっていく、サッカーボールを追う蓮の姿だ。
「手、止まってんぞ」
蓮が顔を近づけてくる。ファブリーズと汗の混ざった、知っている匂いが鼻腔をくすぐって、僕は思わず身を引いた。
「ち、近いって」
「湊が避けるからだろ」
蓮はニッと不敵に笑うと、僕が握っていた筆の軸を、自分の指で上から包み込むように握ってきた。掌の熱が、絵の具で冷えた僕の指先に直で伝わる。心臓が跳ねるような音がして、息が止まりそうになる。
「ねえ、湊」
「……なに」
「俺さ、サッカーの試合中、たまに校舎の三階見るんだよね」
「え?」
「ここ、美術室だろ。窓際に湊が立ってんの、グラウンドからでも結構見えるんだよ」
筆を持つ手がピクリと震えた。バレていた?僕がいつも窓から彼の練習を眺めていたことも、その姿をノートの隅やキャンバスに焼き付けていたことも。
「……見ないでよ。集中できないでしょ、部活」
「逆。見ないと調子出ない」
蓮は少しだけ声を低くして、握っていた僕の手にぎゅっと力を込めた。キャンバスの上で、固まりかけた油絵の具が小さな点を描く。
「この絵、完成したら俺にくれよ」
「だめ。……これ、まだ未完成だから」
「じゃあ、完成させる手伝いしてやる」
蓮がもう片方の手で僕の頬に触れた。指先にあるサッカーダコのリズムが、僕の体温を急上昇させる。夕日の橙色が二人の影を大きく引き伸ばし、美術室の床で重なり合っていた。
「……放課後、毎日ここに来るなら、考えてあげてもいいけど」
僕が小さく呟くと、蓮は満足そうに目を細めて、僕の額にそっと自分の額を押し当てた。
コメント
1件
みぅです🤍🥀 第1話、読ませてもらいました……夕暮れの美術室の空気感がすごく繊細で、湊くんの視線の先にある“本当は影じゃないもの”に、もう胸がぎゅっとなりました。蓮くんの汗ばんだ感じとか、筆の軸を包み込む手の熱とか、全部が“知ってる匂い”って言わせる湊くんの心情を裏打ちしてて……。バレてたのにバレてなかったみたいな、二人の距離がじれったくて、でも甘くて、続きがすごく気になります……!