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「連邦軍が手を引くのか?」
子供達(獣含む)がケーキに夢中になっている時、聖奈から戦争の予想を聞かされた。
「うん。連邦はまだまだ余力はあるよ。でもね、流石にたったの2日足らずで10万もの軍勢を失うとは予想してないでしょ?」
「そりゃまぁ。でも、次は20万送るとかも連邦なら簡単だろ?」
「簡単ではないでしょ。連邦の総人口は凡そ1500万。10万でダメなら20万というのは連邦の上層部でも簡単に考えつく事だと思うけど、上は同時にそれでダメだった時のことを考えるよ」
バーランド王国の総人口はこの数年で爆発的に増え、元シューメイル帝国の最大人口である1000万にようやく戻ったところだ。
そのバーランド王国から考えても20万は用意可能だ。
人口が多く、軍事国家である連邦なら尚のこと簡単だろう。
だが…そうか。キリが無いと考えるか……
一番簡単に攻めれるからニシノアカツキ王国を連邦が攻めているのであって、リスクとリターンが見合わないのなら多少の無理を通しても山越えを選ぶかもしれないな。
「連邦は一枚岩じゃないのは知ってるよね?」
「ああ。同じくらいの権力を持つ者達が集まる評議会で、国の方針を決めているんだろ?」
「そう。自分の息のかかった軍を死地に向かわせるか決められると思う?」
派閥か……
国内で権力争いしている上層部は、他所の足を引っ張るならまだしも、自分の軍をよくわからない王国戦へ駆り出すことを良しとはしないか。
よくわからない原因は、俺とコンと王国で連邦軍を全滅させてしまったからだな。
一人か二人くらい生き証人を残すべきだったか。
そうすれば『魔物のせいで全滅したなら次は大丈夫』『爆発の魔法ならそれの対処を考えてから向かえばいい』のような声が上がって、また王国と戦端を開いていた可能性が高かったな。
「じゃあ連邦はどう動く?」
「北に軍を向けるか、内政に力を入れるか、かな」
内政?あんだけ国民を蔑ろにしている国が?
「本当のところは?」
「?本当だよ。九割は”北に軍を向ける“だけどね」
やっぱ、来るんじゃん!!
「どうする?いっそのこと、俺が…『ダメだよ』…はい」
俺が短絡的な方法を選びそうになったらすぐに止められた。
俺は生粋のイエスマン。
返事は『はい』以外にないっ!!
「王国を消しかけよう?」
「いや、それが出来たら簡単だけど…出来るのか?」
王国はずっと半島に篭っていた。
今回の戦争も連邦が仕掛けたから仕方なく防衛に徹していただけで、王国が半島を出るとは思えないのだが……
「うん。説得は任せて。ただ準備がいるから半月ほど待ってね」
「あ、ああ。任せた」
これはアレだよな……
魔力依存症を発症しない様に、止められたんだろう。
俺が連邦を滅ぼすとしたら、街を攻撃する他ない。
無辜の民もかなりの数、巻き込んで殺してしまうだろう。
これで相手が絶対王制であればトップを捕まえたら終わりなのだが、連邦制だと上を押さえても順番が繰り上がるだけだからかなりの数を殺さなくてはならなく、そいつが善良か悪かなんて一々調べられるはずもない。
しかし…仲間を守る為ならば、俺は悪魔にでもなる覚悟なんだがな。
いや、甘ちゃんだから魔力欠乏症なんかになるんだろうな……
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連邦もまさかたった2日で全滅するとは夢にも思っておらず、対応は遅れに遅れている。
そんな首都で行われている連邦議事会では怒号が飛び交っていた。
「だから言ったのだ!!あの様な大陸の隅を奪った所で我が国には何の利もないとっ!!」
「何を言うかっ!!当時は賛成していたではないかっ!!」
「鎮まれぃっ!」
言い争い…罪(失敗)のなすり付けが終わらない話に、色黒で白髪のニース・ウィルキンソン連邦議長が遂に声を上げた。
「終わったことをいつまで言っていても仕方ない。皆もそう思わぬか?」
「そ、それは…」「…確かに。では、どうしろと?」
居並ぶ上院議員達は不承不承ながらも議長の言葉に従い、その声を次第に鎮めていった。
「まずは目先のこと。このまま王国攻めを行うのか、それとも以前頓挫していた山脈を越えた先にある、大陸北西部地方攻めに取り掛かるか、一旦矛を納めて国内の発展に注力するのか、決めようではないか」
「ま、負けたままで引き下がると仰られるか!?」
先の戦で自軍の兵を多く失った男が議長に食ってかかる。
「では、貴方の軍を向けられるか?嫌であろう?そうだ。意固地になって王国を攻めても得るものは少なく、未だ何が起こったのかすらわからない。
それでも王国攻めを提唱するのであれば、身銭を切って連邦の為に部下を死なせることが出来る者のみ声を上げてほしい。私は連邦議長として、理由もわからずに全滅するようなモノに対して国力を割くのを良しとは言えない。
よろしいか?」
浅黒い肌をした筋骨隆々の偉丈夫の一人が、死んだ兵の為にも負けたままで終わらせられないと意見するが、議長の言葉を聞いて次第に声は出なくなる。
そして……
「では、反対意見も無いようなので決議に入る。一旦戦争を止めるのか、北西部に軍を向けるのかを決めようではないか」
議事会堂に再び怒号が鳴り響くが、そこは軍事国家。
殆どの声はどう北西部を攻めるのかという声ばかりだった。
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あれから半月の時が流れた。
その間俺は連邦の動きを観察していたが、大きく動いていない様に見えた。
「どうだ?」
「うん。もう行けるよ」
俺の疑問に返したのは聖奈。
これからニシノアカツキ王国に向かい、上層部の尻を叩きにいくんだ。
「よし。じゃあ行くか」
「うんっ!」
聖奈はこっちにいる時、城に篭りきりだ。
まぁ俺が不甲斐ないせいでそうさせてしまっているのだけど。
仕事とは言え、こうして二人きりで出掛けるのが楽しいのか、嬉しそうに俺の左腕に飛びついてきた。
聖奈だけではなく、他の仲間達にも言えることだ。
俺は申し訳なさそうな顔を隠して、慣れた詠唱を紡いだ。
詠唱は慣れているものの、飛んで向かったのはあまり馴染みのない街の路地裏。
「よし。人はいないな」
「うん。向かおっか?」
ここへは知らないおっさん達の尻を叩きに来たのだが、別に時間が無いわけではない。
「それもいいけど、偶には散策でもしないか?」
「いいのっ!?」
うん…すまん。
こんなことでそこまで喜ばれたら、申し訳ない表情が隠しきれているのかわからん。
いや、俺に演技の才能はないから、既にバレているんだろうな。
大根かはしらんが人参くらいにはならないとな……
人参役者ってあるのか?
「ああ。連邦を退けたことでニシノアカツキ王国内は盛り上がっているから、以前より活気があるみたいだぞ」
「うん。何の力も持たない国民からしたら、連邦という大国と戦うことになって不安だったよね。でも、勝てば盛り上がるんだから国民感情の操作が簡単だって為政者に馬鹿にされるんだよ」
難しい話はわからん。
俺は聖奈が…仲間が笑顔ならそれでいい。
後、美味い酒も追加で。
「難しく考えずに、今は楽しもうぜっ?」
「そうだねっ!」
うん。こんなに浮かれてたのに、すぐあんなことになるとは……
迂闊だった。
俺たちは今、王国兵に連行されている。
別に手足が縛られているなんてことはなく、周りを囲まれてドナドナされているんだ。
目的地はどうやらここからよく見える要塞チックなお城のようだが……
時は30分ほど前。
聖奈と仲良く王都を散策していると、何やら良い匂いが。
「ねえっ!もしかして!」
「あ、ああ。この香ばしくも甘い匂いは…」
匂いに連れられて辿り着いたのは、水戸◯門によく出てくるような見た目のお茶屋さんだった。
「みたらし団子だな…」
「うん。まさか異世界にもあるなんて…」
外に出してある背もたれがない長椅子へと並んで腰掛け、注文した品が出来上がるのを待っていた俺たちの元に届いたのは、どこからどう見てもみたらし団子だった。
「まさか異世界に来て、時代劇を味わえるなんてな。一粒で二度美味しいとはこのことか」
「街行く人たちの顔が濃いから、タイムスリップと言うよりも映画村に来たみたいだね…」
そう言われると一気に有り難みが無くなってきたな……
俺たちがみたらし団子に舌鼓をうっていた時、辺りが俄かに騒がしくなった。
「なんだ?物取りか?」
辺りに男達の大きな声が響き渡った。