テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
私の共有
朝が来た。
目覚ましよりも先に、
スマートフォンの振動で、
目が覚める。
画面を見る前から、
分かっていた。
――大和さんだ。
胸の奥が、
きゅっと、
鳴る。
開く。
おはようございます。
朝早くからすみません。
いい天気ですね。
行ってきます。
菜月さんも、行ってらっしゃい。
一気に読んで、
それから、
もう一度、
ゆっくり読み返す。
先に送らせてしまった。
夜中に、
電話をお願いしたのは、
私なのに。
少しだけ、
申し訳なさが浮かぶ。
懺悔みたいな気持ち。
それでも。
嬉しい。
行ってらっしゃい。
その言葉を、
大人になってから、
向けられることは、
ほとんどなかった。
子どもに言われる、
あの言葉とは、
違う。
対等な、
誰かからの、
行ってらっしゃい。
胸の奥が、
温かくなる。
スマートフォンから、
目が離せない。
握ったまま、
支度をして。
握ったまま、
家を出る。
電車に乗って、
ふと、
視線を上げたとき。
目に入った。
車内広告。
――薔薇博覧会。
色とりどりの、
薔薇の写真。
一瞬で、
心が持っていかれる。
あ。
と思うより先に。
この人と、
見たい。
そんな考えが、
浮かんでしまった。
一緒に行きたい。
でも、
言えない。
現実的じゃない。
今の関係では、
言ってはいけない。
それは、
ちゃんと分かっている。
それでも。
この気持ちを、
この景色を。
私のことを。
共有したかった。
気づいたときには、
入力していた。
おはようございます😊
行ってきます。
少しだけ、
勇気を出して、
絵文字も添える。
それから、
続けて。
うちの近くで、
薔薇の博覧会があるみたいです。
薔薇、好きなんですよね。
送信。
画面が切り替わる。
心臓が、
少しだけ、
早くなる。
一緒に行きたいとは、
言っていない。
約束も、
誘いも、
していない。
ただ、
私の好きなものを、
渡しただけ。
それなのに。
それだけで、
世界が、
少し近づいた気がした。