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毎度お久しぶりです。
4話です。
「せやっ!そやっ!たぁぁ…!」
夜8時威勢のいい声が響くワンルーム。
「もっと念じて!もっと力を込めて!!」
アカネが必死で琴美に訴えかける。
「いやぁ…。」
ハルカは唖然として彼女らを見つめるだけ。
「だめだ…。」
琴美は落ち込みんでパジャマのまま布団に飛び込んだ。
「やっぱり私になんか霊力ないんだぁ〜。」
すごく残念そうである。
「何時か分かりますよぉ。」
ハルカが肩を持ち必死でフォローする。
「でもハルカちゃんが羨ましいよぉ。」
流石のハルカも苦笑いだ。
「じゃあ、1回気分転換でもしようか…!」
俺もフォローしたつもりだ。
「そうだね!何がいいかなぁ?」
アカネが顎に人差し指を当てて首をかしげる。
「亡霊ちゃんとならぁ…亡霊、亡霊…。あっ!ホラー映画鑑賞会!!」
世紀の大発見の様な顔でこちらを見てくる。
「ほ、ホラー映画って…お、お化けとか出てくるやつですよね??わ、私、そ、そういうの苦手でぇ…。」
見る時待った訳でもないのに琴美は割とマジで震えていた。
「大丈夫だって!お化けなんて絶対ホントに居るわけないし!」
お前は今まで何と話していたのか聞きたくなる。
「で、でもやっぱり怖いかな…。」
琴美は相変わらずの震え声でそう返す。
「でも、案外面白いんじゃない?お化けになってから見ると意外と新鮮な感じかもよ?」
ハルカがどこか楽しそうに話す。
「そうかな?」
「そうとなったら決まり!ほら、電気消してぇ!」
アカネは誰にも容赦せずテレビのリモコンを握った。
実を言うと俺もお化けとか幽霊とかは全く信じていない。けど、とても怖い。お化けなんかに実際会ったら吹っ飛んでしまうだろう。
けど、みんなと同じなら挑戦してみるのも悪くない。
暗い部屋の中、俺は横の椅子。
彼女らは3人で1枚の布団を使って寝転びながら見ている。
琴美は緊張で少しばかり汗をかいている様子だ。
今回見るのは、少し前にヒットしたホラー映画、「ホラゲをやっただけなのに。」だそうで、どうやらスマホの中のホラーゲームから幽霊とかが出てくるらしい。
出来れば見たくないものだ。
アカネがリモコンを弄り、画面が動き始めた。
序盤は少し奇妙なという感じであまりホラー要素は無かった。
しかし物語が中盤に入るとホラー要素が増していった。
「あ、アカネちゃん…!」
「だ、大丈夫だよ…!」
琴美は今にも泣きだそしうな顔でアカネの腕をがっしりと握っている。
「こんなの平気だよね?ハルカちゃん?」
ハルカの方に視線をやるとそこにハルカの姿はなかった。
「あれ?ハルカちゃん?」
当たりを見回すと自分真後ろに人影があった。
「え?あああああああああ!!!」
雰囲気から恐怖のあまり絶叫してしまった。
「あのさ、ハヤトくん。不安な時はそばに居てくれるって昔約束してくれたよね…?」
ハルカは虚ろな目で静かにそう語り掛けに来た。
亡霊と言われて納得出来るのはこれが初めてだった。
率直な感想、怖い。
暫く何も無く、時は流れていった。
しかし、ほんの10秒後。
「にゃあああああああああああああああああああ」
「ぎゃあああああああああああああああああああ」
琴美は包まり、アカネはどこかに吹っ飛び、ハルカは俺にとってそのままもたれ掛かり俺を潰した。
「いたたたたぁ!ハルカっ!て…。」
よく見ると俺とハルカは天井に座っていた。
「こ、こわいよぉ…。」
「降ろしてくれ!!こっちの方が怖いわ!俺は素人だぞ…!」
ハルカがこくっと頷くと俺の体は一気に落下した。
「うわぁあ!」
思い切りフローリングに叩きつけられた俺はあまりの痛さで暫く立つことが出来なかった。
「はるかぁっ…!」
「怖いです!AKANEさん!!」
ハルカが上空から必死に呼びかける。
てか部屋の中で飛ぶんじゃねー。職権乱用だ。
「コワクナイコワクナイコワクナイコワクナイ」
琴美は布団にくるまりながら必至で自分自身になにか訴えかけているようだ。
「AKANEさん!!って!息してないよ!」
確かに意識が飛んでいた。息はしてるが。
しかも5mほど飛んだらしい。
「ワタシモ…ソウデス…。」
アカネが無意識のうちになにか喋っている。
こういうのな本当の心情が聞ける場合が多いのでよく聞きましょう。
「ハヤトクン…コッチキテェ…。」
ようやく顔を出して来てヤドカリみたいになった琴美と目を合わせる。
琴美はゆっくりと頷く。
少しアカネに近寄ってみる。
「ハヤトクン…アタシト…ケッコンシテクレナイカナ?フフ…。」
場は氷点下を超え、ハルカは赤面しながらドシンと落ちてきた。
「ハヤトくん!?」
しばらくして琴美とハルカが口を揃えて俺の名を呼んだ。
「わ、悪い、俺何も聞こえなかったわ…!」
「そっか!そうだねー!私も!」
ハルカがキャラを崩壊させそう言うと琴美も苦笑いしながらうんうんと頷いた。
にしてもアカネ、流石にジョークだよな。
「ムゥ…。」
すると再びアカネが口を開いた。
「フフフ、コドモハナンニンホシイカナ?シアワセナカテイヲツクロ」
俺はそれ以上言わせるものかと思いアカネにキックを繰り出した。
「きゃああ!!」
「あ、悪ぃ、当たっちまった。」
彼女は頬をふくらませてもぉって感じの表情を見せた。
「あのさぁ、みんなぁ。寝よっか。」
ハルカが気まずそうに呟く。
時計は11時を指していた。
「ソウダネ。」
アカネがそう返し、琴美はゆっくり貝殻を脱ぎ始め。
「そうですね。」
「じゃあ、君らはここで3人で…ってか、アカネは帰れよ。」
「怖いもん!!」
そういうとは完全に分かっていた。
「ハヤトくんはどこに寝るんですか?」
琴美が布団の中から語りかけに来る。
「そうだな、あっちのソファで寝とくよ。」
「お布団じゃなくて良いんですか?」
「全然構わないよ。」
琴美は慣れたように微笑み既に眠ってしまっていたアカネとジト目で僅かに震えているハルカと引っ付いた。
「おやすみなさい!」
「おやすみ。」
俺は電気を消して、彼女に優しく語りかけた。
午前1時ーハルカ
日にちが変わり、私はふと目を覚ましてしまった。
少し外で音がしただけ。
昔から眠りが浅い私、少し窓を開けてふと外を見てみるシルバーのセダンが止まっていた。
こんな時間に誰に何の用だろうと思い、こっそり部屋を出て電柱の影から車の中を見た。
すると、車の中からおかしな服を着た女の人が降りてきた。
異様に伸ばした一昔前のヤンキーの学ランみたいなにスーツに緩くネクタイを締めており、タバコを加えて男物の警察帽子みたいなのを被っている。
長い黒髪は腰あたりまで伸び、前髪は癖が強く、その切れ間から見える切れ目がかっこいい。
フェンダーに腰をかけ、彼女がタバコに手をかける。
するとビックリ、ライターもマッチが無いのに発火した。
何が起きたのだ?
驚きのあまり、電柱の影から完全に出ていることに気付かず、彼女はこちらに気づいてしまった。
しかし彼女は全く動じず、そのまま立ち尽くすだけだった。
「あ、あの!」
思い切って声をかけてみる。
「…?…!!!」
ポケットに手を突っ込んだまま口をぽかっと開け、こちらを見て異様に驚いている様子だった。
「どちら様ですか?」
落としたタバコがまだ地面で光っている。
「オマェ…俺んこと、見えんのか!?」
「は、はい…?」
彼女はクスッと笑い、腰に手を当てた。
「驚いたよ、たまたま来たところにボウレーちゃんが居るなんてね。私の名前は二ツ柳梓沙、見てもわかる通り、火の奇術師だ。」
早々と自ら語ると自身の周りに少々の火の玉を浮かばせた。
それをひとつ手に取って転がしている。
「アンタ、名前は?」
「烏丸ハルカです。か、風とか使えたりします。」
アズサさんはにっこり笑った。
「風かぁ…!カッコイイな…。でも…やっぱりぃ…気の毒だったな…。」
「ま、まぁ、いつまでもそんなことに言ってても仕方ないですし。」
「だよな…!うん!」
彼女は再びニコッと笑い帽子を外した。少し赤の交じったくせっ毛がピョコンと跳ねる。
でもどこか凄く悲しそうだ。
きっと優しくて正義感の強い警察官だったに違いない。
でも一つだけ気になるのが、何で、警察官なのに火が使えるのだろうか。消防士とかなら分かるけど。
アズサさんが再びタバコを取りだしすと当然のように勝手に火がついた。
「俺の霊力、気になるか?」
彼女は私の心を見通したように問いかける。
唾を飲んでゆっくり頷くと、アズサさんはポケットに手を入れて語り始めた。
「あれは、ざっと25年くらい前かな?警察官になって、10年くらいの時、俺は警察官として火災現場に駆けつけたんだ。マンションで起きた大きな火事でね、原因は今もわかってないんだ。大体の救助が終わって消火に焦点が置かれた時だった。俺は少し離れた場所で5回に取り残されている女の子を見たんだ。
何も考えずに慌てて、マンションの中に入って、階段を駆け上がって、その部屋に行った。俺は女の子を助けて外の隊員が広げていた布に落っことしたんだ。私は流石に無理だったけどね
ね。その次の瞬間、屋根が落ちてきて、俺の足は完全に潰されてしまったんだ。覚悟はしていた。私も似たように助けられたことがあったから。幼い時、家事にあって消防士さんに助けてもらったんだ。だから、少し憧れてたりもした。いつか恩返しがしたいなとも思ってね。ま、これで、私の役目は終わったんだと思った。」
悪くない人生だったー。
「そんなことを思いながら、炎に包まれ、その時、ガスが大爆発を起こした。そして今に至るわけなんだ。」
彼女はとても潔さそうに笑い、タバコを手に取り、スっと火を消した。
「そんなことが、あったんですね…。」
私には出来そうにもなかった。本当に、凄すぎる。
私は言葉を失い、しばらくキョロキョロしていた。
「ま、まだ未練は果たせてないけどな!」
「未練ですか?」
「俺の同僚がその時、助けに来てくれたんだ。桐ヶ谷心花ちゃん、最後に彼女に伝えたかった、ありがとうって。地味に感じるだろ?でも、あの時はそれがどれだけ大事なことかが分かったんだ。彼女は今どこに居るかは分からない。けど爆発から逃れたことは知っている。いつかきっと会える日が来ると願ってるよ。」
「心花さん、見つかると良いですね。」
「あぁ。俺も今年で53だし、早く見つけねーとなぁ。」
一瞬、耳を疑った。53歳!?
「え?あぁ、亡霊は死んだ時から容姿は変わんねーからな。」
「そうなんだ…!」
さすがの私も少し戸惑った。死んだ時の年齢だと32歳、にしても、20代前半のような若さだ。
「何だ?スマホって言うのか?あんなのの使い方もサッパリだぜ。最近はややこしくなってきやがったなぁ。」
外見とは検討もつかない。正直少し複雑な気持ちだ。
「姉ちゃん、そこに住んでんのか?」
「住んでるというか、人間さんに居候させてもらってます。」
「そうなのかぁ!?羨ましいなぁ、ちょっと寄ってっちゃダメか?」
彼女は両手をパチンと合わせて頭を下げた。
「多分いいと思いますよ。」
「さんきゅー。」
アズサさんは私より先に階段を駆けていった。
「アズサさんー!クルマは大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ、消してある。ぶつかるとしても亡霊ちゃんにだけだ。」
少し心配だけど、彼女に追いついて、ドアを開けた。
一応みんな寝ているので真っ暗だ。
「邪魔するぜぇ、案外キレーだなぁ!」
真夜中になんの躊躇もなく持ち前の無茶苦茶通る声で言葉を放つアズサさん。案外好きかもしれない。
アズサさんがキョロキョロと部屋中を見回していると、向こうから黒い影がゆっくり迫ってきた。
「どうかしたんですか?」
眠い目を擦りながら、琴美がやってきた。
「おっ!このお嬢ちゃんがそうなのか?」
「はい。琴美さんです。」
「琴美って言うのかぁ!いい名前だなぁ!」
アズサさんは慣れたように手を出す。
「よろしくな。」
「えっ?はっ、はい…?」
流石に琴美ちゃんも困惑するだろう。真夜中に知らない亡霊が部屋に入ってきて握手を求められているのだ。無理もない。
琴美ちゃんはゆっくり手を取った。
「俺もこんな娘が欲しかったなぁ…。」
儚げな目で琴美ちゃんを見つめて、抱きしめた。
「にゃあ!」
「気の毒にな…。」
アズサさんは黙って涙を流していた。自分の話では泣かないのに。
「えっ…?」
琴美ちゃんも動揺している。
「俺、二ツ柳梓沙ってんだ。殉職した警官の亡霊さ。自分を犠牲にしても他人を守りたいっていう…なんて言うんだ…そういうアレなんだ。少しくらい泣かしてくれよな?」
そう言って彼女は一息つくと。
「何だか、懐かしい気がする。この子。なんて言うか、私に似てる。」
確かに、言われてみれば少し似てるかもしれない。
ファッションがぶっ飛んでいるだけであって、顔立ちがすごく似ていた。
アズサさんは被っていた帽子を取り、琴美の頭にかぶせた。
「そっくりだ。可愛いな!」
そう笑い、彼女は廊下を進んで行った。
琴美は少し顔を赤くし、目を逸らした。
「あの人、なんだか凄い人ですね。」
琴美ちゃんが私に囁いた。
「何してんだよォ。」
ハヤトが奥から顔をのぞかせた。
アズサさんが右手を挙げて軽く会釈する。
「よっ、人間さん。俺は二ツ柳梓沙だ。ちょいとここで休ませてくんねぇか?」
「また新しい亡霊さんですか。構わないぜ。」
「ありがとよっ!」
彼女は勢いでソファに寝そべり黒タイツの美脚を絡ませた。
性格は気が強いけど、結構な美人さん。
そんなことを考える内に彼女はお茶を出す暇もなくすっかり深い眠りについていた。
「寝ちゃたか。」
カッコよくてスタイル抜群。女の私でも見つめられるとかなり照れてしまう。
妄想を膨らませながら、振り返ると琴美が真っ赤な顔で立ち尽くしていた。
「あ、あたし…可愛いって言われた…。」
キュンキュンした目を輝かせ落ち着かない様子だ。
あの琴美でもかなり動揺する程のカッコ良さ。
アズサさんの帽子を抱きしめて、上目遣いでこちらを見てきた。
「ハルカちゃん!」
「言いたいことは私も同じだよ。」
琴美のハートを完全に射抜いてしまった彼女。
ハヤトが腕を組んで意味ありげに琴美を見つめている。
私は布団に帰り、再び眠った。
翌日ー梓沙
宛もなく転がり込んだこの家。
ただ、人間らしい生活をもう一度してみたかった。
今年で53歳、未だに仏さんの元へ向かえないのだ。
もう自分でもなにが未練で何が霊力とかが分からなくなっている。
ただ炎が俺に味方している。それだけ。
神様がなぜこんな力を俺に授けたのかは分かるわけもない。
強い眠気に襲われてクルマもまともに運転できないほど疲れきっていた最近だったが、やはり、慣れない場所では眠れない。
40数年引き摺ってる悩みだ。
1時間ほどして目が覚めた。
少し暑くなってきた今日の夜。
少し空いた窓から俺の真っ黒な髪を揺らす。
昔から茶色い髪の毛に憧れていた。
でも、染めたくは無かった。なんか、我を失っちゃうような気がして怖かったから。
でもやっぱり1番は、母さんも同じような髪だったから。
母は俺が15の時に居なくなった。
思春期真っ只中の俺にとって凄く恐ろしい出来事だった。
俺は本当に母さんが好きだった。
優しくて誰よりも俺の事を1番に考えてくれていて。
思い出しただけでも滲んでくる。
二三回首を振ってから、俺はタイツを脱ぎ、丸めて傍に置いた。
自分の素足なんて久しぶりに見たような気がする。
ふとももを人差し指でゆっくりと撫でて、つついてみる。
警官の制服を脱ぎ、ブラウス1枚になって、ほぼ外れ掛けのネクタイを外し、1番上のボタンを開けた。
「あっつー…。」
制服を椅子にかけようとすると、何かがゴトンと鈍い音がした。
「いけねー。」
俺の愛銃だった。
SG-226、ニューヨク市警にも採用されているハンドガンだ。
これは趣味で集めているのであって、ちゃんと警察時代のリボルバーも持ってある。
というか、死ぬ時にパクってきたんだけどな。
左の内ポケットから小さめのリボルバーを取り出した。
台頭を外し、意味無く中身を覗き込む。
あの頃の思い出が走馬灯のように流れていく。
警察学校でみんなと暮らした時のコト、俺は銃撃が得意で、みんなからも1目置かれていた。
でも不手際で銃を暴発させてしまい、右手をボロボロにしてしまったこともあったっけ。
2ヶ月は何も出来なかっんだっけ。
30年も経つとそんなことすっかり忘れてしまっている。
思い出なんて所詮その時だけのこと。
楽しい思い出も苦い思い出も。
それであって思い出そうとすることも余りない。
今を生きるのが精一杯だから。
特に俺は警察官。国民を守らなくちゃならない。
昔の余韻に浸ってるようじゃ、職務なんてろくに出来ない。
でも今こうして何も考えずにぼーっとしていると自然にそんな時の記憶が甦ってくる。
強盗を捕まえたこともあったし、逃げる車をパンクさせたこともある。
そんな中で1番心に残って仕方ない、不可解な事件があった。
事件と言っても犯人は既に捕まっているが。
昔、大規模なテロを計画し、実際にバス数台爆発させた凶悪犯が居た。
メディアはその事件1色に染まり、挙句の果てにはデマ情報も大量に拡散されるようになってしまった。
そんな中、午後11時過ぎ、勤務中白バイを転がし警邏中の俺に本庁から現在地点の付近にその犯人が目撃されたという知らせが届いた。
捕まえて正当な裁きを受けてもらうべく、俺は必死に探し回った。
探し始めて15分程だった頃、バイクのタイヤが急にパンクした。
俺はバランスを崩し、落下、バイクに足を潰されて動けなくなってしまった。
すると、向こう側から犯人が影を現し、俺に銃を突き付けた。
流石に終わったと思った。
もう心の準備は出来ていた。
そんな時、どこからか大きな音がして、煌びやかな閃光が犯人の元へ降り注いだ。
その瞬間犯人は倒れ、俺は難を逃れた
後から来た応援に犯人は確保され、俺は病院へと運ばれた。
まぁその数週間後に俺は死んだのだが。
けど、犯人を捕らえた、スナイパーは誰でなぜそこに居たのか、なぜ俺を助けたのか。
警察でも無ければ自衛隊でも何でもないらしい。
今だに真相は闇の中だ。
手にリボルバーを持ったまま、何となく机に伏せた。
「あの頃に、戻りたいなぁ。」
何も考えずにそんな言葉が出てきた。
よく分からない熱いものが身体の中から込み上げてくる。
こんなことで泣いてられないよー。
歯を食いしばってどうにか抑えようとする。
いつもはこんなこと、ならないのに。
久しぶりにひとつ屋根の下でニンゲンと寝るから?
寮と似てるような気もする。
カラダが震えている。
その時サイアクの事態が起きた。
あまりに俺が力み過ぎたもので右手に握っていたリボルバーが作動した。
深夜の静寂を切り裂く轟音が小さな部屋に響き渡った。
ハルカさんが飛び上がり布団に引っかかってズッコケで壁に突っ込んだ。
でもコレが驚き、他のみんなは誰一人として起きていないのだ。
「な、なんなんですかぁ!」
焦りでイントネーションが無茶苦茶なハルカさん。
俺の右腕にくっ付いている金属の筒みたいなものと硝煙の匂いと轟音で何があったかは分かるだろう。
しかし、弾はどこへ行ったのだ?
するとハルカが急に恐ろしい顔つきになり俺の足元を指さした。
「アズ…ア、アズズ…サ、サ、サン…!」
俯いて見てみると俺の右足には赤い液体が絡み付いていた。
終わった、俺はやってしまったのだ。
俺は人殺しをしてしまった。
こんなの死刑確定、地獄行きだ。
怯えながら液体を上流を辿っていくともう1人の女の子にの頭に辿り着いた。
「そ、そんな…。」
俺の人生が終わった。
この出血量じゃ、もう、取り返しはつかない。
俺は彼女の顔を掴み必死で呼びかけた。
「へ、返事してぇ!!」
彼女を揺さぶるが全く返事がない。
大粒の涙が頬を零れ落ちる。
泪が血と混じり、密かに鎮魂歌を奏でて。
「うわぁぁぁあああああーーー!!!!!」
…。
「んぅ…?」
アカネが目を開けた。
神様ー。
「うわぁぁぁあああああーーー!!!!!」
「ぎゃあああああああああ!!!!」
アカネさんがお化けでも見たかのように叫ぶ。
確かにお化けだが。
まぁ無理もない。目を覚ますと誰か知らない人から拳銃を片手に自分の方を向きながら名前を叫ばれているのだ。
「うわぁぁぁん。ごめんなー!」
「誰々ダレDAREだれダレェーー!?」
30分後ー。
アカネさんという名前の彼女に事情を話し、どうにか理解してもらうことが出来た。
「まさか銃を誤写して枕元に置いてあったトマトジュースに当たるとは…。申し訳ないっ…。」
きちんと詫びて彼女と仲良くなりたい。
ちなみに生命エネルギーを奪おうとしてたりするのでは無い。
いくら人と似てると言っても亡霊と人間ではあからさまにちがうのだ。
「大丈夫です。よろしくお願いします!」
彼女の微笑みが胸に刺さる。
こういうココロの温かみが、亡霊には少ないような気がする。
ハルカさんも優しいけどどこか心のどこかが欠けているような雰囲気がある。
何年も亡霊と付き合ってきた俺にはよく分かる。
「タメ口で良いよ、心はまだ18だからね。」
そんなジョークを交わし、俺は彼女に聞きたかったことを聞いた。
「なぁアカネさん?ハヤトは君の彼氏なのか?」
その途端、アカネさんはビクッと震えて、ハヤトの方を見た。
「ん?そうじゃないのかぁ?」
どうやら彼女らは恋人同士らしい。幸せそうだし。
「何言っての何言ってんのぉ!!寝ぼけてないでぇ!!」
アカネさんは顔を真っ赤にして恥ずかしいようだが、いずれは。
暖かい目で見守ってあげることにしよう。
数分後ーアカネ
とんでもない勘違いをされてしまった。
私とハヤトがカップルなんて。考えただけでもっ!
布団の中で大きく首を振る。
「どうしたんです…?」
ハルカちゃんが怪訝そうな表情でこちらを見てくる。
「どうしよう!ハルカちゃん!」
「知らないよぉ、もうカップルでいいじゃん。」
「私の理想はあんなんじゃないっ!」
「そしたらなんで好んで付き合うんだ?」
やけに冷静な彼女の返答に少し詰まってしまった。
「そ、それは…昔からの馴染で気が合うからよ!」
「それはカップルの特徴かな。ヒトはだいたい気が合う人と結婚するもんね。」
イタズラな笑顔でこちらを凝視してくる彼女。
「と、とにかく!ちがうの!!」
「嘘だぁ、なぁ!ハヤト!」
布団から起き上がり、ハヤトに声を掛けた。
ハヤトは一瞬びくりと動きゆっくりとこちらを向いた。
「し、知らねぇよ。」
「焦ってる焦ってるー。わかるよォ、一応ハヤトの”元カノ”だからねぇー。」
「い、今カノだ!」
彼の予想外の返答にハルカは少し動揺して、赤らめた。
「とにかく!私はハヤトとは付き合ってないもん!結婚する気なんか微塵もないよ!!」
激しく訴えるがこれもどうせ悪あがきなのだろう。
でも、実を言うと、彼は最悪の場合の滑り止めとして結婚も考えてたりする。
彼女の言うことも一理ある。
でも…何か違うようなぁ。
まとまらない胸中が混乱をきたし、私はすねてハヤトのベッドに飛び込んだ。
「知らないもん!」
「嫌われちゃったかなぁ…。」
私は自分で考えて真っ赤になってしまった顔を伏せて、彼の腕をギュッと抱きしめていつ間にか寝てしまった。
「わかりやすい娘。」
「全くだ。」
その時だった。
ー。
外で先程の発砲より大きく鈍い音がした。
「何だ!?」
ーハヤト
何か分からないけど大変な音がした。
ただものが倒れたとかそんな音ではない。
布団から起き上がり走ると絡まったアカネがこれまた鈍い音を立てて頭から落ちてしまった。
「いたぁい!!」
ドアを開けて、急いで外に出ると。これはびっくり。
クルマとクルマがぶつかってペシャンコになっているではないか。
「なんだってー?」
そして片方のクルマの運転席には意識を失った女性がシートベルトに引っかかったまま座っている。
「た、助けないとぉ!」
走って車に近づくと、何か雨にしては不自然な液体が足にまとわりつく。
「な、なんだよ?」
そしてこの匂い、ガソリンスタンドで嗅いだことのある匂い…。
そう、ガソリンだ。
「大変だ。」
俺はシートベルトを外し、彼女を揺さぶるも反応は全くない。
「何があったんだ!?」
アズサさんが真っ青な表情で降りてきた。
俺は彼女の元へ走り事情を説明すると彼女は目を見開いて、言葉を失った。
「ガソリンっ!?大変だ!助けに行かなっ…。」
その瞬間ガソリンが大爆発を起こした。
熱い。
全身が炙られように炎が大きくなっていく。
「コノヤロー!!」
アズサさんが必死で止めにかかる。
火を鎮火させようと必死で炎を操っている。
「だめだっ…!炎で炎は操れねぇ!!」
涙ぐんだ彼女の目、昔の記憶が甦ったのだろうか。
彼女は涙を振り払うと、炎の中になんの躊躇いもなく飛び込んだ。
「アズサさんっ!!」
もう誰にも止められなかった。
「ハヤトくんっ!」
降りてきた琴美が震えた声で俺に語りかける。
ハルカもこればかりは見ていることしか出来なかった。
「アズサッ…サン…。」
人として出来ることをまっとうしたアズサさん。
亡霊になっても自己犠牲の信念は変わらず、ただ彼女も無事であることを祈るのみ。
熱せられた春の夜風に流れて火の粉が飛んでいく。
黒焦げの過去を断ち切って。