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「ところで大司祭様。
ガルーナ村の一件で、国から何かお話はありましたか?」
引き続き大司祭様と話をしていると、エミリアさんがそんな話を始めた。
「ああ、その話か。
大聖堂が証人という形になって、もしもアイナさんがご存命なら、褒賞が出るということにはなっていたんだが――
……アイナさん、近い内に一緒に王城に来て頂けないでしょうか」
褒賞! ……は欲しいけど、王様には会いたくない!
――っていうのが本音ではあるんだけど、でもどうせ、いつか行くことになるよね。
『疫病のダンジョン・コア』の件もあるし……。
「分かりました。しばらく王都に滞在しますので、ご都合良いときにご一緒させてください」
「ありがとうございます。
国王陛下に報告した際に、ぜひ一度会いたいと仰っておられまして……」
……やっぱり?
あ、でもそのときはまだ私の生死は分からなかったときだよね。
そのあとにガルーナ村へ兵士が派遣されていたみたいだけど……そこからの報告は、もう戻っているのかな?
戻っているなら、私が生きていることが伝わっているかも――
……って、何だかややこしいなぁ。まぁ1回、それは置いておこう。
「ちなみに、謁見はいつ頃になりそうでしょうか」
「申請も要りますし、1週間ほど掛かると思います。
日程が決まりましたら、こちらから使者を出しますので。
……ところで、滞在先はどちらになりますか?」
「王都には昨日着いたのですが、昨晩はエミリアさんに紹介して頂いた宿屋で一泊しました。
これからのことは、今のところ未定です」
「ふむ……。
それでしたら、大聖堂でお部屋をご用意することもできますが」
そんなありがたい申し出が大司祭様からあったものの、エミリアさんの表情が何だか渋い。
事情は知らないけど、それならここは断っておこう。
「お気遣いありがとうございます。
宿屋を含めて、この街をもう少し見たいと思っておりますので……」
「なるほど、承知しました。
必要ができたときには、またご相談ください」
「はい、そのときはよろしくお願いします」
「滞在先が決まりましたら、わたしが伝えに参りますね」
「おお、そうしてくれると助かる。エミリア、よろしく頼むよ」
「はい!」
――そのあと30分ほどお話をしてから、大司祭様の部屋をあとにした。
エミリアさんの話によると、大司祭様がここまで時間を取ってくれるのはとても珍しいそうだ。
王都にいる間は、基本的にはとても忙しいのだとか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さて、レオノーラさんに会いに行くんですよね」
「むぐっ……」
私の言葉に、エミリアさんは変な声を出した。
「ちょっとツンツンしてるところはありましたけど、エミリアさんのお仕事を代わりにやってくれていたみたいですし。
何か問題でもあるんですか?」
「いえ……レオノーラ様は、可愛くてわたしも好きなんですよ……?
もう少し優しく接しては頂きたいですが……」
「なら、そんな嫌がることも無いのでは?」
「い、嫌がってるなんて……!
ああ、えぇっと――」
エミリアさんは辺りを見回して、誰もいないことを確認した。
「あの、レオノーラ様にはお姉様……オティーリエ様、という方がいらっしゃいまして……わたし、この方がとても苦手なんです。
レオノーラ様はオティーリエ様と仲がとても良くて、一緒にいることも多いので――」
……なるほど。
エミリアさんはレオノーラさんにビクビクしているのではなくて、オティーリエさん? にビクビクしているのね。
「レオノーラさんと同期っていうことは、オティーリエさんは先輩みたいな感じなんですか?」
「職位は同じなのですが、一応そういうことになりますね……。
あ、そうだ。アイナさんもあんまり無茶なことをしないで頂けると……」
「無茶って……」
「ああ、いえ。アイナさんから何かするということは無いと思うんですが、売り文句に買い文句……っていうじゃないですか。
頭にきても、冷静にご対応頂ければ……と」
「ああ、そういう系なんですね」
何となく、クレントスのヴィクトリアのことを思い出した。
そういえば元気にしてるかな? 風邪のひとつくらい、引いていて欲しいけど。
「ちなみに先に言っておきますが……。
オティーリエ様は、この国の王位継承順位が第22位の方なんです」
「……え。王族なんですか?」
「はい。この国の王族は、子供の頃から大聖堂に入れられることがあるんです。
ちなみにレオノーラ様もそうなんですよ」
「ひぃ……。も、もしかしてエミリアさんも!?」
「いえ、わたしは普通の庶民です……」
あ、そうなんだ。
もしかしたら……って思ったけど、さすがにそんなことは無かったか。
「――あ! エミリア様、もう時間は良いの!?」
唐突に女の子の声が響いた。
聞き覚えのあるこの声は――
「レオノーラ様! は、はい。大司祭様とのお話は済みました!
……えーっと、それで今日は……オティーリエ様は?」
「お姉様? 今日はいらしてないわよ。
エミリア様はお姉様のこと、ちょっと過敏すぎるんじゃない?」
「うぅ……。いつも怒られるんですもん……」
「あーもう! 私の前でそんなしおれないでよね!」
そう言いながら、レオノーラさんはエミリアさんの頭をよしよしと撫でている。
……何だかこの二人、見ていて面白いぞ。
「それで、エミリア様。
こちらのお二人、ちゃんと紹介してくれるかしら?」
「はい、わたしが旅先で知り合った大切なお友達です!」
「初めまして、私はアイナ・バートランド――」
「初めまして、アイナさんね。よろしくお願いするわ」
名乗りを途中で切られた!? 『ちゃんと』とは一体……。
少し文句は言いたいところだけど、相手は王族なんだよね。
深呼吸して落ち着こう。
すーはー、すーはー。……よし、おっけー。
「私はルークと申します。お見知りおきを」
「ルークさんね。よろしく」
ルークは私のやり取りを見て、名前だけを名乗っていた。
こういうところ、案外柔軟だよね。
「ところでアイナさんとルークさん。これからお時間はあるかしら。
もしよければ、私の部屋でお茶でもしない?」
「えーっと……」
「はい、決定ね。美味しいお菓子もあるからお楽しみに」
……あれ? まだ返事してないんですけど。
「エミリア様。そういうわけなので、四人でお茶をするわよ」
「は、はい……。
あの、オティーリエ様は本当にいらっしゃらないんですよね?」
「ああもう、そんなに私が信用ないの?」
「い、いえ! そういうことではなくて――」
「はぁ。エミリア様とお姉様がもっと仲良ければ、私も嬉しいんだけど」
「わ、わたしだって仲良くはしたいんですよ?
でも、毎回突っかかって来られるとですね……」
「まぁ、そこは同情するわ」
何やかんやで、エミリアさんとレオノーラさんとの話は続く。
その中で、オティーリエさんがどんな人なのかも少しずつ見えてきた。
エミリアさんはエミリアさんで、何だか人間関係に苦労しているっぽいなぁ……。
そういえば以前『ライバルって響きには嫌な思い出しかない』……みたいなことを言ってたけど、もしかしてオティーリエさんのことなのかな?
そうなってくると、会ってみたいような、会ってみたくないような。
まぁこの調子だと、そのうち会うことになりそうだけど……。
でも今日のところはもう少し、オティーリエさんのいない間にレオノーラさんのことを知っておきたいかな。
今のところ、エミリアさんの味方……っぽくはあることだし。