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珍しく仕事が押して、意外に時間がかかってしまい、通用口から外に出ればもう暗くなっていた。
7月の日は長いはずなのに……。
そんなことを思っていると、不意に人影に気づいた。
よく見ればそれはそれは望月先生で、ガードレールを背にスマホに視線を落としていた。
私服に着替えているせいか、黒のパンツに白のシャツというシンプルな装いで、更に大学生のようだ
チラチラと道行く人が視線を送っている。
不意に飲み会の話を思い出し、誰かを待っているだろうど、挨拶だけをして通り過ぎようとすれば、二人組の女の子が彼の前で足をとめた。
可愛らしい服に、鮮やかなメイク。
確実にナンパだとわかるそれに、私は挨拶を諦めようとしたところで、不意に後ろから手を引かれた。
「柚葉」
いつもの可愛らしい声ではなく、明らかに低く甘いその声に、驚いて動きがとまる。
「ごめんね、彼女と約束があって」
その言葉に女の子たちは、「やっぱり待ち合わせって言ったじゃない」と口々に言うと去っていった。
「待ち合わせなんてしてました?」
女避けに使われたと気づき、さっき動揺した自分に腹立たしさを感じつつ彼を見れば、可愛らしい笑顔を浮かべていた。
「待っていたのは本当ですから」
「え?」
その意味がわからず、私は問いかけた。
「僕に口止めしたいんですよね?」
今日の昼のことだとわかり、私はハッとして彼に視線を向けた。
表情はにこやかだか、まるで脅す様な言い方に、私はピクリと眉を上げた。
「それと何の関係が?」
仕事を離れれば私の方が歳上だと開きなおり、彼を睨みつければ、そのまま強引に手を引かれる。
「望月先生!」
意味がわからずに声を上げれば、そのままタクシーへと押し込まれた。
「僕を見張っていた方がいいですよ」
クスリと笑った彼が、今までとは別人のようで、私は呆然としてしまった。
「どういうつもり?」
タクシーに押し込まれ、私は冷ややかな視線を彼に向けた。
そんな表情を今まで望月先生に向けたことなどなかったことから、きっと驚いてこんなバカげたことをやめてくれると思っていえば、彼はクルリと私に視線を向けた。
「どういうつもりって……僕を監視して、婚活のことを話さないように見張りたいかなと思ったんですよ」
「はあ? 意味がわからない」
まさかそんな理由でタクシーに乗せられたなど思わない私は、つい本音が漏れる。
それに驚くことなく相変わらず可愛らしい笑顔を向けた彼に、私は唖然としてしまう。
「だって、もうすぐ結婚間近という噂で完ぺきな櫻町さんが、相手もいなくて婚活してるなんて。院内は大騒ぎでしょうね」
その言葉にグッと私は口をかむ。この男、意外といい性格している。
そんな思いも込めて彼を睨みつければ、綺麗な瞳がこっちを見ていた。
「すぐに本当にするつもりだし大丈夫よ」
「へえ、千堂さんって方ですか?」
その問いには答えず、私は望月先生の視線から逃れるように、窓の外を見た。
千堂伊織さん。マッチングアプリなぜか私を指名してくれた人だ。
学生時代に自分の会社を立ち上げたやり手の35歳で、ようやく仕事が軌道に乗ったから結婚を考えているといっていた。
高い身長に、整った顔、ワイルドな印象の大人の男性だ。望月先生とは真逆のタイプだ。
ここで肯定できないのは、私の中にある疑問のせいだろう。
どうして私を選んでくれたのか、それにあのレベルの人なら相手はたくさんいるはずなのに、どうしてマッチングアプリに登録していたのか。それに私は本当に彼と結婚したいのか。
事実にしたいそう思っていても、つい言ってしまった言葉に後悔していれば、望月先生が爆弾発言をする。
「じゃあ、その千堂さんと結婚するって話しても大丈夫なんですね?」
「ダメ!」
つい本音が漏れて、私はため息を付いた。
「わかりました。じゃあ、となりで見張っててくださいね」
クスクスと笑う望月先生に、悔しさがこみ上げる。
「望月先生ってイジワルなんですね。みんな騙されてる」
悔し紛れに言えば、彼はいきなり真面目な瞳を私に向けた。
「そうだと言ったらどうします?」
その初めて見る視線にドキッとしてしまったのは、きっと気の迷いだ。
そう思っているうちに、タクシーが停車して望月先生が支払いをして、私も降りるように促す。
少し垣間見た彼は、ひょっとしたらニコニコしながら爆弾発言をしてしまうかもしれない。
そう思い、諦めてタクシーを降りた。