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糸を海へ垂らし、ほのぼの釣りを楽しんでいると空から鳥が羽ばたいてきた。俺の方へ接近するなり、デッキの手すりに乗った。
「お前はあの時のフクロウじゃないか」
『ヒサシ、ブリ、ダナ。ニンゲン』
「あ、ああ……って、また『手紙』を持って来たのか」
フクロウの足には、手紙が括りつけられていた。恐らく、勇者ルドミラからだろう。まさかまた手紙を寄越してくるとはな。
『テガミ、ヨメ。テガミ、ヨメ』
しつこいので俺はフクロウの足から手紙を解く。すると、スコルが何事かと反応を示した。
「あのぅ、そのフクロウさんは何ですか?」
「スコル。こいつは、勇者ルドミラの使いらしい」
「えっ、勇者ルドミラさん? って、誰ですか?」
俺は思わずズッコけた。
嘘だろ……!
スコル、聖魔大戦の事を知らないのか。
聖女なら知っていそうなものだけど。
あの大神官のもとで暮らしていたはずだし。
とにかく俺は、世界聖書の聖魔大戦についてスコルに話をした。そういえば、スコルに対しては何気に始めて聖書の内容を話した気がする。
「世界聖書……そういえば、昔、ボロディンに所蔵されていました。でも、帝国に譲渡したとか何とかで……詳しくは分からないですけど」
「そうだろうな。十年前、親父は世界聖書を帝国に持ち返る為にボロディンを訪れたはずだ。俺も詳細はまでは分からないけどね」
ともあれ、手紙だ。
広げて書かれている内容を確認した。
◆◆◆◇◇◇
――帝国はどんどん貧しくなっている。貴族だけが得をし、民には負担を強いては金品や食料を巻き上げていた。酷い有様に、さすがの私も頭を痛めている。
勇者として帝国の蛮行を見過ごす事など出来る筈もないが、今は『レオポルト騎士団』の騎士団長としての立場もある。そして、世界聖書の奪還を最優先にせねばならない。
早々にあの聖書を取り戻さねば、世界は滅ぶ。
あの世界聖書には、過去・現在・未来の全てが記されている。そして、その内容通りに歴史は動いているのだ。
「おい、ルドミラ! おい!」
「…………はっ?」
「はっ? ではない! お前のせいだぞ、ルドミラ。お前が僕に同行しないから、艦隊が壊滅してしまったではないか! 貴様、騎士団長のクセに役立たずすぎるだろ!」
半日前、第二皇子のブラームスが噴水に突っ込んでいた。第一皇子ワーグナーと同じような有様で。きっと、エドゥの仕事だろう。
それにしても、向こうでは一体何が起きているんだ。強力な力を持つ皇子を倒してしまうとは、第三皇子様は相当な力を持っていると察する。
「ラスティ様に敗北をされたのですね」
「だ、黙れ! 美人だからと調子に乗りおって、ルドミラ!」
「ですが、ブラームス様。貴方様は全身を骨折され、包帯をぐるぐる巻きのされた木乃伊のようですよ。もう諦めたら如何です」
「ふざけるな。あんな無能皇子ラスティに敗北したなど認めん! 僕はまだ負けていないし、戦える。次は、ルドミラ……お前を連れていく! 異論は認めん。逆らえば、お前を拘束して酷い目に遭わせてやるぞ」
ブラームスの諦めの悪さに、わたしはまた頭を痛めた。これだけ徹底的に痛めつけられ、決定的な敗北を喫しても尚、戦うのか。
そんな事よりも、今は世界情勢を憂うべきだ。ラスティ様が帝国を追放されてから、世界は傾いているというのに。
なのに、帝国貴族は民へ圧力を掛け、弾圧さえ初めているという。恐ろしい事態だ。このままでは帝国は、人々を恐怖に陥れるだろう。それはやがて、周辺諸国にも波及し――取り返しのつかない大戦争となるかもしれない。
早急に『世界聖書』を確認する必要がある。
「よ~く分かりました、ブラームス様」
「良い返事だ。ではこの後、ヒールで傷が完治したら、直ちに……」
「うるさい」
「は、はぁ!? なんだと、ルドミラ!」
「もう黙りなさい、デブ皇子。もう猫被るのも飽きたわ」
「……え。ルドミラ? お前、なんか顔が怖いぞ……」
「皇子に手を出したら、私はおしまいね」
「ま、まて……近づくな! 何をする気だ!!」
「しばらくは眠って貰うわ」
槌型の神器プロメテウスを生成召喚し、私は思いっきり振りかぶった。槌をブラームスの胴に打ちつけ――沈めた。
「や、やめ……うあああああああああああ…………!!!」
バコンとベッドごと割れて床にめり込むブラームス。多少は手加減もしたし、治療班が直に駆けつけてくるだろうし、死にはしないでしょう。
あー、ほんとシンドかったわ。でも、良い機会だった。まったく、本当の騎士団長には悪い事しちゃった。おかげで世界聖書は取り戻せるけど。
第二皇子の部屋を抜け出し、私は城の中を駆ける。聖書の保管場所は、恐らくこの城の地下にあるという『魔法図書館』の奥だ。私は向かった。