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意識が遠のいていく中で、太宰の心にはただ一つの想いだけが残った。
――もしも、もう一度中也に会えるのなら
絡みつく水の重さが、すべての苦しみや不安を静かに洗い流していく。
暗い海の底へ沈んでいく太宰の身体。それなのに、どこか安心するような温もりが、心の中に静かに灯った。
ほんの僅かな光が、視界の端で揺れている。
それは、どこか懐かしく、優しい影――
「やれやれ、こんな所まで来て何やってるんだよ、太宰。」
不意に耳元で聞き慣れた声がした。目を開くと、朧げな海の中に中也の姿が浮かぶ。
「また、お前は勝手なことをして……ほんっと、手のかかる奴だ。」
太宰は微笑む。
「ふふ、すぐ逢いに行くって決めたからね」
中也は呆れたような顔をしながらも、そっと手を差し伸べる。
水の重さも冷たさも、その手に触れた途端、すべて溶けていく気がした。
「……もう二度と、独りで行こうとするなよ。」
太宰は肩を竦め、静かに呟いた。
「もう少しだけ、このまま一緒にいようか。」
海の底に、2人だけの月明かりが差し込む。
静けさの中で、離れがたい温もりを感じながら、2人の姿はゆっくりと光の彼方へ消えていった。
✻✻
気がつくと、海風に揺れる桟橋の上。
芥川龍之介は、静かに満月を見上げていた。
数日前から行方の知れない恩師の姿を、どこかで探し続けている。
この場所も、太宰治がかつて何か意味ありげに語っていた「思い出の場所」だ。
夜の海は静まり返り、波音だけが心を揺さぶる。
ふと、海辺に小さな黒い帽子が浮んでいることに気づく。
芥川は、指先が震えるのも顧みず、それをそっと拾い上げた。冷たい布の感触と、微かに残る懐かしい香り――。
「太宰さん……これは、一体……」
月光が帽子を照らす。
涙までは流さない。けれど、胸の奥で何かが燃えるような痛みを、芥川はひとつ、深く息を呑んで飲み込んだ。
どこかで、誰かの優しい笑い声が海鳴りに混ざって聞こえた気がした。
「――太宰さん、中也さんどうか、安らかに。」
そう、小さく呟いて、芥川は帽子を胸に抱いた。
その月の光は、まるで空の彼方と海の底、両方をやさしく照らし続けていた。
✻✻
あれ?前回で終わりって言ってたよね??って自分でも思いますそらです
いや、実は私の大好きな憧れ様がこのお話しが一番好きと言ってたので書いちゃいましたÜ
調子乗ってすみません((
ではまた〜