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「 木洩れ日の奥で 」
もりょき
風が冷たくなってきた。
街の木々も少しずつ紅く染まり始めていて、季節の移ろいを感じさせる。
その日の帰り道。
校門を出たすぐの場所で 元貴はふと 足を止めた。
「 …..ねぇ、涼ちゃん。今日、ちょっと寄り道してもいい? 」
「 ん?もちろん。行きたいとこある? 」
「 ….あの、夕方になると空がよく見える公園…. 」
「 うん 」
涼架は笑って、元貴のリュックを軽く背負いなおす。
「 じゃ、僕がちゃんとエスコートするよ、王子様 」
「 …ふふ、バカ 」
弱々しくも、少し照れたような元貴の笑み。
それだけで、涼架の胸の奥がじんわりあたたかくなった。
公園にはほとんど人が居なかった。
静かな風と、虫の声
ベンチに並んで座った2人の頭上には 透明な夜空が広がっていた。
「 ……. 星、見えるね 」
元貴がぽつりと呟いた。
「 うん。すごく綺麗だ 」
「 でも….. 」
元貴は少しだけ視線を落とす。
「 僕、こうやって涼ちゃんと話してると 不安になるんだ。」
「 え? 」
「 夢みたいで、怖くなる。涼ちゃんが突然居なくなっちゃうんじゃないかって… 」
涼架はしばらく黙っていた。
でもすぐに、元貴の手をそっと握った。
「 …… そんなわけないじゃん。僕、何度でも言うよ。」
「 …..? 」
「 絶対 傍に居るって。僕が元貴の夜空になるよ。いつだって 見上げればそこにいるから。 」
元貴の目が大きく揺れた。
「 あったかい……ね。涼ちゃんの手 」
「 そっか。じゃあ もっと握ってていい? 」
「 ……うん 」
ふたりの間に、言葉のいらない沈黙が落ちる。
星が輝いていた
風が吹いた
そのすべてが、ふたりの時間を優しく包み込んでいた。
────元貴の頬に ひとしずく涙が伝ったのを、涼架はそっと指でぬぐった。
「 大丈夫だよ。今度は 泣く時も隣で泣いていいんだよ。 」
「 ……ありがとう、涼ちゃん 」
夜の空は静かだった。
けれど、その静けさは優しさで満ちていて、
ふたりの心をそっと あたためてくれた。__
#5.「 透明な夜に 君と 」
長い…。終わる気がしない