テラーノベル
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「優斗!屋上で何してんの?」
10月、寒いのか暖かいのか分からない。
昼休み。乾いた風が吹く屋上にて、人影ふたつ
「あ。」
優斗はゆっくり振り返った。
わざわざ足をひとつひとつ動かして
「なにしてんの〜?昼メシなら俺も誘えよ!」
「翔。」
目が合う。意味もなく心臓が跳ねる。
いつも自由な優斗は真顔で目の前に立つ
「きゅ、急にかしこまってどうしたんだよ」
風で髪が揺れて視界が隠れる。
暖かい
優斗は俺に抱きついていた
「…っは?!何してんの!?」
思わず突き返してしまった。
赤くなってしまった顔を腕で隠す
「び、びっくりしたあ〜……」
「…」
さっきの真顔からなにか張り詰めたような顔をしている
「ご、ごめんって!でも急にどうしたんだ?」
優斗は屋上の柵近くに歩いている
まさか飛び降りるつもり…?
「あ、危ないぞっ?」
駆け寄った時、もう優斗は柵の向こう側にいた
「おいっ!」
焦りと不安で赤みが引く
「またね」
いない
飛び降りた
声が出ない。
運良く飛び降りた下は人がほぼ通らない場所。
僕はいち早く下に行った。
だけどやっぱり飛ぶより階段で降りる方が遅くて。
「うっ」
広がる血。原型を留めていない。本当にあいつなのか?
信じたくない。信じられない。
スマホを取りだして、警察を呼ぶ。
怖かった。吐きそうだった。死体なんか初めて見た。
あいつの。親友の、死体。
あの顔なんかどこにもないただの血の塊
自分の涙が血と混ざって薄くなる。鉄臭くなった。
手っぽいとこに自分の手を置く。
「あったかい。」
サイレンの音とともに意識が遠くなる
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あれから15年。
社会人になった。あの時はずっと落ち込んでて。ほとんど動けなかった。
でも今は守るものができて、仕事も上手く進んでいる。
部下も活力があって、家に帰れば綺麗な妻と自慢の娘がいる。
「じゃ、お先に失礼します。」
「さよなら〜」
雨上がりの濡れたアスファルトの上を歩いて前を向けば白い照明の店。
水溜まりにはビルの青やらオレンジとかの光がぼけている
(今日も疲れたな〜)
繁華街を抜けると住宅街。ビルで遮られていた風が一気に吹く。
小さく身震いをする
足を少し速める
少しすると見慣れた家。
あのドアを開ければ、我が家。
ガチャ
「あ!ぱぱー!」
「ただいま、歩実。」
6歳の娘が無邪気に駆け寄る。
そのまま部屋に行き、部屋着に着替えリビングに向かう
「あら、ぱぱ。おかえりなさい。」
「ただいま。」
晩御飯が出来上がっていた。
配膳を手伝い、ご飯をよそる。自分で言うのもなんだが、理想の家族だと思っている。
「「「いただきます」」」
家族団欒が幸せ。この味もこの空間もこの時間も。
おかずをつまみながら家族と仲を深める時間。
ふとテレビに目を向ける。
『女子高校生が飛び降り自殺。』
きいぃぃいぃっと頭に音が響く
あれがフラッシュバックする。忘れていたはずのあれ。
あの赤、あの惨状。
「怖いわねぇ。歩実、学校でなんかあったら言うのよ?」
「うん!」
食べ終わる。いつもより早く。
「今日は疲れたから先寝てるよ。」
「わかった、お疲れ様。」
「ぱぱおやすみー!」
お風呂上がりの2人を横目に寝室に戻る。
翌日
良心が痛む。この子と妻を残していいのか。
すやすやと眠る妻子。俺の片手には包丁。
愛し合った2人にそれを向ける。
振り下ろす
パンが美味い。サクサクでバターがよく広げられている。
ワイシャツを着て、ネクタイをつける。腐卵臭は後回し。
ジャケットを羽織り、完成。
血が混ざる下水道と返り血が着いたパジャマは知らんぷり。
「行ってきます」
帰りとは違う道を歩く。
「おはよう。」
「おはようございます!」
いつも通りに仕事をこなす
パソコンの端にある付箋を1つ剥がす
キーボードを打ち、お茶を1口。
書類をまとめ、整理する。
部下に教え、訂正。
自分の仕事を進めてノルマを達成する
昼休み、
屋上に向かう。あいつと同じ死に方がしたい。
同じ見た目で。
下を見下ろす。人が少ない場所の上で黄昏れる。
大丈夫。このまま行けばまた会える。
あいつは自分で死んだから地獄。俺も2人を殺したから地獄。
歩実と早紀は天国に行くべき人間だ。
あぁ、会える。
ちょっとエレガントに飛んで見ようと思う。
柵の上に立って、ぴょんと。
飛び込み競技だったら金メダルを取っていただろうな
頭からだ。確実にイケる。
長い…恐怖心が芽生えてきた頃、視界が見え───────────
「〇日午後〇時ごろ、東京都〇〇区にある会社の敷地内で、性別不明の人物が倒れているのを従業員が見つけ、110番通報しました。倒れていた人物はその場で死亡が確認されました。警視庁によりますと、遺体の損傷が激しく、現時点で身元の特定には至っていません。ビルから飛び降りた可能性が高いとみて、警察が身元の確認を進めるとともに、詳しい経緯を調べています。」
コメント
3件
すきです
ああ、これ…読んでる間ずっと息が詰まるようだった。冒頭の屋上のシーンが鮮明すぎて、優斗が飛び降りた瞬間の衝撃と、15年後の日常に刺さるフラッシュバックの対比が本当に重く響いた。理想の家族を自ら壊してしまう結末への流れ、全く目が離せなかった。最終行まで希望が一切なくて、胸が潰れる思いだけど、これだけ引き込まれる物語を読めるのは贅沢な体験だよ。ありがとう。