テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ホテルで食事をして部屋に入ると、ベッドサイドのテーブルにウェルカムシャンパンが置かれていた。
「シャンパンを開けましょうか?」
彼が氷の入ったシャンパンクーラーからボトルを出すと、クーラーの淵に掛けられていた布ナプキンを上から被せて小気味のいいポンという音と共に栓を引き抜いた。
「明日は、挙式ですね。君のウェディングドレス姿を、楽しみにしています」
シャンパンを注いだグラスをチン…と合わせると、彼がそう口にして私に頬笑みを向けた。
「一臣さんのタキシードも、とっても楽しみです……」
ドレスとタキシードは、ホテルに到着する前に立ち寄ったウェディングコーディネーター提携のセレクトショップで選んでいて、当日に届く運びになっていた。
「私のことよりも、君のドレスはとても素敵でしたので、きっと式ではより映えるんじゃないかと」
私のウェディングドレスは何点かを選んで最終的に彼に決めてもらっていて、彼の方は私のチョイスしたパールホワイトのタキシードを着ることになっていた。
想像をしただけでも式での彼の正装姿はいつにも増して優美に違いないように感じられると、やっぱり気持ちが浮き立って楽しみに思わずにはいられなかった……。
──迎えた翌日、ホテルでドレスとタキシードに着替えて、チャーターのリムジンでホーエンツォレルン城へ向かった。
髪を横分けにセットをして、フロックコートタイプのロング丈の白いタキシードを身に纏い、真紅のポインセチアのコサージュを胸にあしらった彼はまさにエレガントといった姿で、まるで映画のワンシーンの中から抜け出してでも来たかのようだった。
「……綺麗ですね、智香」
リムジンの座席で手がそっと握られて、耳元で囁かれる。
「ううん…」と、首を左右に振って、「私なんかより、先生の方がずっと……」言いかける私に、
「式の主役は、貴女ですから。ドレープに白薔薇のモチーフを散りばめたウェディングドレスが、本当に似合っていて美しい」
彼が上げた髪から落ちた後れ毛を緩く指に巻き付けて絡め、耳へちゅっと唇を寄せる。
「……幸せですね。あなたと、挙式を迎えられて」
「……私もです。あなたと結婚をできるのが幸せでなりません……」
彼と過ごしてきた思い出のひとつひとつを噛み締めるように、募る愛しさのままにその頬に片手をあてると、
彼も私の片頬へ手をあてがい、互いの想いを確かめ合うように見つめ合うと、どちらともなく唇を寄せて口づけを交わした──。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!