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そして、カエンは手を差し出す。
すると、大人カナンさんは黙って向かって行く。
「カ……カナンさん……?」
少し振り返り、何か言ったような気がしたが、エネルギー玉が激しく音を鳴らし始めて聞こえなかった。
そして、その瞬間、子供のカナンは倒れてしまった。
カエンは大人カナンさんの手を引くと、またしても、何の魔法か、大人カナンさんはその場から消えてしまった。
一体……何が起こっているんだ……。
龍族の一味は何をしようとしているんだ……?
「さーて、この世界の救世主ヤマトくん!!」
僕を向くと、カエンは大きな声を発した。
「 “ショー” の時間だ!!」
カエンがエネルギー玉に向かって手を翳すと、ヴォルフとドレイクの姿は消滅した。
「な、何を……!」
そして、エネルギー玉は更に激しく膨張し、眩しい光の中で、ルークさんとガンマにその光は集まっていく。
やがて、光は収まった。
ぐったり疲れた様子を浮かべるルークさんと、意気揚々とした笑みを見せているガンマ。
そして、二人に拍手を送っているカエン。
異様な光景だった。
「何のショーなんですか……コレは……」
カエンは静かに僕に近寄る。
「異郷者の君は、七属性……いや、仙術魔法だっけ? そんなに沢山の力も操れるなんて、ズルいと思わない?」
僕の背筋は凍る。
予想が……この世界に来てから、僕の勘は鋭い。
「ルークはヴォルフの水魔法、そして水龍の加護を、ガンマはドレイクの雷魔法、そして雷龍の加護を受けた」
「それって……つまりは……」
「この二人はこの記念すべきショーにおいて、この世界の人間にして初めて、二属性魔法、そして、二属性の龍の加護が与えられたんだ」
そう言うと、高らかに手を広げた。
「おめでとう、二人とも。紛れもなく、世界初だ」
そして再び、二人に拍手を送った。
「友達のカナンも、僕の気持ちを分かってくれたんでしょう。快く僕の味方になってくれた……」
大人カナンさんの……裏切り……?
「それに免じて、君たちを逃がしてあげよう。さよなら」
手を掲げられると、僕らは気付いたら地上にいた。
「な、なんだ!? 転移!? 空間魔法!?」
しかし、僕の困惑もすぐ落ち着くことになる。
「セーカ……」
セーカは、あの忌々しい光景を見ても、ずっと涙を堪えて俯いたままだった。
一先ず、龍族の一味からカナンは取り戻せた。
僕は、龍咆銃を上空に打ち上げた。
「あの様子じゃ、追ってくることはないだろうけど、僕たちも楽園の国へ向かおう。セーカ……」
「う、うん……」
「ゴーエンや、ダンさんに会おう……?」
「うん……」
ここに来て、またも力の無さが悔やまれる。
カナンの抱っこは、傷心しているセーカに任せ、僕たちは海岸へと戻った。
しかし、そこには、またしてもルークさんがいた。
「逃がさない……ってことですか……?」
ルークさんは、いつものお気楽な空気感はなく、少し不安気な顔を浮かべていた。
「いや……ドレイクさんの妹ちゃんさ、俺は戦うこともあまり好きじゃないけど、アイツ、流石に言い過ぎだと思って。あんなことしてたの、俺も知らなかったからさ……」
そうして、言葉の出ない様子で頭を掻き毟る。
「俺はきっと怒られるだろうけど、話しておくよ、ヤマトくん。俺から少しの詫びと思ってくれ」
僕はごくりと唾液を飲み込んだ。
「俺たち龍族の一味、カエンさん、ガンマさん、風龍の加護を受けたフーリンくん、そして俺は、自然の国、楽園の国、自由の国、守護の国を、本格的に攻め落とし、まずはこの四神を殺すつもりだ」
「なん……だっ……て……!!」
龍族の一味は、もうそこまで準備を進めてるのか……?
あのショーで、属性の複数持ちが成されたとは言え、相手は七神と守護神、先鋭たちだっているのに……。
「それを僕たちに伝えて、どうしろと……」
真っ直ぐな目で、ルークさんは答えた。
「北の国、正義の国へ逃げていて欲しい。風龍の加護を受けたフーリンも、この後、岩龍の加護を受けている者から岩魔力を授かる。そして、カエンさんも元の力を取り戻すまでにまだ一週間は掛かるはずだ」
たったの……一週間……。
それに、カエンの元の力って一体……。
「俺には妹がいたんだ。人間たちに龍族の血が流れていることを煙たがられて殺された……。これは嘘じゃない。だから、そのセーカちゃんの気持ちが痛いんだ」
そして、無防備にも僕に近寄る。
「君たちとはきっと、戦う運命にあると思う。でも、やっぱりそれは、まだ、今じゃなくていいと思うんだ」
ルークさん……本当は……悪い人じゃないのか……?
でも、イカれた思想を持っているし、ヴォルフのことも生贄にしていたような光景に見えた。
「すまない、足を止めて。それじゃあ、次に会う時は本当に戦う時になる。俺は、光魔法と水魔法を使える。覚悟しておいてくれ」
そう言うと、ルークさんはアジトへ戻って行った。
分からないことだらけだが、セーカも話の中で少しずつ気を持ち直してきて、ゆっくりと待ち合わせ場所の『楽園の国』へと向かった。
「本当に君はお喋りさんだね。ルーク」
「すみません、カエンさん……。ドレイクさんが、あんな酷いことをしていたとは知らず……。昔のことを思い出してしまいました……」
ルークは、龍が祀られている小さな村で生まれた。
両親と、妹、四人で貧しくも幸せな家庭だった。
ある時、村長にルークと妹は呼び出された。
「俺たちに龍族の血が濃く残っている……?」
村長は、特別、魔力感知に鋭い人だった。
と言うことは、少なくとも両親のどちらかにも龍族の血は残っているはずだが、薄いと話す。
一番濃く血が流れていたのが、妹だった。
龍を祀っている、とは言っても、それは龍だ。
龍族の末裔は、裏切り者とされ、僕たちは小さな迫害を受け、一つ離れた住居に住んでいた。
それだけでも、幼いルークからしたら悲しくもあった。
妹は、突如隠れていた、見たこともない国の騎士に取り押さえられる。
もう嫌だ……もう嫌だ……。
そんな時だ。
「小さな子供相手に、随分と乱暴ですね」
現れたのは、黒いスーツを纏った紳士だ。
一瞬にして二人を外に消すと、妹を取り返した。
「あ、ありがとうございます……」
すると、紳士はルークの前で膝を付いた。
「私はカエンと言います。怖かったかい?」
「はい……でも、それよりも、妹を守れない、自分の弱さの方が苦しくて……」
「そうか、ならば、君に力を授けよう」
その時、村長は悲鳴を上げた。
「き、貴様が、伝書にも書かれていた厄災の王か……! 光龍の力は渡さぬぞ!!!」
そして、隠していた短刀で突き刺した相手は、ルークでも、カエンでもなく、妹だった。
一番、龍族の血が濃い妹が、龍の加護を受けることを懸念したんだろうと思う。
しかし、そこでルークの魔法は発現した。
妹が刺し殺された後、村長は血塗れに倒れていた。
「あ……俺は……人を……殺し……」
「何を悔やむ必要がありますか。彼は、妹さんを殺した大悪党。この世界は狂っている。差別、戦争、酷いことばかりに支配されている」
ルークは、カエンを黙って見つめる。
「私たちで変えましょう。この狂った世界を。天使族である貴方ならば、きっと力になれる」
これは、天使の国の端の村で、ルークが光龍の加護を受けた記憶だ。