僕たちが楽園の国へ戻ると、既にアゲルたちがいた。
「無事でよかった。仙人様たちは?」
「ディムさんが『褒美をよこせー!』と叫びながら、二人を連れて美酒の調達に向かいました」
あぁ……楽園の国に来たがってたな、そう言えば。
「僕らの方も大変でしたけど、ヤマト、セーカさん、本当にお疲れ様でした。生きててよかったです。本当に」
「おい、ヤマト! 聞いてくれよ! 龍を守る雷獣ってのがいてな、俺が倒したんだぜ!」
意気揚々と、和やかな空気を壊すアズマ。
「え!? でも攻撃魔法使えないよね?」
「なんか、アゲルから光槌っての貰って、岩魔法で封じ込めてやったんだ!」
岩魔法で封じ込めた……?
でもそうだ。こっちも似た現象が起こった。
「こっちの方も、セーカがカナンと同じ炎魔法の弓を放って攻撃できたんだ。大人カナンさんが何かしたとは思うんだけど……」
僕たちは互いに起きたことの情報交換をした。
そして、当然議題は分かれることとなる。
「絶対に戦争を止めるべきだ」
「いいえ、一刻も早く正義の国へ向かい、雷神の加護を受けるのです。それがヤマトの使命です」
二属性二龍加護を受けた二人。
それに、ルークさんが光魔法、ガンマは闇魔法。
ガンマさんの幻影魔法は、神の目すら欺ける。
そして、能力未知数の龍長 カエン。
アゲルは七神の力なら大丈夫と言うが、実際にあの光景を見てしまっては、どうしても不安が過る。
この国の人たちにはお世話になった。見過ごせない。
「ヤマト、いいですか。貴方の使命は……」
「アゲル、提案がある」
珍しい僕の目線に、アゲルは向き合う。
「僕とアゲルの二人で正義の国へ行って、雷神の加護を渡してもらう。そして戦争も止める」
「カナンちゃんにセーカさん、アズマのことはどうするんです……?」
あの龍族の一味を見ていて感じたことがあった。
僕たちの旅に同行するには、もう荷が重い。
だから、
「ゴーエンに頼んで鍛えてもらうんだ」
「たった一週間ですよ……?」
「たった一週間……されど、一週間だぜ」
そこに、棍棒を携えたゴーエンが現れた。
「ヤマトたちが来る前に、アゲルから話は聞いた。だからちょいとコイツを持って来てたんだ」
そう言いながら、棍棒を振り回す。
「その棍棒は? ダンさんの物に似てますけど……」
「アズマって野郎の武器にする」
「はい……?」
この世界では、かなりレア……と言うより、特別な人間にしか扱えない能力がある。
それが “魔力付与” と言うものだ。
本来、人間には等しく、一つの属性魔力しか潜在的に存在しないが、武器に属性を付与させることで、武器からのみ、その属性魔法を発動することができる。
「で、なんでアゲルはその能力使えるの……」
まあ、アゲルには謎が多いし、制限がまた解除されたんだろうと思いつつも訊ねた。
「もう分かっていると思いますが、岩の神に会ったことでまた少し制限が解かれたんです。ずっとヤマトに渡していた “光剣” と言うのは、光魔法 トレースと言い、『誰かの魔力の一部を武器に付与する』と言う能力です」
「なるほどな。今までは自分の光魔法を付与した光剣しか出せなかったけど、岩の神 カズハさんに会ったことで、力の一部の属性魔力を付与できるようになったってことか」
自分でも徐々に、この世界の魔法への理解が早くなってきているのが分かった。
「はい。この属性魔法の付与は、七神の皆さんであれば出来ますが、多用は出来ません。自分の魔力をそのまま渡すわけなので、その間、膨大な魔力消費となるのです」
だったら自分で鍛えるべし……と言ったところか。
「それで……なんでゴーエンはその “棍棒” を持ってきたんだ……?」
アゲルはニタリと笑うと僕を見遣った。
「ヤマトが言い出しそうなことなんて、もう読めてますので」
僕が『アゲルに従って正義の国へ行く、その代わりに他のパーティメンバーの強化』を言い出すことすら予見していたってことか……。
まあでも、それなら話は早い。
「一週間しかないんだ。直ぐに向かおう」
「 “仙術魔法 神威” ……ですよね」
そう、アゲルはこのことも読んでいた。
僕がアゲルと “二人で” と言ったのは、仙術魔法 神威で移動する為だ。
このことまで読んで、ゴーエンに修行の手配済みだったのだ。
「ゴーエン、後のことは任せました」
「おう! 行ってこい! めちゃくちゃに強くしておいてやるからよ!」
頼もしすぎて、僕はゴーエンの訓練は受けたくないな……。
「アゲル、想像できるレベルの情報をくれ」
「分かりました。まずは雪山を想像してください」
雪山……。富士山とかでいいのかな……。
「それでは、五重の塔を想像してください」
五重の塔……前に修学旅行で行ったな……。
「は!? 五重の塔!?」
「いいから、雪山に五重の塔です! もうこの想像だけで十分に行けますから!」
雪山に五重の塔……おかしな風景にしか見えない。
でも、アゲルが言うならきっと本当なんだ。
“仙術魔法 神威”
「寒いですね」
防寒対策を忘れていた。
と言うより、本当に富士山みたいな雪山の横に、五重の塔と、日本の歴史に出て来そうな瓦屋根の家が建ち並んでいた。
「なんだこの国は……これもう日本だろ……」
「ちゃんと正義の国ですよ。前にも話しましたが、バベルは元々日本から来ているので、こういう歴史が好きな七神が作り上げたのでしょう。ほら、後ろに国の門が……」
そして、アゲルが指を差すと、
「侵入者だー!! 捕えろ!!」
僕たちは、正義の国の兵士たちに取り囲まれていた。
「ま、待ってください! 僕たちは雷の神に会いに来ただけなんです……!」
しかし、兵士たちは聞く耳を持たなかった。
「ヤマト、ここは素直に従いましょう。正義の国、その名の通り、兵士に危害を加えてしまったら、それこそ牢獄行きになってしまいます」
アゲルは耳元で僕に囁いた……が、
「アゲル、何か言いたいことはあるか?」
「予想外でした」
僕たちは、不法入国で牢獄へと入れられた。
「一週間しかないんだぞ! 早く雷の神に会わないと!」
「不法入国だけで牢獄に入れるほど、セキュリティの厳しい国ではなかったんですが……」
僕たちは、それぞれ別々の檻に入れられた。
その為、壁越しに背を合わせて話している。
暫く、何もない空間で、何もない時間を過ごすと、人は考えることを放棄し出すのだろうか。
「アゲル、光魔法 オーバーをしてくれ。その間に、僕が炎魔法 ラグマでこの檻を破壊する。そして雷の神に直ぐ会おう……」
「ヤマト、落ち着いてください。そんなことをすれば直ぐにまた牢獄戻りです。それに、何かおかしいんです。兵士が話を聞かなかったこともそうですが、雷の神は正義を重んじる神……まずは補給係が来たら事情を話しましょう」
しかし、補給係に事情を話しても、彼らは門兵と同じように、全く話を聞くことはなかった。
そして、早くも一日が経過してしまった。
「壁を破壊しよう」
「ここは地下牢ですよ」
「全員を岩神魔法で動きを止める」
「守る為の力じゃなかったんですか……?」
正義の国へ入ったと言うことは、このビリビリと殺気立つようなエネルギーが雷属性のエネルギーだろうか。
なんとなく、強力な攻撃魔法の予想がする。
と言うか、雷魔法は強力な攻撃魔法がいい。
「ハァ……。このまま一週間経ったらどうする……?」
すると、アゲルは隣の檻からガサガサと物音を出した。
「よし、そろそろですかね。僕が何も考え無しに閉じ込められているわけないじゃないですか。雷の神には会っていないので力は弱いですが、正義の国へ入ったので、僕はまた魔法の制限が解けたんです。お披露目しま……」
そう、アゲルがキメていた瞬間だった。
バコン!!
大きな音が鳴り響き、
「な、な、なんだ……!?」
僕の頭上には大きな穴が開き、僕の目の前には大剣を構えた水色の長髪の女の子が立っていた。
「見つけました。殺します」
そして、僕に大剣を突き付けた。
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