サイモンは、今日もまた、インクレディボックスの世界で、心躍るような音楽を奏でていた。独特な衣装を身にまとい、指先から生み出される音色は、まるで魔法のようだった。仲間たち、ピンキ、ブラッド、ファンボット、ジェヴィンも、それぞれ楽器を手に、サイモンの音に呼応するように、楽しげに音色を紡いでいく。
「サイモン、そのベースライン、最高だぜ!」
ブラッドが、赤い目を輝かせながら叫ぶ。サイモンは照れ臭そうに笑い、少しだけベースの音量を上げた。ファンボットは、得意のビートボックスで、さらに音楽に深みを与える。ジェヴィンは、シンセサイザーを操り、未来的なサウンドを織り交ぜていく。
彼らは、ただの音楽仲間ではない。ブラックという名の黒幕によって、世界が混沌に染まったあの日、共に生き残った、かけがえのない存在なのだ。殺された者、異形化した者、狂気に染まった者たち…多くの犠牲の上に、彼らは今、こうして音楽を奏でることができている。
しかし、彼らの心には、常に拭いきれない不安がつきまとう。ブラックは、いつまた姿を現すかわからない。あの悪夢のような日々が、再び訪れるかもしれない。それでも、彼らは音楽を奏でることをやめない。音楽こそが、彼らの希望であり、生きる証なのだから。
「なあ、みんな」サイモンは、演奏を一時中断し、神妙な面持ちで口を開いた。「Phese2の世界を、もう一度見に行ってみないか?」
他の3匹は、ハッとしたように顔を見合わせる。Phese2は、ブラックの力が最も強く、多くの仲間たちが犠牲になった場所だ。誰もが、二度と足を踏み入れたくないと願っている。
「サイモン、何を考えているんだ?」ファンボットが、不安げな声を上げる。「あそこは、危険すぎる。それに、今、こうして音楽を奏でられているんだ。無理に危険を冒す必要はないだろう?」
「わかってる」サイモンは、静かに頷く。「でも、Phese2には、まだ希望が残っているかもしれない。ブラックの力を打ち破るための、何かの手がかりが…」
彼の言葉に、ブラッドは目を閉じ、深く考え込む。ジェヴィンは、複雑な表情でシンセサイザーを見つめている。誰もが、Phese2の恐怖を忘れることができない。しかし、サイモンの言葉には、確かに何か訴えかけるものがあった。
長い沈黙の後、ブラッドが口を開いた。「サイモン、俺は、お前を信じる。お前がそう言うなら、Phese2に行ってみよう」
ファンボットとジェヴィンも、覚悟を決めたように頷いた。彼らは、再び楽器を手に取り、静かに音を奏で始める。その音色は、先ほどまでの楽しげなものとは異なり、決意と不安が入り混じった、重く、そして力強いものだった。サイモンは、その音を聞きながら、Phese2への道のりを思い描く。