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この世界に

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2023年08月02日

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こんな世界、なくなればいいのに。


そう思ったのは、いつからだろう。










桃 『つかれた…な…』




美しい海を目の前にこんな言葉をつぶやく俺は、きっと俺を知らない誰かにさえ嫌われるのだろう。


俺を知る人にも、俺を知らない人にも嫌われる人生なんて、もういらない。

























ある日突然、いじめられるようになった。


前日の夜まで共に騒いだやつも、一言も話したことのないやつも、こぞって俺を無視し、嘲笑った。


なんでいじめられるようになったかなんて、考えもしたくない。


だけど、聞いてしまった。




『桃、2組の女子犯したらしいぜ』
























その言葉を聞いた瞬間、俺は全身が凍りついたように動かなくなった。


あんなに褒められた声も、出せなくなった。



「そんなことしてない」。



そう言えたら楽だったのだろうか。


そう言えたら、信じてくれただろうか。


…いや、きっと信じてなどくれない。


誰も、俺の味方などいないのだから。



























無視、嘘の噂、陰口。


慣れてくればそれくらいなら耐えられた。


でも、少し狂ったやつにまで噂が届くと、突然俺の元にやってきて、暗くて狭い倉庫に連れ込まれ、そいつはこう言った。



『お前にも、同じことしてやるよ』




























何もしていない俺は、なんのことかもわからなかった。


ようやく理解したのは、壁に押し付けられ、腕を上に上げられた時だった。



桃 『やめてっ…』



そんな小さな俺の願いは、通じるわけなかった。




























腕は縛られ、足も柱に括られ、声も出せない状態で数時間放置された。


もちろん、ただ放置されるわけではない。


下は脱がされ、中にはどこから持ってきたのかわからないおもちゃを入れられた。





























ようやく帰ってきたと思えば、そいつまで脱ぎ始め、逃げることもできず、強制的に性交させられた。



桃 『ん”っ…/ん”んぅっ…/ポロ』



何もかもが怖くて、それでも感じてしまう自分の体も嫌で、思わず涙が溢れた。



























何時間が経ったのだろう。


意識を何度も飛ばされ、ようやくそいつは自分のものを俺の体から抜いた。


縄を解き、口につけたガムテープを剥がすと、倉庫のドアを開け、去り際にこう言った。



『せいぜい反省しろ』



「やってない」なんて言葉は、考えることすらできなかった。




























次の日から、俺は学校にさえ行けなくなった。


また同じことをされたら。


もっと酷いことをされたら。


そんな不安ばかりが俺を埋め尽くし、外に出ることも怖くなった。



だけど、今日は。


今日は、死ぬために外に出たんだ。


だから。



桃 『さよなら…っ、』


? 『ちょっと待ちな』



突然腕を引っ張られ、咄嗟に後ろを振り返る。



桃 『へっ…?』

? 『何してんの』



まるで知り合いかのように話しかけてくるそいつは、車椅子に乗り、腕にはまだ点滴が打たれていて、見るからに病人だった。



桃 『お前には関係ないだろ…っ、』

? 『“お前”じゃなくて、“赤”ね?』

桃 『知らねぇけど…っ、』

桃 『お前…病人だろ、』

赤 『やっぱりバレちゃう?笑』

桃 『バレるっていうか…、』

赤 『ちょっと病院から抜け出したくなっちゃってさ〜』

赤 『もうちょっとで見つかっちゃうから手短に行きたいんだけど』

赤 『名前は?』

桃 『桃…っ、』

赤 『ここで何してたの?』

桃 『別に…っ、』

桃 『死のうとしてただけだし…』

赤 『そっか』

赤 『きっと…死にたくなる理由があったんだね』

桃 『…!』

赤 『まあ…俺は生きててほしいけどね』



遠くから「赤さ〜ん」という声が聞こえてくる。



赤 『やべ、迎えきちゃった』

赤 『暇だしさ、病院着いてきてよ』

桃 『は…?』

赤 『いいからいいから』



赤はそう言うと俺の手を車椅子に置き、「押して?」と当たり前のように言い放った。





























赤 『いきなり話しかけてきた上に病室に連れてくるなんておかしいやつって思ってるでしょ』



病室に着くと、大人しくベッドにいるように医者に言われた赤はベッドに転がりながらそう言った。



赤 『俺ね…もう死ぬんだ』

桃 『は…?』

赤 『余命宣告されてんの!あと半年!』



なぜ明るくそんなことを言えるのか、俺には理解できなかった。



赤 『あと半年くらいさ、自由にさせてくれてもいいじゃんね〜』

赤 『まあでも俺は死なないけど笑』

桃 『…?』



言葉の意味に限らず、もはや赤の言葉は俺には全く理解できなかった。



赤 『だってさ、余命より長く生きる人っているんだよ〜!』

赤 『病気を治しちゃう人もいる!』

赤 『だから俺は余命なんて気にしないんだ』

赤 『…でもさ』



今まで明るかった赤の声色が変わった。



赤 『悔しいの』

赤 『…もし俺が本当に宣告通り死んだとしたらさ』

赤 『もしさっき桃くんを止めなかったらさ、』

赤 『俺は生きたいのに…』

赤 『桃くんは死んでたわけでしょ…?』

桃 『…、』

赤 『そんなの…おかしいじゃん、笑』

赤 『なんで生きたい人は死ぬの…?』

赤 『なんで死にたい人は生きるの…?』

赤 『おかしいよ、笑』

赤 『こんなの間違ってると思わない?、笑』

赤 『間違ってるよ…、』



俺は何も言えなかった。


その通りだと思ってしまった。


なんと声をかければいいのかも、わからなかった。



赤 『だからさ…生きてほしい』

赤 『俺と、一生の友達でいるために』

桃 『…、!』



“一生の友達でいるため”。


赤にとってこの言葉がどれだけ重い意味なのか。


きっと、俺には計り知れない想いが詰まっていることだけは想像できた。



赤 『約束ね』

桃 『うん、』



俺がそう答えると、赤は安心したようにふわっと微笑んだ。


その姿は、余命宣告されているとは思えないほど強く、美しかった。































あれから、俺は3日に一度程度で赤に会いに行くようになった。


学校こそ行けていないが、“死にたい”なんて赤がいる前で言うことも思うこともできない。


もはや赤のために生きていると言っても過言ではなかった。



赤 『桃ちゃ〜ん』

桃 『調子は?』

赤 『ん〜まあまあかな〜』



目を逸らしながらそう言う赤。


お互い、本当は気づいている。


赤の体がどんどん細くなって、上手く動かなくなってきていることに。


だけど、赤は生きるから。


そう言ったから。


お互い、いつも通り振る舞っている。



桃 『ならよかった』

赤 『今日は?何したの?』

桃 『ゲームだよ』

赤 『またあのゲーム?笑』

桃 『別にいいだろ何してたって』

赤 『はいはい笑』



くだらなくて、どうでも良い話を笑いながら話す幸せを、俺はすっかり忘れていた。


でも、赤と出会って、その幸せにもう一度触れることができた。


気づくことができた。


だから、俺は毎回同じ言葉を退室する時に口にする。



桃 『ありがと』




































数日後、俺のスマホに一本の電話が入った。



「赤の容体が急変した」



そう聞こえた時には、俺の足はすでに病院へと向かっていた。




















桃 『赤っ…!』

赤 『はっ…はぁっ…桃…くん…』

桃 『生きるんだろっ!まだダメだっ…!』

赤 『ふっ…ふぅっ…んーん、…』

桃 『…なんでっ、』

桃 『俺っ…赤がいなかったら生きる意味ない…!』

桃 『赤がいないと…っ、』

赤 『桃…ちゃん…』

赤 『俺が…っ、最初に…会った時に、言ったこと…っ、』

赤 『…覚えてる、?』

赤 『「俺は…っ、生きててほしい」』

桃 『…、ポロ』

赤 『俺がいなくても…っ、生きてよ、』

赤 『俺の代わりに…生きて…』

赤 『俺と一緒に…生きて…』

赤 『俺と…一生…友達でいて…っ、』

桃 『わかった…わかったから…っ、!ポロ』

赤 『よかっ…た…』

赤 『幸せに…ね……….』

桃 『赤…?赤っ…!ポロ』

赤 『…………』



静かに目を瞑った君の顔は、誇らしげに見えた。














































赤との別れから数ヶ月。


俺はまだ、この世界に生き続けている。


今日はなぜか急に思い立ち、赤と出会った海にやってきた。



少し歩くと、数ヶ月前俺が自殺を図った場所に青い髪が揺れているのが見えた。



桃 『ねえ、』



「何?」と冷たく返す君。


まるで自分を見ているようだった。



桃 『何してるの?』



そう聞くと、「別に何してても良いでしょ、」とどこかで聞いたことのあるセリフが返ってくる。



赤との別れは、あまりにも突然で、あまりにも儚くて、あまりにも残酷だった。


だけど、こんな残酷な世界でも生きる価値があると知ったのは、紛れもなく赤のおかげで、赤がいなかったら、今頃こんなふうに話すこともできていなかっただろう。



今度は、俺が救う番。


これから君に話すことは、あくまで赤の真似事でしかない。


それでも。


この世界にはまだ希望が残っていること。


生きるのは簡単ではないこと。


生きることが、生きていることがすごく幸せなこと。


赤という、強くて素敵な人がいたこと。


全部全部、知ってほしいから。


こちらを振り向いた君に、俺は少し息を吸って話し始めた。




























「この世界は、少しの希望と大半の残酷でできててね」




















それから…
























「この世界に、その少しの希望を信じて生きた強くて明るい、素敵な人がいたことを知ってほしいんだ」

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