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夜。
ベッドに入って、イヤホンを耳に入れる。
流れてきたのは、やっぱりあの曲。
目を閉じる。
あの日の公園。
ライブハウス。
ステージの光。
そして一一あの言葉たち。
『わからなくていいんだよ』
『あとから正解になる』
『怖いのにやる人は強い』
胸の奥に、静かに積み重なっていく。
「….また会えるかな」
ぽつりとこぼす。
でも今は、前みたいに”待つ”だけじゃない。
(会えるように、動く)
そう思えた。
窓の外では、夜の街が静かに光っている。
あの日と同じようで、少し違う景色。
美咲はイヤホンの音に身を委ねながら、ゆっくりと目を閉じた。
答えは、まだ遠い。
でもーー
その途中は、もう怖くなかった。
むしろ。
少しだけ、楽しみになっていた。
そして次の日。
また新しい”こっちがいいかも”が、きっとどこかで待っている。
翌週。
朝の空気は少しだけ軽くて、春の終わりを感じさせる匂いがしていた。
教室の窓際。
美咲はスマホを机の中でそっと握りしめていた。
(今日、来るかも)
あの面接から、ちょうど三日。
「結果は連絡する」と言われてから、ずっと落ち着かないまま過ごしていた。
黒板の前では先生が何か説明している。
でも、ほとんど頭に入ってこない。
ーーそのとき。
ブブッ、と小さく震える感覚。
心臓が跳ねた。
(来た)
授業中だということも忘れて、そっと画面を見る。
“着信:〇〇ライブハウス”
一瞬、時間が止まる。
(どうしよう)
出るべき。でも今は授業中。
迷いは、ほんの一秒。
(あとから正解にするんでしょ)
あの言葉が、背中を押した。
美咲はそっと手を挙げる。
「先生、すみません。ちょっと体調が…」
我ながら下手な言い訳。
でも一ー「大丈夫か?保健室行ってこい」あっさり通った。
(よし)
教室を出た瞬間、すぐに通話ボタンを押す。
「….はい!」
少し息が上がった声。
『もしもし、この前面接に来てくれた美咲さん?」
「はい…!」
一瞬の沈黙。
世界の音が遠くなる。
『ぜひ、来てもらいたいと思ってます」
ーーー
「…..え?」
理解が追いつかない。
『もしよければ、うちで働いてもらえませんか?」
その言葉が、ゆっくりと胸に落ちてくる。
(受かった….?)
「….はい!」
気づけば、声が弾んでいた。
「よろしくお願いします!」
電話の向こうで、優しい笑い声。
『最初は簡単なことからでいいからね。シフトの説明もするし、一度来てくれる?』
「はい、行きます!」
通話が終わる。
スマホを握ったまま、廊下に立ち尽くす。
「…..受かった」
小さくつぶやく。
その瞬間。
一気に現実感が押し寄せてきた。
「やば..ほんとに…」
じわじわと、嬉しさが広がる。
同時にーー
(ここから、始まるんだ)
少しだけ怖さも、戻ってくる。
でも。
(怖いのにやる人は強い、でしょ)
ふっと笑う。
教室に戻ると、由奈がすぐに気づいた。
「美咲!?どうしたの!?」
小声で詰め寄ってくる。
美咲はこらえきれず、にやけながら言った。
「….受かった」
「え!?!?」
声を出しそうになる由奈の口を、慌てて押さえる。
「ちょ、静かに!」
でも、二人で顔を見合わせて一ー
無言で、ガッツポーズ。
その瞬間、すべてが少しだけ現実になった。