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コウカに関する情報を知り終えた私が視線を上げるとミーシャさんがこちらを見つめていた。
「どうやらちゃんと見えたみたいね。なら今度はワタシを鑑定してみてくれる?」
「はい、《鑑定》……あれ?」
言われたとおりにしてみるが、さっきのように頭の中に情報が流れてくることはない。
「やっぱり、魔物……それもスライム限定の鑑定と見てよさそうね」
先程告げられたミーシャさんの推測が事実だと分かった。だがこれはさすがに使いづらくはないだろうか。
私は思ったことをそのまま、彼に告げてみる。
「あまり使い道がなさそうですね……」
「まあまあ、そういうこともあるわよ。でも他のスキルは強力そうよ? 《以心伝心》と《継承》……って聞いたことがないスキルだけれど……」
「あっ、それなら私、分かるかもしれません。時々、コウカの意思のようなものが伝わってくることがあるんです。どうやらコウカも同じみたいで私が伝えたいと強く思ったことを理解してくれているみたいで……」
思い当たることがあったのでそれをミーシャさんに伝えてみた。
これには彼も大層驚いているみたいだ。
「それって本当? そんなスキル、世界中のテイマーが欲しがるものじゃないかしら」
「世界中のテイマーって……そんなにですか」
「テイマーにとって、従魔との意思疎通は重要な課題なのよ」
やっぱり、相手の言葉が分からないと戦うときとかも大変なんだろうな。
……そうだ、あともう一つのスキルについても話さないと。
「あと《継承》というスキルなんですけど、さっきコウカが持っているスキルの情報として《ストレージ》や《翻訳》の情報が伝わってきたんです」
「……どちらもユウヒちゃんが持っているスキルね。ということは従魔にもその契約主と同じスキルを与えるもの……はぁ、もう想像以上にすごいスキルばかりで呆れるしかないわね」
そう言ってミーシャさんは苦笑する。
「限定テイマースキルのマスタースキルだから強力なスキル持ちだとは思っていたんだけどね」
限定テイマースキルとは何だろうかと疑問に思った瞬間、それに気づいたジェシカさんが補足で説明してくれる。
「特定の種族限定のテイマースキル。ユウヒさんの場合はスライムですが、そういったスキルに付随するスキルはテイム対象が限定されていないものに比べると強力なことが多いんです」
「なるほど……」
正直な話、スライム限定ってどうなのだろうかと思っていたが、付随スキルで考えると結構すごいスキルらしい。
女神様がどこまで考えてこのスキルを贈ってくれたのかはわからないが、スライムと出会うことを見越していたのだとしたらすごいことだ。
「これに《ストレージ》まで付いてくるんだから、凄すぎよ。……そうだ、せっかくだし《ストレージ》の使い方も覚えておきましょうか。ジェシカ、ワタシはユウヒちゃんに《ストレージ》の使い方を教えるから、その間に魔力値測定用の魔導具を取って来てもらえる?」
「はい、わかりました」
ジェシカさんは頷くとカウンターの裏の扉に入っていった。
《ストレージ》というのは多分、何もないところに物を入れたり、取り出したりできる魔法のようなものを想像しているが果たしてどんなものなのだろうか。
「《ストレージ》は異空間を作って魔力を通せば、そこに生物以外の物を容量次第という制限があるとはいえ、何でも収納できるとても便利なスキルよ。このスキルは後天的には取得できないと言われているとてもレアな物なの。風の派生属性である空間魔法を使えば、似た物を作り出せはするけどね」
どうやら、大体私の予想していた通りのものらしい
「《ストレージ》の使い方はとっても簡単。ワタシも《ストレージ》持ちだからお手本を見せるわ。少し離れた場所から見ていてね」
そう言われた私は3歩ほど後ろに下がる。
そして、瞬きをした一瞬の後にミーシャさんの手には彼の身長くらいはある大きな槍が握られていた。
「えっ」
「ふふ。こんな風に物を取り出すのは頭の中で取り出したいものを思い浮かべて、少し魔力を流してあげるだけ。逆に収納する時は、収納したいものに魔力を流す……とこんな風に」
そう言ったミーシャさんの手に握られていた槍が、出てきたときと同じように一瞬で消える。
「すごい……」
「簡単でしょ? ほら、ユウヒちゃんもこれを使ってやってみましょう」
ミーシャさんが懐から鈍い銀色の硬貨のようなものを取り出して、私に差し出してくる。
このままでは受け取れないので、私は腕に抱いていたコウカに一旦カウンターの上に乗ってもらい、彼の手から硬貨を受け取った。
「……あの、魔力を流すってどうすればいいんでしょうか」
「あなたほどの年齢になって魔力を使ったことがない、ということはそうないはずよ。胸の内から何かが溢れ出す感覚、覚えはないかしら?」
その言葉でとある記憶が掘り返されると共に納得する。
確かに私は森の中で狼に襲われていた時に胸の中から何か温かいものが溢れ出す感覚を覚えていた。あれが魔力だったんだ。
「どうやら、思い当たる節があったようね。その時の感覚を思い出してみて」
私は自分の内側に意識を向け、あの時の感覚を思い起こそうとした。
そこで胸の内で温かい感覚が燻っていることに気付き、それを手の中に握りこんだ硬貨へ向けるようにイメージする。
「ふふっ、上出来よ。手を開いてみて」
「わっ、本当に……」
私の手の中からは硬貨がすっかりと消えていた。
「次は取り出す練習ね。漠然としたものでいいから密閉された広い空間を思い浮かべてみて。《ストレージ》の中に入っているものがわかるはずよ」
目を閉じた私は今いるこの空間とは別の空間をイメージする。大きな部屋のような空間だ。
すると、頭の中に先ほど《ストレージ》に収納した硬貨が浮かんでくる。
今度はその頭の中の硬貨に魔力が流れるようにイメージし、そのまま手の上に持ってくる。
その瞬間、手に僅かな重みが感じられたため、そっと目を開けた。私の手には先ほど《ストレージ》に収納した硬貨がある。
「……できた」
本当に魔法を使ったんだという実感が湧いてきて、感動でそれ以上の言葉は出てこなかった。
「よくできました」
しばらく硬貨を眺めていたが、そこでコウカがこちらをジッと見ていることに気付いた。
「あっ……ごめんね、コウカ」
カウンターの上のコウカを抱きかかえようとして、手の中の硬貨が邪魔であることに気付く。
これは借り物だし、早くミーシャさんに返したほうがいいだろう。
「ミーシャさん。これ、お返しします。ありがとうございました」
「いいわよ。それくらい、貰っちゃいなさいな」
「いえ、そんな……理由もないのに貰えません」
「理由なら、珍しいものを見させてくれたからではダメかしら?」
「でも……」
「もう、年長者からの親切は何も言わずに受け取る事よ。わかった?」
「あ、はい……ありがとうございます」
結局、押し切られてしまった。
一方的に貰ってばかりだと、なんだか落ち着かない。まあ、もう受け取ってしまったものだからありがたく貰っておく。
ボロボロのブレザーの中でも比較的無事だったポケットの中に硬貨をしまい込み、その代わりに手の中へはコウカを収める。
なんだか、まだコウカと出会ってそんなに時間が経ってないのにこの状態が一番落ち着くようになっているな、なんて思いながらギュッと抱え込む。
しかしこうやって抱え込んでもスライムって身動ぎ一つしない。そういう種族なのだろうか、それともコウカがそういう性格の子なのか。
そんなことを考えていると、カウンターの裏のドアが開き、中からジェシカさんが重そうな水晶を抱えて戻ってきた。
「ふぅ、お待たせしました。これが魔力値測定用の魔導具となります。ユウヒさん、こちらに触れていただけますか?」
私は言われた通りにコウカを片手で抱え直した後、ステータス確認用の水晶の代わりに置かれた水晶に触れる。
「わっ!?」
水晶から光が発せられたと思ったらそれがあっという間に膨れ上がり、私は反射的に目を瞑った。
「うぉっ!?」
「何だよ、これ!?」
ギルド内のあちこちで悲鳴が上がり、軽いパニック状態になる。
「ユウヒちゃんっ! 水晶から手を放しなさい!」
ミーシャさんの声が聞こえて、私は慌てて手を離した。
すると段々光が収まってきたので、ゆっくりと目を開く。まだ目がチカチカするが、ギルド内も少しずつ元の様相を取り戻しつつあるようだ。
取り敢えず、まずは謝るべきだろう。
「ミーシャさん、すみませんでした」
「まさか……なことは……」
「……ミーシャさん?」
「え? ……あぁ、予想のできなかったことだし、謝らなくたって平気よ。今、ここにいる冒険者たちにとってこれくらいはある意味、慣れっ子みたいなものでしょうし」
そう口にしながらもミーシャさんはまた考え込んでしまったが、大丈夫なのだろうか。
「びっくりしましたね、まさかこんなことになるなんて」
「はい、本当に。ジェシカさんもごめんなさい。……他の皆さんも、すみませんでした!」
いくら気にしていないとはいっても迷惑をかけたのだから、謝るに越したことはない。
だが興奮はしていても本当に怒っている人はいないみたいで、文句の一つや二つ飛んでくると覚悟はしていたが何もなかった。
「それにしてもユウヒさん、すごい魔力量ですね! あれほどの光は、今まで見たことありませんよ。……しかし、あれでは属性が分かりませんね。私は白色の光に見えましたが、ミーシャさんはどうですか?」
「そうね……ワタシも白に見えたわ」
私にも白い光に見えた。
魔力値測定用の魔導具は色で属性を判断できると言っていたので、彼らの発言から判断すると白色に該当する属性がないということだろう。
「他の色がどの属性に該当するのか聞いても良いですか?」
教えてもらったところによると、まず属性は火、水、地、風、光、闇の6属性が存在する。
そしてそれぞれ火は赤色、水は青色、地は茶色、風は緑色、光は黄色、闇は紫色で発光するらしい。
今回の私の光は白色だったので、どれにも該当しないというわけだ。
「属性が分からないと、やっぱり不便とかあるものなんですか?」
「そうですね。魔法を発現させるためには構築した術式に魔力を落とし込む必要があります。しかし属性が分からないと術式そのものを作る事ができません」
「つまり魔法が使えない……」
「……そういうことになりますね」
魔法というものへの憧れが強かったので、これは結構ショックだった。
でも魔力がないわけではないはずなので、何か方法があるのだと思う。そう信じさせてほしい。
「……魔力が多すぎて、正確に測れなかった可能性もあるわ」
「そのような事例は聞いたことがありませんが……」
「あら、あれだけ光ったものも見たことがないでしょう? ならあり得ない話ではないわ」
だから――と、ミーシャさんが私に顔をグッと近づけて言う。
「ユウヒちゃんの属性を調べるために、今からワタシとマンツーマンでレッスンしましょ」