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二人のすれ違いが程よく出ていて最高です…泣 ほんの少し距離が縮まっていそうな雰囲気が甘酸っぱくて良すぎます…!!rbさんの切ないシチュエーションも良すぎます…こういうストーリー大好きです…泣 本当にありがとうございます…!
注意
キャラ崩壊、捏造、学パロ、転生系?、何でも許せる方向け。 晒し行為はお控えください。
リクエストで、前世ヒーローだった頃の記憶があるrbさんと前世の記憶がないruさんの学パロです。
解釈違いだったら申し訳ない。
窓からオレンジの光が差す。周りのクラスメイトの話し声、シューズの足音、席が引かれ擦れる音が鳴り合って、だんだんと時計は放課後へ進んでいっていた。
「小柳くん、一緒に帰りませんか?」
ただぼぉっと窓の外を眺めていると、物腰柔らかな声がかかる。目線を向ければ、立っていたのは最近転校してきたクラスメイトだった。
不思議なオーラを発していて、顔は美形だが、周りに人が寄ってこない。コイツがいれば人払いになる、なんて考えて小柳は無言で席を立った。
「小柳くんは好きな教科とかあります?」
「………ない」
「そうですか。」
小柳の斜め後ろを歩く星導は、先程から学校に絡んだ他愛のない質問をするが、会話が広がらない。なのでいつも小柳が一言返せば、そこで終わってしまう。
「好きな部活は?」
「ない。」
「へぇー…」
一体何がしたいんだと、小柳は思う。自分でいっちゃ何だが、自分は面白くない人間だと思っている。こんな奴と一緒に帰って何が楽しいんだか。
こっちは日頃の喧嘩で寄ってくるチンピラが、今日は寄ってこないから得では有るけれど、星導はどうして自分と帰りたいなどと思ったのだろう。
「…学校は好きですか?」
即答出来ない質問だった。学校も担任やら委員長やらがウザいけど、家にずっといるよりはマシだ。逃げ場所と考えればそう悪くもない。
「………普通」
「好きと嫌い、どっち寄りですか?」
先程通りなら、へぇーとかそうなんですねって言って終わっていたのに、今回は食い下がらなかった。ちゃんと断言しなかったからなのか、面倒だなと小柳は眉を潜める。
「何でそんな事教えてやらんといかん。」
「別に良いじゃないですか、言いふらしたりしませんよ。」
そういう問題じゃない。小柳自体、そんな全てのものに 好きか嫌いかと区別した事は無いから、普通と答えるのが正解で他にでる言葉が無かった。なので、彼を突き放す。シンプルに語彙が出ないと伝えるのは、何だが恥ずかしい気がしたからだ。
「言いふらすとか ふらさないとか、そんなんじゃなねぇよ。ただ単にお前の事が嫌い寄りなだけだ。」
「…………そうですか。残念。」
残念、なんて言っても彼の口元は笑っていた。
初対面の時、星導は俺を見るなり興奮気味に近づいてきた。それが気持ち悪くて、 距離をとった。が、それでもアイツは度々一緒に帰ろう、一緒にお弁当を食べようなんて言ってきて。ただ、初対面の時よりは気持ち悪い雰囲気はなくなって、いつまでも付きまとって来るから仕方なく一緒に過ごしていた。
「小柳くん、一緒にお弁当食べませんか?」
「今日は購買。」
「じゃあ、俺も付いていきますよ。」
まるで雛鳥のように後ろを歩いてくる。
購買に行って、人が少ないベンチに行って、二人並んでそこで昼食を食べる。
パンの袋を破いた時、ふと星導の手元に何もない事に気付いた。
「お前、弁当は?」
「…作ってきたのに忘れちゃったんです。」
そうミスをした時のようなの苦笑いをする。ふーんと言って、それだけで終わらそうとした。忘れたのは自分の落ち度だからと、そう一つパンを齧ろうとした時、じっとこちらを見る視線が何だが落ち着かない。
「……お前、こっち見るのやめろよ。」
「美味しそうだなぁ。」
「……」
期待を込めた視線がうざったくて、溜息を吐いて、手に持つパンをぐっと星導に押し付けた。
「あれ、全部くれるんですか?」
なんて嬉しそうに言う彼に、無言で返す。そっぽを向いてベンチの肘掛けに肘を付いてグラウンドを眺めていた。
ふと、視界端に何かうつる。
「半分こしません?」
視線を向けると、星導が蔓延の笑みで半分に千切ったパンを差し出している。
「………どーも」
元々、自分のパンなのだから礼は要らなかったかも知れない。けれど、パンをぶっきらぼうに受け取って一つ齧った。口角は無意識的の内に少し上がっていた。
何だかんだ一緒に学校生活を送る事が増えてきて、友達なんて呼べる奴は一人もいなかったが、星導はそれに該当するんじゃないだろうかと最近思い始めた。
数週間たったある日、いつも通りに星導が一緒に帰ろうと言ってきて、小柳はそれに無言で席を立つ。
夕焼けをぼんやり眺めながら下校通路を歩いた。相変わらず、星導はいつも半歩下がって小柳の後ろを付いていく。ふと、俯きがちだった星導が顔を上げる。
「小柳くんは、好きな人とかいます?」
思わず、立ち止まった。何だ急にと言わんばかりに、顔を顰めて振り返る。
「いるんですか?」
「……いねぇよ」
「え〜? 本当ですかぁ〜?」
肩に掛けていた鞄を振り下ろす真似をすれば、冗談ですよ!と裏返った声で言う。フンと鼻を鳴らして、前を歩く。
「……小柳くんは…」
まだ何かあるのかと、振り返って星導を睨む。逆光が雰囲気を作り上げる、軽く笑って、 笑う姿が何処か寂しそうで、思わずどうした。と声を掛けそうになった。
「早く、彼女とか作ったほうが良いですよ。」
「………は?」
柔らかく、彼は笑った。その時、何となく悔しかった。何で悔しいのか1ミリも分からなかったけれど。アイツに馬鹿にされた気がしたからか、それともほんの少し突き放された気がしたからか。
「小柳くんの彼女って、どんな人なのか全く想像つきませんけど。」
冗談めかしに言いながら、星導は歩き出す。小柳の横を通っては、振り返って早く帰らないんですか?なんて言う。小柳は煮え切らない感情に蓋をして、再び歩き出した。
今やもう遥か昔の事。俺達はヒーローをしていた。平和になりきった世界にはもうヒーローなんて存在していなくて、誰もヒーローがいた時代なんて覚えていない。
ただ、星導は覚えていた、と言うより思い出したのだ。山脈に分けられていた二つの島に名を轟かせていた八人のヒーローの事、前世の自分の記憶、家族のように思っていた四人のチームの事を。
思い出した瞬間、どう仕様もなく虚しい気持ちが溢れ出した。思い出した所で、自分の傍にはもう7人の誰もいなくて、人外だった時の記憶が人間を信用出来ずに周りから孤立した。
両親の仕事の都合で引っ越す事が多く、転校をしてはまた馴染めず、その繰り返し。ただ、ある日高校生になって始めての転校した時の事。
「転校生の星導ショウくんだ。皆、仲良くするように。」
「よろしくお願いします。」
そう軽く微笑んで告げる。担任はえー…と呟き、クラス全体を見渡して空いている席を見つけるとそこを指さした。
「星導の席は、小柳の隣だ。」
一瞬、足が止まる。が、すぐに歩き出した。昔の知り合いに名前が一緒だったから、少し戸惑って、自分の席に着くと隣の席を見る。見れば、青髪の少年が顔をうずめて居眠りをしていた。
髪色が、完全に小柳ロウそのもので。ただ顔が見えなくて、まだ断言するには早かった。
休み時間中、担任に書類を渡しに行って教室に帰る途中、またあの青髪を見つけた。
「……小柳くんっ。」
恐る恐る、彼の名前を呼んだ。すると、彼はゆっくりと振り返って顔を見せる。
瞬間、頭の片隅に押し込んでいた記憶がぶわりと広がって、次々についはしゃぎたくなるような感情が溢れた。顔も風格も何もかも明らかに小柳ロウで、彼が今そこに立っていた。
「小柳くんだっ! やっぱりそうだっ!」
小柳くん! 小柳くん! 小柳くん!!
そう言いながら彼の傍に寄った。彼は目を見開き、半歩下がる。相手が引いているなんて、ハイテンションになった自分には分からず、どんどんと距離を縮める。彼は困惑を残した顔で、めいいっぱい俺を睨んだ。
「誰だ、お前。」
シンと脳の底が冷えた。誰だ、なんて言われてしまう。その瞬間理解する、彼はヒーローだった頃の記憶がない。
「………貴方、他校でも有名な不良少年らしいじゃないですか。本物だぁってついなっちゃって。」
「なんだ、お前も俺に果たし状を渡しに来たのか?」
「いえいえ、俺はそんな野蛮な事しませんよ。」
興奮は一気に無くなって、冷静に軽く笑って、先程聞いたばかりの情報を言い訳に使う。それでも、おかしな奴と言う印象を与えてしまった。
ヒーローの頃、彼の傍にいると何だが懐かしい気持ちがした。それが好きで、彼にすり寄って、一緒のチームに入った。彼の剣術は大したもので、よく彼の周りには彼を尊敬する信者じみた人間がわんさかいた。普通に尊敬できて、頼りになって、それであって不憫で面白い。そんな彼を、何処か好いていたのだろう。
ただ、今や彼はただのつまらない人間になってしまった。けれど、人間になったのは彼だけでなく、自分もだ。
彼が白狼だから好きだったのか、彼が記憶を失う前の自分を知っていてくれたから好きだったのか、そもそも彼の存在自体が好きだったのか、もう分からない。
人間と言うカテゴリーに入ってしまえば、一人で生きていくのは困難で、誰かと共に生きていくのが最良の判断と言える。しかし、脳みそだけが人外の俺は人間を信頼する事が出来ない。
元から百億年間ずっと、人間はただの観察対象で好きも嫌いもなかった。今更、あの七人以外の人間達をどうやっても好きにはなれないだろう。
「小柳くんは早く彼女とか作ったほうが良いですよ。」
「……は?」
もういっその事、小柳くんに全て話してしまおうかなんて考えるが、きっと信じられずもっと距離を置かれるのがオチだ。
きっと彼は、人間の人生をちゃんと歩んで、俺から見れば同じ顔ばかりの中から一人選んで、素敵な将来を描いていくだろう。
それならば、俺はただ その行く末を見届けていたい。それが俺の、一番最高な人生なんだ。