ガルーナ村を発つ日の早朝。
外はまだ暗いが、今日中に鉱山都市ミラエルツまで進むべく、早朝のうちに出発する予定だ。
朝食は宿屋にお願いして、早めに作ってもらっていた。
かなりの早朝なのに本当にありがたいことだ。
「はぁ……。やっぱりここのご飯はお腹に染み渡りますねぇ……」
温かいスープを飲みながら一言。
「ここのスープは優しい味がしますよね。
あの……おかわりお願いします」
エミリアさんは食堂の人におかわりを求めた。
よく食べることがバレてから、普通にたくさん食べるようになったのはご愛嬌か。
「……それにしてもエミリアさんって、たくさん食べる割にはスタイルが良いですよね」
「それは多分、お祈りで力を使うからかと……!」
……え、そうなの?
頭を使うと糖分をたくさん使う……みたいな感じなのかな?
「それにしても、今日でガルーナ村とお別れかー。
でもいつかはクレントスに戻る予定だし、そのときはガルーナ村にも寄りたいね」
「そうですね、そのときには活気が少しでも戻っていれば良いのですが」
「……その頃はもう、わたしはご一緒していないんでしょうね。
そう考えると寂しくなってしまいます……」
エミリアさんはおかわりのスープを飲みながら、しんみりと話した。
いつのことになるか分からないのに、そう思うのは少し早すぎなのではないだろうか。
「――エミリアさんも私たちと旅をしますか?」
それならと、冗談半分で提案してみる。
ルークと二人旅っていうのも良いんだけど、どうしても彼に負担がいってしまうからね。
別に急ぐ話ではないけど、旅の仲間は他にも欲しい……というのが正直なところだった。
「……いえ、すいません。
わたしは信仰を深めること、広めることに人生を捧げたいんです。
アイナさんの旅がそれでしたら良かったのですが――」
「あー、はい。そういう旅じゃないですからね」
私の旅の目的は『神器を作る』こと。
神様が作ったかのようなものを人間が作る。
考えようによっては、それは信仰とは真逆の価値観を示すのだ。
「それじゃ、エミリアさんとは王都までですね。
それでもそれなりの期間になると思いますが、よろしくお願いします」
「はい、こちらこそ。
一緒にいる間はわたしもアイナさんのことをしっかりサポートしますので、何かあれば仰ってくださいね!」
……というわけで、エミリアさんが一時的に仲間に加わったんだけど、食費や旅費は私が負担させて頂こう。
特に明言はしないけど、さっさとそんな空気にしてしまうのだ。
でもそうすると、予定以上にミラエルツで稼がないといけないかな……。
うーん、稼ぎ口はあるかなぁ……。
「さて、エミリアさんが食べ終わったら行きましょうか」
「あ、はい。あと5分くらいお待ち頂けますか?
すいません……もぐもぐ」
はい。
……これはこれで、何故だか癒されるなぁ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
宿屋の外に出ると、外はうっすらと白み始めた頃だった。
村はまだ静寂に包まれて――
「おはようございます、アイナ様」
――いなかった。
外で出迎えてくれたのは村長のランドンさん以下、大勢の村人たちだった。
「ランドンさん? おはようございます、一体どうしたんですか?」
「いえ、当然のことながらお見送りをさせて頂こうかと思いまして」
「えっと……後ろのみなさんも?」
「はい、もちろんです」
ランドンさんの後ろにいる村人たちに目をやると、たくさんの人と目が合った。
思い返せばここにいる人たち全員を診ているから、つまりは全員と話をしたことがあるんだよね。
……そう考えると、何だか感慨深いものがあるなぁ。
「皆さん、お見送りありがとうございます。
これからも旅を続けていきますが、この村にもまた戻ってきますので、どうかお元気で――」
「アイナ様、本当にありがとうございました」
「絶対にまた来てくださいよ!」
「美味しいものを作って待ってますから!!」
「ルークさん、お世話になりました!」
「エミリアさんは俺の嫁!」
村人はそれぞれに挨拶をする。
ルークやエミリアさんに対する挨拶も、当然ながら含まれていた。
うん、この村でみんなよく頑張った!
本当に、本当に色々なことがあったよね――
「……アイナ様!」
「あ、セシリアちゃんも来てくれたんだ? 眠くない?」
「大丈夫です! あの、ガルルンのことは任せてください!
できるだけ早めに作って、届けてもらいますので……!」
「うん、ありがとう。でもそんなに急がないで良いからね。
初めが肝心だから、クオリティ優先で!」
「はい、分かってます!」
セシリアちゃんと私は、ある意味では仲間なのだ。
そう、ガルルンブームを起こすという数少ない仲間……!!
「あ、そうそう。ジョージ君はまだ眠いみたいなんですけど――」
セシリアちゃんが後ろに目をやると、母親に連れられたジョージ君が立っていた。
いつもより元気がなさそうだけど……いや、これは元気がないというか、眠いだけか。
「ジョージ君も来てくれたんだね、ありがとう」
「ううん? アイナ様、大丈夫~。……むにゅむにゅ」
くっ、萌え殺す気か!
基本的に、私は子供に弱い。従って、こういう状況には心を射抜かれてしまうのだ。
「すいません、アイナ様。
この子がどうしても、アイナ様にお伝えしたいことがあると言って」
「伝えたいこと?」
ジョージ君の母親とやり取りをしていると、ジョージ君ははっとした顔をした。
ようやく、眠気を振り払うことができたようだ。
「あの、アイナ様! みんなを助けてもらって、本当にありがとうございました!」
あ、うん。それはもういいんだよー。
そんな感じで、私はジョージ君に笑顔を向ける。
「そ、それであの、ボク、アイナ様のこと、本気ですごいなって思って!
だから、あの――」
うん?
「ボクもいつか、アイナ様みたいな錬金術師になりたいって……、そう、思ったの!」
……おお。
錬金術、すごく良いよ!
私は神様からもらったスキルがあるから苦労はしていないけど、でも、人を救える凄い技術だよ!
「うん……ジョージ君、ありがと。
そう思ってくれるなら、私もとっても嬉しいや」
ジョージ君の前にしゃがみ、目を合わせながら頭を撫でてやる。
表情が犬っぽくて、何だか可愛いなぁ。
「待ってるからね。いつか、錬金術のお話をしようね」
「うん、絶対だよ! ボク、頑張るから!」
最後にジョージ君の頬をひと撫でしてから立ち上がる。
「それでは、そろそろ行きますね。本当に、お世話になりました!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ルークとエミリアさんを連れ立って、村の門から外に出る。
最初に来たときも、この門を通っていたなぁ。
そのときは、人っ子ひとりいなかったんだよなぁ。
赤い旗が掲げられていたけど、それももう無いなぁ。
……私がここに来たのは、無駄じゃなかったなぁ。
「うん、死に掛けたけど、良い滞在だったよ」
誰ともなしに、呟いてみる。
「はい。それに、木彫りの置物も手に入りましたしね」
ルークもまた、同じように返事をする。
「あはは、そういえばそうだね。
しかもタダでもらっちゃったしね。うん、すっごく得したよね!」
私とルークは、目を合わせて笑い合った。
しかしエミリアさんは、当然のように付いてこれない。
「え、どういうことですか? わたしにも教えてください!」
「そうですね! それじゃ、どこからお話しましょうか。
うーん、ルークが大蛇と戦ったところからいきますか!」
「何ですかそれ! 聞きたいです!」
「アイナ様、変な脚色はしないでくださいよ……?」
「あはは、大丈夫、大丈夫!
それじゃお話しますね――」
……ここからは二人旅ではなく、三人旅。
どんな冒険が待っているのかな?
今はまだ、それは誰にも分からないわけで――
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