時間は昼前、11時くらい。
天気も良くて、のんびり歩くにはとても良い陽気なんだけど――
「グルウウァアアアアッ!!」
「行かせるか! ハァッ!!」
……現在、戦闘の真っ最中です。
ヴィクトリアが使役していた従魔……アーデルベルトよりは小さいものの、見た目は似たような狼の魔物。
そんな魔物が群れで現れたため、出会ったときはアーデルベルトとは違う恐ろしさを感じてしまった。
「ルークさん、いきます! ホーリー・エンチャント!!」
エミリアさんが魔法を唱えると、ルークの身体をうっすらとした白いオーラが纏った。
「ありがとうございます!
アイナ様のこと、よろしくお願いします!」
「お任せください! パージング・フィールド!」
次に唱えられた魔法は、私とエミリアさんの周りにうっすらとした白い場を作り出す。
「わぁ、すごい。
エミリアさん、この魔法は何ですか?」
「これは敵の攻撃力を削ぐ聖魔法です。
アンデッドや悪魔に対してはかなりの効果が出るのですが、それ以外の魔物でも結構効くんですよ」
「へー、なるほど~」
戦闘中なのに、どこかのんびりとした私。
正直なところ、自分の身を護ることしかやることが無い。
戦っている魔物たちは、今はルークを集中攻撃しているし――
……私はエミリアさんみたいに、他の人を支援できるスキルは持っていないからなぁ。
ああ、でもエミリアさんだって、支援が終われば積極的にやることなんて――
「シルバー・ブレッド!!」
「ギャワンッ!?」
……あ、攻撃魔法もお持ちだったんですね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
全ての魔物を倒し終わると、ルークが駆け足で戻ってきた。
「ルーク、お疲れ様!」
「ご無事で何よりです。大したことはありませんでしたね。
エミリアさんも、支援をありがとうございました」
「いえいえ、あれくらいしかお役に立てませんが。
お怪我もあまりされていないとは思いますが、一応……。ヒール!」
エミリアさんが魔法を使うと、淡い光がルークを包み込んだ。
おお、リアルなヒールだ!
ゲームでよくあるやつだ!
……って、あれ?
回復までこなしちゃうの? 私の存在意義は!?
――って、私は歩くポーションじゃないから、これで良いんだよ。うん。
「でも、エミリアさんは攻守ばっちりな感じでしたよね。
ルークは攻撃型だし。私は役立たずだけど」
「そういえばアイナさんって、魔法は覚えていらっしゃらないんですか?」
「はい、まったく」
それを聞いて、エミリアさんは不思議そうに私を見つめる。
「……え? 何かおかしいですか?」
「いえ、高度な錬金術には魔法が普通に関わってきますので……。
何かしらは使えると思っていたのですが」
……すいません。
錬金術に魔法が必要でも、私の場合はその工程をすっ飛ばしちゃう気がします。
「それに、その杖――」
エミリアさんは、私の杖に目を移す。
「これですか?
クレントスで、身体を治してあげた方から頂いたものなんです」
アイーシャさんからもらった杖。
道中ではしっかりと使わせてもらっているのだ。……転ばないように、だけど。
「へぇ~……。
こんなに高価なものを頂いたなんて、さすがアイナさんですね……」
「え? そんな高価なんですか?」
「はい。材質もとても良いものですし、魔石スロットが5つもありますし。
高レベルの魔法使いでも、持つのが難しそうな杖だと思いますよ」
……うん? 魔石スロット?
「すいません、魔石スロットって何ですか?」
「えっ!?」
「エミリアさん、アイナ様はそういったことをご存知ないところがあるので……」
とっさにルークのフォローが入る。
情けない部分もあるけど、正直ありがたい。
「そ、そうなんですね……。
それにしてもアイナさんって、不思議な方ですよね。そういえば、どういった方なんですか?」
おっと、そこを聞いてしまいますか。
……まぁ、むしろ私の正体を知らずによく一緒に旅立ったな、と思うところもあるわけだけど。
でも、『異世界から転生して来ました』なんてルークも知らない情報だからね。
そもそもルークにだって、伝えていない話が色々とあるわけだし――
「……ねぇルーク。
アレ、見せちゃった方が早い?」
「そうですね……。
エミリアさんなら大丈夫だと思いますし、それが良いと思います」
「え? アレって何ですか?」
私は早速、鞄の中からアレを取り出した。
「はい、エミリアさん」
「何ですか?
このカード……って、これ、もしかして――」
「はい。いわゆるアレです。プラチナカードです」
「え、ええぇ!? アイナさん、そういう感じの方だったんですか!?」
……どういう感じですかね?
「というわけで、これ以上の詮索は禁止です!
今後はただの錬金術師だと思ってください!」
「そういうわけです。エミリアさん、よろしくお願いしますね」
「は、はい……。いえ、想像以上のものを見せて頂きました……。
見たのは二度目ですが……」
「あ、見たことはあるんですね」
「聖堂の上層部の方で持っていらっしゃる方がいるのですが……。
そうですね、分かりました。もう何も伺いません!」
「はい、それでお願いします。必要があればお話しますので」
私はにっこりと微笑む。
でも、転生のことを説明する機会なんて来るのかな?
そんな機会が来るとしたら、そのときはきっと何かが起きていそうだよね。
「――それで、魔石スロットって何ですか?」
「あ、はい。えぇっとですね……。アイナさん、ここが見えますか?」
エミリアさんは、私の杖の半ばくらいの場所を指差した。
よく見れば、何やら小さな穴が5つ開いている。
そしてその内の3つに、透明な石が埋まっていた。
デザイン的には、5つ全部を埋めた方が良いと思うんだけど――
「……石が3つ、埋まってますね。あとの2つは空いてますけど」
「はい、その穴が魔石スロットです。
それで、この透明な石が魔石です」
「なるほど? つまり魔石スロットは、魔石を入れるための穴なんですね。
それで、魔石っていうのは?」
「いろいろな効果を持つ魔法の石です。
魔物の体内で作られたり、魔力の集まるところで生じるのですが――。
……アイナさんは鑑定スキルをお持ちですし、効果は調べた方が早いと思いますよ」
「なるほど。それじゃ、ちょっと見てみますね」
えーっと、この宝石3つを鑑定ー!
──────────────────
【空箱の魔石(小)】
重量を15%軽減する
──────────────────
【空箱の魔石(小)】
重量を15%軽減する
──────────────────
【空箱の魔石(小)】
重量を15%軽減する
──────────────────
……おっと、全部同じものだった。
そういえばこの杖、見た目よりも軽いとは思っていたけど、この魔石の効果だったのかな?
15%が3つで、45%軽減でしょ? 計算上、半分くらいの重さになっちゃうわけだし。
「3つとも、空箱の魔石……の、小でした」
「え? ……良いものを入れていますね……」
「長旅を見越したアイーシャさんの配慮でしょうか。さすがです……」
「えーっと? そんなに良いものなの?」
私の言葉を受けて、エミリアさんは思い出しながら答える。
「そうですね、ひとつ金貨10枚くらいでしょうか。
結構、人気があるんですよ」
「……金貨、10枚」
「はい、持ち物が重いと疲労が溜まりやすくなりますからね。
長旅をする方で欲しがる人は多いんです」
「……なるほど。
ところで、これって取り外したりは出来るんですか?
それと、普通に売っているもの?」
この質問には、ルークが答えてくれる。
「取り外しは可能です。
売っている場所は……冒険者ギルドとか、雑貨屋などが一般的ですね」
へー……。
割と、手に入りやすいものなんだね。
「自分の欲しいものを選べるなんて、組み合わせを考えるのも楽しそうですね。
それで、二人は何を入れているんですか?」
「「いえ、買うお金が無くて……」」
……悲しい台詞が、二人見事にハモってしまった。
まぁ、お金が無いんじゃ仕方がないか……。
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