テラーノベル
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「大森さん?」
物思いにふけっていると
運転手さんの声が聞こえた。
「あっ、はい」
「着きましたよ」
え、もう?
考え事をしていたら、あっという間に
家に着いていたようだ。
「ゎ…すみません、
ありがとうございました」
いそいで車から降りる。
次はリモートでの会議だ。
それが始まる前に確認しなきゃいけない
書類があるんだっけ?
ぱっと腕時計を見ると21:30を指していた。
会議は22:00から。
やばい。間に合わない。
僕は小走りになりながら
慌てて自宅に向かった。
家の前に着くがはやいか
がちゃりと乱暴に開錠し、
ドアの隙間から身体を滑り込ませる。
部屋に入るなり、鞄を適当に投げ捨て
書類に噛み付いた。
いくら時間が迫っていたとしても、
書類の確認を適当に済ます訳にはいかない。
僕は視線を
紙面上の活字の上を滑らせるようにして
文字を 読み取っていく。
超集中だ。
数十分後、最後の一文字を読み終えた。
すぐに時計を確認すると、
21:50
を指していた。
ぎりぎりセーフ、
間に合った。
すぐリモートの用意しなくちゃ。
そう思い、手早くPCを起動させていると
…がやがや………わー!…きゃー!………
PCが動き、処理を進めるノイズを
かき消すように、そんな音が聞こえてきた。
はぁ…またこれか…………
人が騒いでいる声。
たぶん、僕の部屋の下の人たち。
いわゆる、「騒音被害」的なやつだ。
もちろん、防音のマンションだし
すごくうるさいってわけでもないんだけど…
朝方まで続くことが多いし、
やっと寝れたときに
音で目が覚めてしまうこともある。
正直、やめて欲しいな…
なんて思ってしまう。
あ、もう時間になっちゃう
よし、切り替えて会議だ。
僕はキーボードを叩き、リモート会議に
ログインした。
「遅くなってすみません」
今回の会議は、RingoJam設立記念
のサプライズについて。
前々から色々と考えていたこともあって、
順調に進んでいった。
「あの、大森さん…」
話し合いが一区切り着いたところで、
スタッフさんから声をかけられた。
「なんというか…その…… 」
「大森さんの周辺、 すごい雑音が
するんですけど……大丈夫ですか、?」
え?
慌てて周りの音に耳をすませた。
う……何この声……………
あまりのうるささに僕は思わず
耳を覆った。
覆ったとて尚、
とてつもなく大きな
叫び声が何度も何度も鼓膜を揺らす。
「すみません……一旦ミュートしますね…
全然、進めてもらっていて構わないので」
このままでは会議の邪魔になってしまう。
迷惑かけるわけにはいかないし、
しょうがないよね……
「え……でも…」
「平気です、落ち着いたら戻ってきます……」
僕はそう言い残してPCを閉じた。
僕は、手持ち無沙汰に楽器をいじり始めた。
まぁ、こんなうるさい中じゃ
殆ど聞こえないんだけど。
静かになるまでは何もできないなぁ…
気は進まないけど、落ち着くまでは
しばし待機になりそうだ。
そう思い、僕はソファーに身体を
投げ出した。
ところが、数分経っても
騒ぎは一向に収まる気配を見せなかった。
収まるどころか、
だんだんと激しさをましていく。
騒いでいるにしても
普段、こんなにもうるさいことなんかない。
何かあったのかな?
そんなことを考えていると、
最近休めていなかったせいなのか
とてつもない睡魔に襲われた。
会議………まだ…終わってない……
寝ちゃだめだ…寝ちゃだめ………
そんな必死の抵抗も虚しく、
瞼が重く下がっていく。
僕は未だ収まらない騒ぎの中、
深い眠りに落ちた。
どれほどの時間が経ったのだろう。
何かが焦げたような匂いが鼻につき、
僕は目を覚ました。
「…………何…?」
匂いの方向を探り、
目をやると、そこには…
赤く燃え上がる炎と、 どこまでも黒い煙が
こちらに 迫ってきていた。
え…?…何……火事………?
「逃げなきゃ………っ」
僕は反射的にそう思い、
玄関に行こうと足を踏み出した。
「………………あっ……」
その瞬間僕の頭にあるものが浮かんできた。
とても__とても大切なものが____。
取りに行かなくちゃ…….。
あれを置いて逃げたら、僕にはもう
何も残らない。
僕は、進行方向を無理やり変え、
できる限りの最高速度で家の奥へと
走り出した。
僕は急いで、それでありながら
慎重に「それ」を手にした。
しかし、玄関へ戻ろうとしたところで
とてつもない速さで向かってくる炎に
行く手を阻まれてしまった。
どうしよう……どうすれば………
このままじゃ僕は……………
そう迷っているうちにも、
煙がもくもくと床を這いずり
僕を包み込んでいく。
「……っ……………」
煙を吸ってしまったからなのか、
だんだんと視界が薄れ、
頭が回らなくなってきた。
____バタン。
遂に耐えられなくなった僕は
意識を手放し膝から崩れ落ちた。
しっかりと
大切な大切な「それ」を抱えたまま___。
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コメント
1件
あー、これめっちゃ怖いやつや……! 最初は騒音トラブルかと思ったら、いつの間にか火事に巻き込まれてて、しかも「大切なもの」を取りに戻ってそのまま倒れる展開がエグすぎる。あの煙と炎の描写がリアルで、読んでるこっちまで息苦しくなったわ。主人公の、会議をミュートにしてまで周囲に気遣う優しさも印象的。続きが気になりすぎるんだけど、まさかここで終わり?!